こっくりキャプチャー・プラン 5


「ほれ、【指摘】じゃ、さっさとせい」

 相変わらず綾瀬にあたりの強い『こっくりさん』だ。

「じゃ、じゃあ……『アイスランド』」

「外れじゃ。その調子じゃ先が思いやられるのう」

 綾瀬は【指摘】をしたが、この情報量で当たるはずもなく、手番は五十嵐さんに回る。綾瀬の質問に気が抜けて、覚えた小さな違和感の正体は探れなかった。


 五十嵐さんは、渋い顔をして唸っていた。

「どうしたんですか?何を質問するか、迷ってます?」

「いや、そこは迷ってはねえ」

 そこって、どういうことだろう。私は疑問に思ったけど、五十嵐さんは口に手を当てて考え込んでしまったし、相談が禁止されている手前、あまり聞かないことにした。

「綾瀬さ、未来ちゃんって最近どうだったの?『こっくりさん』がとりつく前の話」

 私はなんとなく、綾瀬に話を振る。

 私と綾瀬は同じ高校だったけど、未来ちゃんは別の私立の高校に進学したので、学校でいっしょだったことはない。なので、未来ちゃんのことは、綾瀬の家に遊びに来た時に少し見たことがある、という程度だった。礼儀正しく挨拶して、頭のよさそうな子だな、と思った記憶がある。

「……未来は、いたって普通だったわ。毎日普通に学校に行ってたし、部活とか塾でもお友達がいて楽しいって……最近少し、成績が上がらなくて悩んでいたみたいだったけど」

「何か変わったこととかは?オカルトにハマってたとか。『こっくりさん』やってたんでしょ?」

「いえ、そんなことは別に」

 少し苦しそうに話す彼女の言葉を、『こっくりさん』が遮った。

「おい、坊主。さっさとせんか」

「……こっくりさん、こっくりさん。『ハッタリをきかせることを、『味』をつかった言葉でなんという?』」

「ん……坊主、普通に難しい質問をするでない、クイズじゃないのじゃぞ……答えは『けれんみ』じゃな」

 『こっくりさん』の答えと同時に、コインが動く。「け」からスタートして、「れ」に向かって横に進んでいく途中で、

「ここに『罠』じゃ。これで2つ目」

 『め』の文字が『罠』だった。残りの文字は当たらず、コインの経路は『え』以外のえ行を潰した形になる。


あいうえお

か◯◯◯こ 

さ◯す◯そ 

た◯つ◯◯ 

な◯ぬ◯◯

は◯ふ◯◯ 

◯◯む×◯

◯ ゆ ◯ 

◯◯◯◯◯

◯   を

×


『罠』

め・ん(残り4文字)


『罠』以外

き・く・け・し・せ・ち・て・と・に・ね・の・ひ・へ・ほ・ま・み・も・や・よ・ら・り・る・れ・ろ・わ


 『罠』かそうでないかわからない文字は、残り19文字。こうして整理してみると、コインのたどった軌跡が、獲物を追い込む動きのようだった。

「も、もうあと1文字でリーチじゃないですかあ!」

「確かにそうだが、『め』が『罠』だとわかったのは大きい」

 五十嵐さんは、綾瀬に冷静に返した。

「よく単語に使われるひらがなは、『あ』『い』『う』『か』『さ』『た』あたりだろ?必然、そのあたりは答えである単語にも、【質問】の答えにも含まれやすい。『罠』なりやすいし、踏ませやすい。一方で『め』は、あまり使わない文字だろう。さっきのよく使われるひらがなより、答えの言葉を絞るのに有効な情報だ」

 『罠』以外の文字を含まなくて、『め』『ん』を含む単語。確かに、かなり絞り込めるかもしれない。だから五十嵐さんは、変な質問をしてまでよく使われるあたりを回避して、コインを動かしたんだろう。


 ん……単語?

 

「ねえ『こっくりさん』、ルールの質問なんだけど」

「なんじゃ」

「『こっくりさん』の決めた答えは、6文字の単語、だったっけ?」

「違う、6文字のじゃ」


 そうだ。あちこちにあった、なんとなくの違和感。そのひとつがこれだ。

「単語じゃなくて、文章じゃなくて、言葉……」

 五十嵐さんも、この違和感に気が付いたようだ。

「そう、ちょっとおかしいなって思ってたんです。このゲーム、なんかちょっと変なんです!だって、6文字っていうのもキリが悪いし!んーー、細かいことはわからないけど!」

 ルールは、言葉当てゲームとしては成立している。でも、答えているときの『こっくりさん』の言い方も含めて、何か作為がある。そう感じる。それが何かはわからないけど、誘導されている気がする。格闘技の試合で、技を誘っている相手のような気配がある。

「なんじゃあ、ルールに不満か?何を今更。それにこの『怪談空間』が成立していることが、ワシのルールに不公平や矛盾がないことの証左じゃろう。」

 そういう名前だったんだ、これ。

 でも、理屈はわかる。五十嵐さんが言っていたように、『怪談』はただのお話が力を持ったもので、力を持つには説得力……つまりルールが必要だ。裏返せば、ルールの破綻したお話は『怪談』になりえない。

 でも、私にはわからないのだ。『こっくりさん』のルールや態度の、何が変で、どうおかしいのか。

「……なるほどな、そういうわけか。俺の方も最初っから変だと思ってたんだがよ」

 五十嵐さんは浅黒い指を舐め、眉につばをつけた。

 

「お前、『こっくりさん』じゃないだろ。何が目的だ?」


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