【三題噺 #62】「チェーンソー」「家政婦」「客」(545文字)

真面目な息子 

 喉が渇いたが自分で淹れなければならない。

 今日は家政婦さんが休みだし、妻は一年前に家出した。妻がいてもやってくれるとは思えないが。あの女は浮気をしていた。私と大ゲンカした数日後にいなくなった。    

 男と逃げたのだろう。私が仕事で家を空けることが多かったので寂しかったと言っていた。出ていくなら離婚届を置いていってほしかった。


 昨日の打ち合わせに家政婦さんが出してくれた紅茶が美味しかったので、それを飲もうと台所へ行った。お湯を沸かそうとしたが肝心の紅茶がどこにあるのかがわからずやめた。いつもの紅茶パックしか見つからない。

 あきらめて冷蔵庫を開けると、ペットボトルのお茶や紅茶が何本か入っていたので紅茶を取った。そこで立ったまま飲んでいると外からチェーンソーの音が聞こえた。息子が作業を始めたようだ。

 息子は最近丸太アートにはまっていてうるさくしているが、客が来る日はやめてくれと言ったらそれを守ってくれている。前回作った熊という作品を見せてもらったが、とても……前衛的な作品だった。


 息子が元気になってよかった。真面目な息子は母親の家出がショックだったのだろう。当時は大学にもいかずに部屋に引きこもっていた。

 しかし今日は何を作っているのだろう。熊を作っていたときよりも硬いものを切っているような音がする。

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