お仕置アニマルセット〜あんまりな誤解を添えて〜

 口を滑らせたお仕置として妹ちゃんを辱めながらデートを進め、中毒症状を起こすギリギリまでシュウチロリニウムを堪能する。犬耳犬しっぽつけながらお外歩くの恥ずかしい恥ずかしいだね。お家に帰ったら首輪と反省札も追加だよ。


“私はお姉ちゃんの秘密をおもらししました”と書かれた板を首から下げる妹ちゃん(ver.犬)を想像してテンションを爆上げしつつ、空気の読めないナンパ男を撃退する。あのさぁ、ちょっと見れば姉妹でプレイ中なのわかるでしょ?“そこの彼女たち暇?ちょっとファミレスでお茶してかない?”じゃないんだよ。なぜファミレス奢るくらいで釣れると思った。


 ちょっとしつこかったので、これおしりに入れてくれるならいいですよと言いながら、カバンから棒状異物付きの猫しっぽを取り出すと、異常者を見る目で見ながら逃げていった。少し太かったかな、ハンドクリームのチューブ。


 か弱い乙女を心配する周囲の視線がえげつない性癖の化け物を見る目に変わったところで、よくわかっていなさそうな顔でおしり?と首を傾げる妹ちゃんを撫でる。よしよし、君はまだ分からなくていいことだよ。ただひとつ間違いないことは、こんなに小さくてかわいい妹ちゃんが既に開発済みだと、通行人たちから誤解されたであろうことだ。実際にはベルトでつけてるだけなのにね。


 ちょっと可哀想になったので、お仕置きは程々で終わらせてあげようと考えを変える。まだ小学生なのに開発済みはちょっとやばいもんね。通行人の中にお知り合いがいたらシャレにならないことになる。おしりだけに。きゃっきゃっ。


 ひとりで楽しくなって、妹ちゃんが小学生として認識されるということはそれとほぼ同サイズの私も小学生判定されるってことだなと冷静になる。となるとなんだ、さっきのナンパ男は小学生をナンパしようと思ったのか。度し難いロリコンだな。ロリコンは頭の病気です。……つまりはパパ上は病人だった?


 恐ろしい世界の真実に気がついて、こんなものなら真実など知りとうなかった……と長命ロリ狐娘みたいなことを考える。そうしてそのまま少し歩けばおうちについて、やっと一安心と胸をなでおろした妹ちゃんに首輪と反省札をプレゼント。程々にするとは考えたけど、やるべきことをやりきらずに終わらせるのはいささか気持ち悪い。


 というわけで、可愛い妹ちゃんは現在我が家のさらし者だ。ちゃんと言いつけ守ってつけているの偉いね。私なら部屋に逃げ込んで勝手に外す。まあ妹ちゃんはお勉強を私に教えてもらわないといけないから、お部屋に逃げようがないのだけどね。


 あらあらかわいいわんちゃんねと微笑ましそうにしているママ様と、そういうのはまだ2人には早いと思う、とあまりよく思っていなさそうなパパ上。天然モノなママ様とは違って一般的な感覚を持っているんだね。むしろどうしてママ様は犬扱いされている娘を見て和めるのか。そちらの方が不思議だ。


「そんなこと言って、あなただってああいう格好好きでしょ?私が恥ずかしがるのを見て嬉しそうにしてたくせに」


 このママ様、娘たちの前でなんてカミングアウトをしやがる。パパ上も真っ赤になって何も言えなくなっちゃったし、恐ろしい天然だ。……そうか、パパ上は私たちみたいな小柄な女の子をペット扱いする癖を持っていたのか。ペット扱いされるママ様……うっ、考えようとすると頭が痛い。心が、脳が理解を拒んでいる。


「お父さん……フケツ」


 パパ上に9999ダメージ。パパ上は倒れた。ついでに私の脳も破壊され、無事なのは天然なママ様と幼い妹ちゃんのみ。半分も残ってるなら、4捨5入すれば損害はゼロ。全然みんな無事だね。


 ママ様のニコニコ顔を見て脳を癒し、その直後美保さん用に買ってきた猫耳をつけたのを見て、パパ上による調教を想像してしまい、再び壊される。破壊と再生を繰り返し、私の脳みそはさらなる成長を遂げようとしていた。……嫌っ!光、これ以上おかしくなりたくないっ!ママ様を見て興奮するような体になりたくないっ!


