最愛の人

 あの人のいない日々が、

 こんなにも悲しい。


 幼き頃に引き取って、

 この手で 理想の女性に育て上げた。




 成長するにつれ、

 愛しいあの御方に似てきた。


 まるで、

 あの御方の生育過程を見ているかのようで。

 楽しかったよ。


 美しくなっていく あの人。

 あの御方に近づいていく あの人。


 あの御方は

 頑なに わたしを拒むけれども。


 あの人は、

 決して わたしを拒みはしなかった。


 わたしの言うことに 始終 付き従った。


 わたしの可愛いお人形さん。




 わたしは、

 理想の女性を手に入れたのだ。


 これこそ、

 男のロマンでないか!







 だからこそ、

 あの人がいなくなった 今、

 わたしは この世で 生きていくのが

 虚しくてしかたないのだよ。



 はやく あの人の そばにいきたい。

 あの人と ともに在りたい、と。



 それすら 聞き届けてくれないのは

 あの人のむこうに

 あの御方の姿を追い求めた

 わたしの罪なのだろうか。





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