第10話

          一章


       マリちゃんとドライブ


          その③


 「こういう奥がキツいコーナーは慌てず軽くブレーキ当てて少しハンドル切り込めばキレイにだな、


ってオーイ聞いてるかー?」


 「は〜い聞こえてま〜ふ。よ、酔ってなんかいまひぇ〜ん…はうぅクラクラしまふぅ〜」


 ダメだこりゃ。グデングデンじゃないですか。

一滴も呑んで無いのに酩酊状態のマリがなんとか会話を維持しようと電池切れの子猫の様に船を漕ぐ。

アレから結構抑えて走ったつもりだったが走り屋ビギナーにはキツかったか。チラリとメーターを見ると燃料がエンプティーに近くなっていた。つい興が乗って高回転回したからなぁ。コレだからタンク容量少ない国産は困る。そろそろ弐狼を回収しに行くか。何処かで迷子になってたら面倒臭いなぁ。放っとけば野生に返るかも知れないけど、駆除されたりしたら流石に心がチクっとするしな。


 自販機広場に戻って来ると、一台のスポーツカーが止まっていた。シルバーが眩しい新型のトヨタ86。

 どうやら夜景を見に来たカップルの様だがベンチで弐狼とじゃれ合っている。俺は急いで駆け寄り


 「あっ、すみません!ウチの駄犬が!服とか汚されてませんか?」と声をかける。すると男の人が


 「いえ、大丈夫です。飼い主さんですか?金色の毛並みなんて珍しいですねー。それに凄く賢いし。おやつあげると色んな芸をしてくれて面白い子ですね。」


 「ええ、まあ一応種族は人間なんで。あまり賢く無いんですが餌と女の子に目が無い奴なんです」


 「人間…?あっ良く見たら確かに!なんで犬だと思ったんだろう…?」


 人間と認識したとたん女の人が後ずさる。


「噛んだりしないんで大丈夫ですよ。コイツ狼憑きなんで初見だと人間扱いされにくいんです。おい、弐狼!オマエあれだけ言ったのにまた餌せびりやがって!迷子になって無かったのだけは褒めてやるけど、他人ひとに迷惑かけちゃダメだとアレほど」


 「なんだよ!ナカナカ帰って来ないオマエが悪いんだろ!自分ばっかマリちゃんとイチャイチャしやがって!別に俺からおやつねだった訳じゃねーし、くれるもん貰って何が悪いんだよ?オマエ全然おやつくれねーじゃん親友の癖に!」


 「悪かったな、じゃあバトンタッチだ。思う存分イチャイチャしてイイぞ。マリちゃん先生〜!宜しくお願いします!遠慮なくやっちゃって下さい!」


 「不甲斐ない人達ですね。下がってて下さい。弐狼さんはわたしが、って言いたい処ですがごめんなさい。なんか弐狼さんが分身してて今のわたしでは勝てそうに無いです。」


 フラフラと助手席から出て来たマリちゃん先生をヒョイッとお姫さまだっこしてベンチに連れて行く。そのまま膝枕して状態異常の回復を見守った。弐狼に自販機で冷たい水を買って貰いマリの額に当てる。


 「はわ〜コレは夢ですか〜?幸せすぎてマリちゃん成仏しちゃいそうです〜男の人にこんなに優しくして貰ったの初めてかも。ワガママばかりでごめんなさいです」


 「そのワガママを聞く為に俺たちが居るんだぜ〜?

協力者なんだから何でもやっちゃうぜ!

金がかかるのは太助の仕事だけどな!」


 トコトン厚かましい弐狼がいつもの安請け合いを発揮し俺に丸投げする。いい加減コイツにも入札価格と言うものを教育する必要があるな。美味しいトコだけ中抜きしやがって。


 「あの〜、そちらの方ひょっとして幽霊ですか?なんか何処かで見覚えが在るようなんですけど」


 女の人がマリの顔を見つめてあっ!と


 「オバケのマリちゃんだ!ネットで随分話題になってるよ。鎮静化してたファンの人達があんた探して活発化してるみたいよ。見つかったら本部アジトに連れて行かれて御神体にされちゃうから気を付けて!」


 「御神体って何すればいいんですか?怪人とか戦闘員を使って街に繰り出してヒーローと戦うんですかね?