 開かれかけた扉を全力で押して閉じつつ、これ以上の進行を抑えるために一度一人になる。どこかに私の脳みそを再生させてくれる存在はいないだろうか。そう考えながら外を見ていたら、私たちと別れたあとひとりでお買い物をしていたらしい智洋くんが目に入った。せっかく誰かと遊びに行ったのに、結局またこういうことになるんだね。君の人生はいつもそうだ。仲良くなろうとしても、まともにお友達ができることは無い。この交友関係は君の人生そのものだ。誰も君を愛さな……いや、私が愛してあげようっ!


 可哀想な智洋くんを見ていたら、元気がみるみる湧いてきた。やっぱり、お腹がすいていたり頭に栄養が足りていない時はおやつが一番だね。なお、智洋くんは妹ちゃん口滑らせ事件のすぐ近くにいたにもかかわらず、何かしらの奇跡的な力の働きによって私の木工を知らないままだった。早く気づけるといいね。ご褒美をあげるのはいつになることやら。


 智洋くんの性能だと少し難しいかもな、というかそもそも知ろうと言う気があるのだろうかと疑問に思いつつ、その気がないならないで私が気にすることじゃないなと考え直す。誰しもが好きな人の全てを把握したいと思うわけではないからね。私?好きになったら位置情報は前提だよ。当然でしょ?さすがに家族には強要できないから一日の予定を聞くくらいにしてるけどね。おかげで我が家では互いに予定を話すことが習慣化した。平和だね、パパ上はどうせ仕事でしょ。わざわざ言わなくていいよ。


 というわけで、脳みそがゆっくりなおったら、リビングに戻って家族に報告。あのねあのね、光ね、おうちにお友達呼びたいの!うん、ひろちゃんじゃない高校のお友達。聞いて驚け女の子!


 あの光ちゃんが、人当たりはいいのにお家に人を呼ばない光ちゃんがわざわざ呼ぶなんて、相手はどんな子なの!?ひょっとして好きな子なの!?恋!?とにわかに騒がしくなってリビング、というかママ様。なぜ私はお友達を呼ぶと伝えただけでこんなにも騒がれなければならないのか。うん、これまでの積み重ねだね。ちなみに私があまり人を呼ばないのは、好奇心に負けて収納を開ける子がいたら趣味バレするからである。智洋くんはこれまでの実績で大丈夫とわかっているし、今回呼ぶ美保さんにもバレてるから問題ない。この理屈で言えば、聡くんも呼んでいいのだが、機会がないからね。


 今日はお赤飯ね。甘納豆買ってくる!と飛び出して行ったママ様。楽しそうでなによりだ。一応家主であるパパ上からの許可も取れたし、我が家はいつもママ様のおかげでピカピカである。妹ちゃんの勉強の邪魔にならない程度にとだけ約束すれば、阻むものは何もなかった。理解のある親で素晴らしいね。ちなみに、甘納豆のお赤飯は北海道で一般的なお赤飯である。甘くて美味しい。色は食紅。


 甘納豆を買ってきたママ様と話して、具体的な日程を用意。せっかく約束してもおうちの人がいないから無理だよぅ、とかになったら悲しいからね。なお、一般的な高校生は家族と友達を合わせることに抵抗を覚えるものだろうが、私は全く気にしない。むしろ見てっ!光のママ様見てっ!かわいくて優しくて最高なのっ!と自慢したい。というか自慢する。私はマザコンでシスコンでナルシストなのだ。みんな同じ顔だからしかたがないね。


 あまあまさんをむーしゃむーしゃして、しあわせ〜になったら、翌日の学校で日にちを相談。社交的なコミュ強だから、きっと予定がいっぱい入っているんだろうなぁと考えていた美保さんは、いつでもいいよ!暇だしっ!と一番近い日を選んだ。なぜそのコミュ力で暇なのか。遊びに行くお金がないのかな?かわいそうに。


