第16話 じたばた

    ※


 時間は少し巻き戻り。


 家に帰ってから、私はずっとパソコンに向かっていた。

 今、キャラクターの色彩設計を作っている。

 頭の中には、最初からイメージは固まっていた。

 キャラクターの色指定を決めて、色を落としていく。

 想像の中にあったキャラクターがより鮮明に姿を現していく。


「うん……悪くない」


 自画自賛になってしまうけど。

 イメージ通りの、今の私にできる最高のクオリティに仕上がった。


「……皆好くんは、どう思うかな?」


 真っ直ぐな嘘のない評価を彼はくれる。

 この絵を見たら、どんな顔をするだろう。

 目を輝かせてくれるかな?

 子供みたいに無邪気に笑ってくれるかな?


(……あ、そうだ)


 連絡先、交換したんだっけ。

 パソコンでトークアプリを起動する。


「送って、みようかな」


 折角、完成させたのだから、直ぐに見てほしい。


(……って……見て、ほしいなんて、なんで私……)


 少し前までは、そんなこと思ったこともなかったのに。


(……私、自分が思ってるよりも嬉しかったんだ。すごく、すごく)


 皆好くんが、褒めてくれたことが。

 彼が――私の絵で感動してくれたことが。


(……少しだけ、怖いけど……)


 きっと期待に応えられるものができたから。

 トークアプリに、描いたイラストのデータを送る。

 続けて『色はこんな感じ。どう?』こんなメッセージを送った。


 送信する直前まで、ドキドキと、おかしいくらい鼓動が強くなる。

 でも、送信した後は……。


(……皆好くんが喜んでくれるかな)


 そんな期待で胸がいっぱいになっていた。

 既読は直ぐに付いて、驚くくらい早く返信があった。


『キミは、女神を生み出す女神かよ!』


 思わず「ふふっ」と声を出して笑ってしまった。

 ちょっと暴走気味の発言。

 だけど、そんな彼のキラキラした顔が目に浮かぶ。

 すごく喜んでくれているのが、言葉から伝わってくる。


(……送って、よかったな)


 私は私の為に絵を描いてきた。

 でも、好きな絵を描いて、誰かに喜んで貰えるのはやっぱり嬉しい。

 それは皆好くんは教えてくれた。

 届けたい誰かがいるのなら。

 その人の為に、絵を描くのも悪くはないと思えた。

 実際今も、皆好くんの真っ直ぐで嘘のない言葉は、原動力になっている。


(……私はもっと上手くなれる)


 もっと褒めてくれて、いいんだよ。

 そしたら私はもっと絵が好きになる。

 そして――キミに感動してもらえる世界を描くから。


(……そういえば、明日は土曜日なんだよね)


 もっと話したいことは沢山ある。

 折角、同じ趣味の友達ができたんだから、彼の好きな作品も聞いてみたい。

 それに、私の作品をじっくりと見てもらうなら、家に来てもらったほうがいいよね。

 学校じゃ、見せるのが難しいものもあるから。


『明日、予定がなければ私の家に来ない?』


 友達になったばかりで、変に思われないかな?

 そんな心配もあったけど、思い切って誘いの連絡を送ってみた。

 中々、返信がない。


(……流石に唐突過ぎた?)


 心配になって無理はしないようにメッセージを送る。

 だけど、そんな不安はどこへやらとばかりに、彼から返信が届いて。

 明日、皆好くんが遊びに来ることになった。


(……よかった)


 あ、でも……どうしよう?

 私、男の子を部屋に上げるのなんて、初めてだ。


「てか……なんでいきなり、男の子を家に誘ってるのよ!?」


 冷静になった途端、火が出るみたいに顔が熱くなる。

 どうしよう?

 何か、準備したほうがいい?


「ぁ……うぅ……」


 自分でも情けなくなるくらいの小さな悲鳴を漏らしながら。

 私は慣れないことをした代償を払うように、夜の間、じたばたすることになるのだった。

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