毎回負けて覚えてなさい!次こそはってお約束もちょっと憧れるんですが」


 「おいそこ!しれっと闇墜ちしようとするんじゃない!天国に行けなくなるぞ。俺も幇助や共犯で地獄行きコース直行は流石に御免だからな!」


 「わたし最近思うんですけど天国ってそんなにイイトコなんですかね?イマイチ将来性のあるビジョンが見えて来ないです。地獄はアトラクションがいっぱいで見どころ満載なのに不公平な気がします。」


 なんだか成仏からどんどん遠ざかりつつある幽霊少女に不安を感じる。


 ステータス異常から回復したマリがポケットから直径3センチくらいのボールの様な物を取り出し投げると、弐狼がダッシュで追いかけキャッチする。何故かそのままマリの元へ駆け寄り、また別の方向に投げられダッシュする。女の子達とキャッキャウフフ出来て本人は満足そうなのでそっとしといてやろう。


 86のお兄さんが俺のMR2を眺め


 「この車結構手が入ってるねぇ。上手く仕上げられてて僕も参考にしたくなるね。君がカスタムしたのか?」


 「いや、コレ最近中古で買ったんですよ。カスタムは前オーナーのセンスです。でも俺の走りの好みには合ってます。当分このままでもイイ感じですね。そちらの86もかなりイイと思いますよ。」


 「いや僕のはまだまだこれからなんだ。マフラーとホイール、足回りをやっとってトコかな。元々のスタイルがいいからちょっと下げるだけでも映えるのが自慢かな。でも彼女が嫌がるから余り派手には出来ないし中身重視でコツコツやってくよ。」


 話しが通じる相手につい盛り上がって時間が過ぎてしまう。ふとベンチの方を見るとあっちはあっちで「ウェーイ」とか言ってお姉さんがスマホで写真を撮っている。なんかマリの写真写りが良く無いみたいでがっかりしている様だ。俺とお兄さんはお互いの車をスマホで撮って、また会えるといいな。と手を振り見送った。


 「太助ぇ〜腹減った〜ラーメン!今日こそ特製ラーメン食べるぅ〜!」


 ひっくり返ってバタバタ暴れる弐狼をコイツ放っぽってマリとラーメン行っちまうかと呆れたが、まあ約束だし俺も今日はラーメン気分だ。と、そこで気付いた。マリちゃんどうしよう。この車二人乗りだし、もうすっかり仲間な女の子を置いて行くわけにはいかない。マリがエンジンフードをじっと見つめている。

だからソコはダメだっての!う〜んと考えて俺はポンと手を叩く。

 

 「なあ幽霊って取り憑く事も出来るんだよな?弐狼の中に入れるか?」


 「やった事無いですけど多分イケると思います。でも弐狼さんの中、かなり深い部分先客の方がいますけど追い出されないですか?」


 「そんなのいいって!マリちゃんならいつでもウェルカムだぜぇ!さあ!」


 いやらしい笑いを浮かべ躙り寄る弐狼に


 「やっぱりヤです!太助さんがいいです!」


と、運転席の扉を開け車に閉じこもってしまった。


 「俺は運転手だから生命力奪われるのは困るんだよ。弐狼は憑かれ慣れてるから大丈夫だ。お友達も居るし案外居心地イイかも知れないぞ?ラーメン食べたいだろ?」


 うう~ラーメン、と呟きながらドアを開け降りようと足を出すと、またもや捲れたミニスカートからパンツが見えてしまった。思わず視線を反らしごまかすがバッチリ目が合ってしまう。


 「コリャまたけっこう!豪華な前菜ゴチっすマリちゃん!」


 デリカシーの装備スロットを全く持たない弐狼がマリの前にお座りして特等席で絶景を確保する。


 「ああっ!また見ましたね!二度も見た!お父さんにも見られた事無いのに!」


 スカートの前を押さえマリがキッと弐狼を睨む。


「ソレを甘ったれだと言うんだ!パンツを見られもせずに大人になる奴がドコに居る!」


 「そうなんですか?大人の女になるためならわたし…」


 マリがスカートをたくし上げようとするのをマッハで止めた。


 「バカの言う事を真に受けるんじゃ無い!コイツはただパンツ見たいだけだ」


 「そんなにパンツが好きなら自分のを見てハッスルすればいいじゃないですか…」


 ガックリとうなだれるマリ。


「それが出来ればとっくにやってる!マリちゃんはいい!そうやってただパンツを見せれば済むんだからな」


 「別に好きで見せてるんじゃ無いですよぉ…だってミニスカートの方がカワイイじゃないですか。動きやすいし、みんな似合ってるって褒めてくれるから…」


 まあ俺はミニスカート気分なんて一生縁が無いから理解しようが無いがどう生きようが腹は減る。


 「よし、じゃあ出発するぞ?なーにキモイのは最初だけだ。慣れれば楽しいかも知れないぞ?」


 やっぱり合体するなら太助さんが、とむずがるマリを弐狼に押し込んで自販機広場を3人で後にした。


 そう言えばゴールデンウィークだけど屋台ラーメンやってたっけ?





 







 

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