アリスのもう1つの夢(3)

 宮本真由美、38歳。副編集長兼夢先生の担当編集者。この担当は、誰にも渡したくない、夢先生と共にこの世界を一緒に生き抜いてきた、いわば戦友。そして、次期編集長とまで言われ、滝沢編集長の右腕でもある。


 宮本副編集長は、アリスがテストを合格したら、新人漫画家を担当してもらうことを考え。そのことはアリスにも話し、アリスも納得していた。


 この勝負に納得が行かない滝沢編集長は、宮本副編集長とアリスを会議室へ行くように指示し。会議室へと向かう2人。

 一方、滝沢編集長は、社長の真意を確かめるために社長室へ向かった。


 会議室に入って行く宮本副編集長とアリスは、誰もいない会議室に2人は向かい合う形で椅子に座り。険悪のムードのような雰囲気の中、しばらく無言だったが、先に口を開いたのは。


「滝沢さん、諦めていなかったようね。でもなんで急に!?」


 アリスはあの夢を見た話をし、勝負方法を告げ。黙って聞いていた宮本副編集長は、この話にあきれていた。

「バカじゃないの!? そんな夢の話、異世界はあるって!? そんなあるわけないじゃないの、あれは漫画の世界。本気で異世界を探すつもりなの!? バカじゃないの!?」

「副編集長、お言葉を返すようですが、異世界はないって100パーセント言いきれますか!? 言いきれませんよね!? 私の夢バカにしないでください。編集長までバカにするんですか!?」

「はぁ!? 編集長をバカにする!? どういうこと……!? えっ!? ちょっと待って、まさか……」

「知らないんですか!? 編集長も異世界が存在するって、信じてるんですよ!?」

 宮本副編集長は知らなかった。まさかそんな、と驚きを隠せない。


 一方、滝沢編集長は、社長室で驚きの真実を知り。なぜ、アリスが宮本副編集長に勝負を挑むのか、その訳を知り、この勝負の勝敗が決まっていた。複雑な思いを抱え滝沢編集長は、社長室を後にした。


 アリスと宮本副編集長の勝負とは。

 1ヶ月間、夢先生の担当編集者として働き、その仕事ぶりを夢先生に評価してもらい。アリスと宮本副編集長のどちらが夢先生の担当編集者として相応しいか、夢先生自身に担当編集者選んでもらう。そして、宮本副編集長に、編集者として総合的評価をしてもらうこと。


 思ってもいない真実を知った宮本副編集長は、あのことを思いだしていた。

 4年くらい前、夢先生にファンレターが届き。「異世界って本当にあると思いますか?」、この質問が多く寄せられ。宮本副編集長は、滝沢編集長の目の前で、異世界はないと豪語し、異世界を信じるものをバカにした。

 滝沢編集長とアリスに、バカにしたことを謝りたい思う宮本副編集長だが、非現実的なことは一切信じない気持ちには変わらない。


 その時、会議室のドアが開き。宮本副編集長は真剣な表情で立ち上がり、滝沢編集長の目の前に行き。

「編集長、滝沢さん、申し訳ありませんでした」

 宮本副編集長は、いきなり深々と頭を下げ、困惑する滝沢編集長は、アリスの方を見るが。アリスはこの光景に無言。

 宮本副編集長は、異世界の存在を信じる者をバカにしたことを謝罪し。滝沢編集長は、頭を下げた意味を知り、そのことをすっかり忘れていた。そして、別に気にしていないと言い。アリスは宮本副編集長を許したが、異世界を否定するのはかまわない。しかし、バカにすることだけはやめてください、と言っていた。

 

 このあと、宮本副編集長は、一旦会議室を出ると。会議室では、滝沢編集長とアリスが残り、この2人何やら話し込んでいる。

 その10分後。アリスは、会議室前の廊下で待っていた宮本副編集長を呼びに行き。2人は会議室へ入ると。滝沢編集長は宮本副編集長に、今回の勝負を受ける気があるか聞くと。

 私は逃げも隠れもしない、この勝負は私の勝ち。それでもこの勝負を受けると言うなら。この勝負、受けて立ちます、と言い切った。


 滝沢編集長は、その言葉を聞き、真剣な表情で2人に言った。

 この勝負、勝った方が夢先生の担当編集者とする。この勝敗にケチをつけることは断じて許さないと言い。2人とも、異存はないなと聞くと、双方異存なし。


 この勝負、すでに勝敗が決まっている。それなのに、この勝負を止めさせるために社長に真意を確かめに行った滝沢編集長は、この勝負を承諾した。いったいどういうつもりなのか、いくら社長が許可したといえ、まさか、社長命令だったのか。

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