 何はともあれ、暇だと言うのであれば問題はない。それじゃあ遊びに来てね!すぐでいいよ!と、今日遊びに来ることが決まった。ママ様ごめんね、突然お友達連れて帰るね。


 携帯でぽむぽむタップ音を鳴らしながら文字を打ち、帰ってきたのはOKと指で輪っかを作っているママ様の写真。かわいい。お顔がつよつよだとスタンプ替わりに写真を送れるんだね。しかも、今朝来ていたお洋服と同じだから、多分今撮ったのだろう。なのにいつ見ても絵になるのだから、お顔つよつよ族こわい。どうでもいいけどお顔が強いってそのまま文字にしたら強面と同義だよね。


 そんなことを考えながらくすりとしていたら、美保さんからどうかしたのかと心配されたので、ママ様が今日もかわいいんだと伝え、学校終わりを待って拉致る。ごめんね智洋くん。今日は私、美保さんと一緒に帰るからあなたとは一緒にいられないの。そんなことをちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめつつ言えば、容易く智洋くんの脳みそは壊れた。よし、今週の脳破壊ノルマ達成。やっぱり智洋くんの脳は壊れやすいな。


 不要な犠牲を産みつつ美保さんを連れて帰り、おうちの前でこっちが智洋くんの家だよと個人情報を暴露する。いっつも一緒に帰っているのはそんな理由だったんだねと納得されたところで、本日のメインイベントであるママ様のお披露目だ。


「いらっしゃい、あなたが美保さんね。娘たちから話は聞いています。ゆっくりしていってね」


 玄関開けたら笑顔のママ様。そして目の前の、私と同じ顔から出てくる、娘たちの言葉。灯ちゃんが歓迎してくれたのかな?なんて考えていそうだった美保さんの魂が猫になって宇宙に飛び立った。


 地球に戻ってくるまで玄関先で立たせておく訳にも行かないので、背中を押して家に連れ込む。ついでに自分の部屋に戻り、わんちゃんセットを装着。猫さんセットを持って戻り、まだ放心状態の美保さんに猫耳を装着。そのまま猫しっぽを付けるべく腰に手を回したところで、美保さんは重力の支配下にもどってきた。


「……はっ!?光ちゃんはお姉ちゃんで、でも灯ちゃんがお母さんで。どうなってるの!?あとなんで光ちゃんは抱きついてるの!?」


 しかもなんで犬耳っ!?と驚く美保さんに、耳だけじゃないよとくるっと回って全身を見せる。フサフサのしっぽと、革の首輪。ついでに“私は友達を猫にしました”と書かれた反省札。完璧な布陣だね。猫?と困惑した美保さんが、自分のしっぽと耳に触れて気が付くまでが様式美。猫は猫でもネコさんにして鳴かせてやるぜうっへっへ、なんてド直球のセクハラも思いついたが、私のイメージが崩れてしまいそうなので封印した。さすがにそれはライン越えだよね。


 お母さんもなにか耳つけようかしら……今は豚耳くらいしかないなぁ。とつぶやくママ様の発言で、ママ様を豚さん扱いするパパ上が想起されて脳を破壊されつつ、お友達が来るということで用意してくれたマカロンを食べて回復する。美しさとトキメキを感じるねこマカロンだ。クオリティ高いね、ママ様。


 まだ困惑状態の美保さんにも食べさせて、あまあまさんでゆっくり落ち着かせる。猫さん、食べられちゃったね。これはもしかすると猫耳付きの美保さんの未来を暗示しているのかもしれない。


 ようやく落ち着いた美保さんと少し談笑して、ママ様もしっかり紹介すれば、美保さんの目的でもある私の木工お披露目タイム。こっちだよとお手手を引いて連れていき、収納からいくつか作品を見せる。とりあえず手始めに45点と28点、75点だ。赤点が35点だから、一つは出来損ないだね。こんなものでも売れるのだから世界は面白い。


「……これ、全部光ちゃんが作ったの?」


 わー!と最初驚いて見せて、そこから少しづつ、細部を眺めるにつれて美保さんの表情が真剣なものに変わっていく。何かを探すような、確かめるような見方。少なくとも、芸術に興味がない者の見方じゃないね。ひょっとして芸術に一家言ありネキかな?


「この曲線、木目の表現……光ちゃん、ううん。ヒカリさん」


 怖いくらいに真剣な表情。猫耳のせいで雰囲気が台無しである。


「ヒカリさん、あなた、生まれ変わりって信じる?」

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