焔閻魔帳恋物語

夢月みつき

第1話「閻魔大王と白百合の女性」❖

 ◇登場人物紹介◇


「焔閻魔帳恋物語」の主人公、閻魔大王。

 吉乃の前では、焔炎真-ほむら・えんまと名乗っている。

 輪廻の父親で、地獄を統べる十王の一人。五千歳。見た目の年齢は、25歳位。

 氷雨吉乃と出逢うまで、人間の業のせいで人と言うものに辟易していた。



 ヒロイン、氷雨吉乃-ひさめ・よしの

 白百合のように美しく、無垢な女性。二十代前半。

 花屋の娘、



 閻魔えんま大王イメージイラスト1

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023211975662816



 氷雨ひさめ吉乃よしのイメージイラスト

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023211976139456



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 まるで、二十代位の年齢に見える黒髪で火のように赤い瞳を持ち、黒い着物を纏った。

 十王じゅうおうの一人、地獄をべる存在の閻魔大王えんまだいおうは、死者を極楽か、地獄へ逝くかを裁く地獄の王だ。

 来る日も来る日も、閻魔は死者を裁き続けた。



 しかし、生きる者の中でも、人間は極楽よりも、地獄へ落ちる者の方が多かった。

 瞬時にして、嘘を見抜く彼の前であっても、人はおのれが助かりたいが為に虚構きょこうを貫こうとする。



 それは、大罪人であればある程それは、それは醜く目も当てられない程であった。

「気に食わぬな」

 眉間にしわを寄せそう唸ると、閻魔大王は、玉座で足を組んで指で閻魔帳をはじいた。


 そんな、人間の悪意と言うものに辟易へきえきしていた閻魔大王は、ある日、現世を映す水鏡に映りこんだ艶やかな黒髪を肩まで伸ばし、琥珀こはくのような澄んだ茶の瞳の女性に目を奪われた。



 激務が終わった後には、必ず水鏡の間に行き、その女性を眺めては穏やかな微笑を浮かべる日々。

 その姿に側近の官吏かんり達は、心配と焦りの色を隠せなかった。

 皆、口々に噂した(閻魔王様は、下賤げせんな人間の娘に魅入られてしまった)と。



 ◇




 そのうちに閻魔は、彼女が“氷雨吉乃ひさめよしの”と言う名前であることと、花屋の娘であることを知った。彼は側近達が噂をしているのは、既に知っていたが。

 恐らくは五千年も生きていて、初めて知ったであろう、この感情の正体をどうしても、知りたくなった。


 気が付けば、閻魔王は“焔炎真ほむらえんま”と名を変え、一人の人間の男として彼女の花屋に向かっていた。




 炎真は、赤のネクタイと紺のスーツ姿で氷雨吉乃の勤めている花屋に立ち寄った。

 年は二十代前半位に見えるチュニックとジーンズ、緑色のエプロン姿の吉乃はバケツに入れられたたくさんの百合の花の花束を持って、店先に出す所だった。



 その姿が花の妖精のようで、炎真の心を揺り動かす。

 見るからに重そうな花が入ったバケツを見て、彼は思わずバケツに手を添えていた。

「突然、申し訳ありません。重そうですね。店先に出すなら、手伝いますよ」

 炎真が微笑を浮かべると、吉乃は突然のことに驚いていたが、丁寧に断る。



「ありがとうございます。でも、お客様にお手伝いさせる訳には行きませんので」

「そうですか……それでは、共に持って行きましょう。それなら、良いのでは?」

 そういう問題ではないんだけどと、吉乃は思ったが。



 せっかくの申し出を断り続けるのも忍びないので炎真と一緒に店先まで持って行き、地面に降ろした。


「ありがとうございます。えっと、お買い物ですか?」

「ええ、ある女性に花を贈ろうと思いまして」


「そうですか、素敵ですね。どんな花が良いでしょうか?」

「その、百合の花と百合が映えるものを……」


 炎真は百合の花を指さして、吉乃を見て微笑む。

 その赤の瞳の視線に少し、胸が高鳴りドキッとする彼女だったが、気もちを落ち着かせて花を見繕う。


「そうですねぇ。今の季節でしたら、ラベンダーなんていかがでしょう?」

「良いですね」

 炎真は、吉乃に花の代金を払い、花束を受け取り。

 その受け取った花をそのまま、吉乃に差し出した。


「えっ…なんで私?」

 戸惑う吉乃に炎真は言う。

「驚かせて、すみません。失礼ながら私はずっと、貴女を想っていました。もし、お嫌でなかったら…受け取って欲しい。しかし、ご迷惑でしたら私はこのまま、帰ります」



 吉乃が見上げるように炎真を見ると、心なしか肩が小刻みに震えているように感じた。

 少しの間があったあとに吉乃は、軽く微笑み。気が付けば、その花を受け取っていた。


「――私、男の人に花なんて貰ったのは初めてで。ありがとうございます。名前の知らない方に頂くわけにはいかないので、名前、お聞かせ頂けますか?私の名前は、氷雨吉乃です」



 炎真はてっきり、断られるかと思っていたが。顔を上げてほっとした笑顔になる。

「私は、焔炎真と申します。また、明日もこちらの花を買いに来ます。今度は、部屋にも飾りたくて」


「それは、良いですね!是非、またいらしてください。お待ちしていますよ」

 二人で笑い合う。しかし、その物陰でよからぬ者が炎真達を覗き見ていた。


 

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