きみが置いて行かれてよかった。きみを置いて逝きたくないんだ。

 おそらく大多数の方が「こいつ何を書いているんだろう」となるでしょう。
 この手紙を読んで合点がいくのは〝ぼく〟と〝きみ〟と、その両方をフォローしている方だけです。分かる方だけが解ればいいと思うので、ネタバレレビューとして中身を伏せる設定にしておきます。

 〝きみ〟はいつも雨の匂いがします。音ではなく、匂い。
 常に水分量が多く、正直いつ降り出してもおかしくはない雨雲のようです。けれど一向に雨が降らない。溜めるだけ溜め込むくせに、泣き出さないんです。己を律するように。己を縛るように。〝きみ〟はそんな雨の匂いがする。───頑張ってきましたね。頑張って生きてきましたね。
 〝きみ〟が感じている世界を完全に理解できているとは言いません。ただ、普通の人々よりは寄り添える。まったく同じものとはいかずとも、似たようなものを感じ、共に見ることはできます。〝ぼく〟は〝きみ〟の同胞です。───足並みを揃えられない仲間です。


 まるで懺悔するようにここで白状しますが……〝ぼく〟は〝きみ〟の文才に嫉妬していました。それも、つい最近まで。
 切磋琢磨できるライバル、互いの作品を読み合う仲間、共に筆を取る同志。〝きみ〟のことをそう思っていました。
 ただ、どうしたって真似することのできない、あの多彩な色と温度で読者を魅了するような圧倒的な世界観は〝ぼく〟には書けない。ひたすらに羨ましかった。
 その嫉妬が霧散したのは、あの近況ノートを読んだから。
 〝きみ〟がただの天才ではなく、特異性を持つ代償のように、周りと馴染みきれなかっただろう苦悩を文章に砕いて埋めていたから〝ぼく〟は〝きみ〟が似た境遇の人間であると知りました。
 顔も見たことがない。どこに住んでいるかもわからない。それでも〝きみ〟と友達になりたいと思いました。友達と呼びたくなりました。

 カクヨムコンテストって本当に魔窟で、戦場ですね。正直生きた心地がしない。ランキングとか見たくない。
 そんな戦場が───応募期間が終わったら、色々とお話聞かせてください。