第十一話 証言

「買い物に行こうとして家を出て、少し歩いたら泣いているエミちゃんに出会いました。お母さんとはぐれたと言っていましたが、いつの間にか誘拐されていたことも話していて……。」

 それからは、起きたことを正直に話した。交番に行こうとしたらパトロール中で誰もいなかったこと、熱中症対策でアイスと麦茶を買ってあげたこと、ここに向かうまでに高校生たちと出会ったこと、コンクール用の写真は断ったがそうでない写真は一緒に撮ってもらったこと、彼らと別れようとしたときに事情聴取することになったこと。

「なるほど。これは証人として高校生たちが重要になりますね。」

 そう言えば、高校生たちは、エミちゃんは何と言っていたのだろうか? そう考えた時、ドアをノックする音が聞こえた。どうぞ、と警官が言い、入ってきたのは別の警官だった。目の前の警官に紙を手渡して去っていった。

「エミさんと高校生たちの証言が取れたそうです。いずれも悪い人ではないと供述しており、誘拐犯よりも親子に見えた? との証言もあります。また、エミさんはあなたのことを“フジサワさん”と呼んでおり、親子ではないこと、親子を偽装していないことが証明できそうですね。まあ、本物の誘拐犯なら偽装してそうですし。あなたの無罪が証明できたということで良いのではないでしょうか。疑ってしまい、申し訳ありませんでした。」




「フジサワさーん!」

 部屋から出ると、笑顔のエミちゃんが出迎えてくれた。

「あの、あなたがフジサワさん、なんですよね?」

 声を掛けられた方を見ると、エミちゃんのお母さんが立っていた。

「あ、はい。フジサワと申します。」

「娘がお世話になりました。そして、巻き込んでしまい大変申し訳ございませんでした。」

 深々と頭を下げられ、少し戸惑ってしまった。

「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ誤解を招く風貌ですみません。」

 こちらも頭を下げ、傍から見たらお互いに謝罪しあうという光景になっていた。

 頭を上げると、時刻は十六時五十分になっていた。もうこんなに時間が経過していたのか。

「おかあさん! "すごいの"そろそろだからみにいきたい!」

「もう、エミったら。皆さん本当にすみません。」

「いえ、大丈夫ですよ。宜しければ、自宅までお送りしますね。フジサワさんも一緒にお見送りしませんか。」

 事情聴取した警官が優しく答える。

「あ、はい。ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。」

 こうして、からくり時計を見た後に一緒に帰ることになった。


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