ウヌプラス・クリアタウン

板谷空炉

霹靂

第一話 散歩

 ──そうだ、散歩をしよう。

 そう思って、先程まで降りたくなかったベッドから飛び起きた。蝉の鳴き声が聞こえ、日差しが強い日曜日の午後一時。休みを謳歌して夜中までネットを見ていたため、一時間前に起きた後も少しだけ眠気があった。

 二度寝してしまおうか。でも明日からまた仕事に行かなければならないのはだるいが、買い物に行かなければもっとだるい将来が待っている。こんな葛藤を繰り返した結論が、「散歩に行く」だ。自分でも何があったのか、エアコンをつけ忘れた部屋で暑さにでもやられたのか。よく分からなかったが、散歩ついでにスーパーで買い物をすることにした。


 あ、スーパーで職場の“店長”に遭ったらどうしよう。まあその時はその時だ。長い間とてもお世話になってるし嫌いではないけど、面倒な部分があるからなあ。

 そんなことを思いながら準備を済ませ、日焼け止めを塗り、黒いマスクをつける。そしてアパートを出て鍵を閉め、しっかりと閉めたことを確認する。何だか懐かしい感じ雰囲気と、さっき鍵が光ったように見えたのはきっと気のせいだろう。階段を降り、変わらない街から中心街へ向かう。アパートは比較的中心部にあるため、近づくにつれて栄えていく。


 そして同じく近づくにつれて気付いた、何かがおかしいと。しかしどこがおかしいのかまではまだ分からなかった。すると、電信柱の後ろで泣いている少女がいた。白いワンピースを着ており、麦わら帽子には水色のリボンと蝶の飾りがある。少女の年齢は三、四歳くらいだろうか。放っては置けないが、声をかけようにも不審者と間違われたくはない。周囲を確認し誰もいないことを把握したうえで、少女に話しかけた。

「君、お父さんやお母さんとかは? 誰かと来てないの?」

 少女は涙を拭き、麦わら帽子のつばを両手でおさえて答えた。

「お母さんといっしょに来てたんだけど、とちゅうではなれちゃって探してたら、知らないところに来ちゃった……」

 典型的な迷子だ。しかも子どもの扱いなんて慣れてないし、どうしたものか……。

「じゃあ、一緒にお母さんを探してあげるよ。」

「ほんと? ありがとう!」

少女は笑顔になった。その様子から、またどこかで似たような雰囲気を感じた。

「そうだ、名乗ってなかったね。フジサワって言います。」

「わたしはエミ、よんさいです!」

「エミちゃんか、よろしくね。あいさつしっかり出来て偉いね。」

 こうして散歩が、エミちゃんの母親探しになった。

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