第30話 金稼ぎがしたい
ひとまずこの周辺の魔物であれば脅威ではないことは分かった。
依頼をこなしていけば、この分だとすぐにFランクに上がれそうだ。
ゴブリンの討伐証明である耳をカウンターへ持って行き、ゴブリン討伐依頼を何回かこなしたことになった。
しかし、ゴブリンの討伐依頼1回で手に入るのは銅貨5枚だけ。
商業の神が発行している共通通貨はスタグ。
銅貨は100スタグ、
銀貨は1,000スタグ、
小金貨は10,000スタグ、
大金貨が100,000スタグだ。
それより上に白金貨という物もあるが、それは貴族や商会なんかが大きな取引をする際に用いる物らしい。
俺たちが最初に選ばされた5つの世界では同じ共通通貨が用いられている。
ゴブリン討伐依頼3回で1500スタグ、これだけではこの町の宿にも泊まれない。
俺たちは箱庭に戻れるし食事も自分で出せるし衣食住にお金はかからないのだが、冒険者一本で食べていこうする人たちは大変だな。
「ニアノーは何かしたいこととかあるか?」
「うーん……よくわからない。コロニーにいた頃は商品作りに見回り、戦闘と訓練ばっかりやってたから。他の選択肢があるなんて、考えたことがなかった」
そうか、あんな世界で生きていれば娯楽や他の仕事を考える暇も無かったんだよな。
収入とか考えるより先にニアノーに色んな娯楽を教えてあげるのが先決か?
……いや、まずはこの世界だけで暮らせるように基盤を整えた方が良いよな。
余裕ができたら娯楽について考えよう。
などと考えながら広場で昼飯を食っていると、ふと『転生』というワードが聞こえて来て耳を傾けた。
俺たちの隣のベンチで喋っている人たちの会話が聞こえてくる。
「あーあ、せっかく異世界転生したのになんで私たちずっとゴブリンばっか狩ってるんだろ」
「だよな。異世界転生と言えばお姫様助けたり貴族の女の子と親しくなって紆余曲折の後爵位をもらうとかそんなんだと思ってた」
「現実はそんなに甘くないってことね。……捕まった子たち、どうなったかな?」
「貴族に無礼を働いた奴らか。だからやめとけって言ったのに、『貴族はフランクに察した方が面白い奴だと思われて好感を持たれる』とか言ってさ……そんなのラノベの中だけだっての」
なるほど、貴族に無礼を働いた転生者が捕まったのか。
異世界モノに詳しいほどそういうことをやらかしがちだろうな。
この町が初期地点だった転生者もいるみたいだ。
今は俺が同じ転生者だとバレてはいないし、このまま非接触を貫きたいところではある。
っと、それよりもこの町に貴族がいるらしいことも問題か。
瘴気の世界では貴族の横暴っぷりがヤバかったらしいが、ここではどうなのだろうか。
今のところそれらしき人は見かけないし、人々も何かに怯えている様子は無い。
せめて触れなければ害は無い存在であることを願うばかりだ。
午後からはニアノーに勉強を教えることにした。
こっちの世界の言葉を覚えた方が良いのもそうなのだが、ニアノーは一桁の足し算程度しかできなかったので今後のことも考えて算数を教える。
計算ができなければ買い物する時に困るだろうからな。
しかし金稼ぎの方法として商売は良い。
問題は俺、リオという存在がチートな存在だとバレかねないことだ。
つまり、リオ自身が商売しなければ良い。
そして俺には[ユニット操作]があり、別の体を並列思考で動かすことが可能だ。
そう、リオ以外の別人としてハチャメチャすれば良い。
だが、先日作った俺戦隊の4人は正直言ってまともに動かせてはいない。
分身を動かす際は脳が複数あって別々で体を動かすことが可能なのだが、どうにも慣れないというか……俺は元々器用な方ではない。
それを言えば【特殊技能】もそうで、いくら能力がチートでも扱うのが凡人の俺だからな。
やろうと思えばもっととんでもないことができるはずなんだが……まあ、まだ異世界に来てひと月も経ってないんだ、のんびり今後やることを考えよう。
そうそう、そのやることの1つだったな。
謎のチート商人として活動するという話だ。
地球を除く5つの世界では同じ共通通貨が使われているので、稼ぐのはどの世界でも良い。
……待てよ、もし1番目の世界で金を稼いでそれを2番目の世界に流し続けたとしたら、1番目の世界からお金が消えるってことか?
女神はそれも考慮して俺にこんなスキルを与えたのか?
…………。
ふぅ、あまり深く考えるのはやめた方が良いかもな。
その世界毎に財布を分けて管理もできなくはないが、俺の脳みそがパンクしそうだ。
そもそも個人でどうこうできる金額なんて限られてるし、たった1人が暗躍したところで国家崩壊とかにはならないだろう。
よし、俺戦隊の4人でまずはその世界で需要のありそうな物をリサーチ。
その後世界を渡り歩き高額商品を売りつける謎の商人として金を稼ごう。
リオはニアノーと1歩ずつ冒険者ランク上げだ。
「ニアノー、お前がいた世界では大きな町や王都ぐらいでしかお金は使えないんだったよな?」
「うん、そうだよ」
「そっちの相場とこっちの相場、比べてみてどうだった?」
町歩きした時点では文字も数字も読めなかったニアノーだが、俺と町歩きした際に色々とあれはいくら、あれはいくら、と教えたし実際に串焼きやスープも購入していたのを見ていたと思うのでその辺の相場は分かっているはずだ。
向こうの王都では1番安い串焼きが1本800スタグらしい。
使用されているのはゴブリン肉……そう、あの口に入れただけで嘔吐感が込み上がってくる例のアレだ。
次点が1本1,500スタグのウルフ肉なんだとか。
一方、こちらで売られていた1番安い串焼きは300スタグ。
使われているのはウルフの肉とのこと。
これは食べてみたが、不味いは不味いが食べられないというほどではなかった。
同じ肉の串焼きでも5倍の差があるみたいだ。
瘴気の世界では聖女聖者の浄化が無ければ魔物肉を食べることができないため、誰でも商売できるわけじゃない。
それもあってそれらはもっと高額になるみたいだな。
それに貴族や教会に伝手のある商人でないと果物や野菜は手に入らないから余計に高額になる、と。
やっぱり世界が異なると相場も違ってくるな。
寝る前に、こっちの世界はどうだったか聞いてみた。
「いまだに瘴気がないっていうのが信じられないけど、町は活気があってみんな充実した生活をしてそうだなって思ったよ。でも……裏路地の方は酷かったね」
ニアノーの話では、王都では浮浪者はそう数はいないらしい。
住民税が払えない者は奴隷として連れて行かれるか結界の外に追い出されて殺されるから。
常に権力者の顔色を窺い、顔を俯かせ権力者の機嫌を損ねないよう縮こまって生き、追い出されないよう朝から晩まで必死に働いてお給金を得る。
息が詰まりそうだな、[世界移動]の技能があって良かった。
あの世界に転生した他の転生者は町に入れずコロニーに身を寄せているのだろうか?
いや、身分証が必要っていうのは王都の話だったから……他の町、もしくは他の国なら簡単に町に入れたりするのか?
あ、そういえば俺転生者スマホがあるんだった。
毎日欠かさずフリマ機能を使っておにぎりを出品しているのだが、掲示板はろくに読んでいなかった。
あの掲示板では毎日おにぎりを出品している匿名(俺)のことを『おにぎり様』と呼び、なにか色々と言われている。
感謝5割、他の物資を寄越せとか無料にしろとか数が少ないとかいう文句が5割ってところか。
こちとら面倒だけど善意でやってるのに、何で文句言われなきゃいけないんだ?
いや、まあ。それで小銭稼いで町への入場税とかに使ってるんだけど。
ともかく、明日からは他世界のリサーチ再開だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます