第四十六話 孤独な王

「今! 妾の体内に魔力が満ちた! 出でよ、青き玉!」


「おおっ! またこの世界に混沌を撒き散らすのですな」


「いまだ地下宮殿は完成せず、妾の力も回復の途上にある。この地に下等生物たちが目を向けないようにしなければならないのだ」


「さすがはアルミナス様、素晴らしい策ですな」




 別世界に復活した妾が新たに作りし、『アルミナス四天王』は、実によく働いていてくれた。

 メリーは、魔獣を狩って石を妾に献上し続ける。

 ゴルルは、妾が召喚した赤い石で作り出した機械魔獣たちを率い、この地下宮殿と妾の警備を。

 バトゴアは、この地下宮殿を妾に相応しいものへと拡大せていた。

 頑張ってはいるが、まだ時間はかかる。

 すべてが終わるまで、外の世界を混乱させてそちらに目を向けさせなければならないのだ。


「今度は、どのような下等生物が青い石に選ばれるのでしょうか?」


「さあてな。しかし、ルースもわかっていよう。愚かな下等生物、特にニンゲンであることはほぼ確実であろう」


 前の世界もそうだったが、ニンゲンとは度し難い下等生物であった。

 同類で争い殺し合い、星を汚し、野蛮で他の生物を数えきれないほど滅ぼしてきた。

 だからこそ、妾たち全銀河全滅団が全銀河系の征服を目論んだのだ。

 妾も別にニンゲンを滅ぼそうとは思っていない。

 好きにさせると全銀河系の生態系を破壊してしまうので、コントロールするためにニンゲンが住む星々を征服し、数を調整しようとしただけなのに、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを発見、修理して反抗してくるとは。

 今度こそ、妾は失敗できぬのだ。


「そのためにも、まずは地下宮殿の整備と、妾が力を取り戻すことが先決」


 最初に召喚した青い石を受け入れたニンゲンは、大分破壊と駆除をしてくれたようだ。

 妾のレベルも大分上がった。

 とはいえ、まだ全然足りぬ。

 メリーも毎日魔獣を沢山倒して妾のレベルアップに貢献しておるが、自分でレベルを上げられないのは辛いの。


「次は、どこぞの国の王が機械大人になればいいのだが……」


 強き心を持った……ただの我儘であろうが、その歪んだ自尊心で多くのものを破壊し、殺してくれれば妾も強くなれるというもの。

 青き玉よ。

 せいぜい妾のために頑張ってくれよ。



※※※※




「……で、言い訳はあるのか? ダイスン将軍よ」


「これはなにかの間違いですとも。わかりました! ラーベ王国の進路を塞いだ魔獣の数が非常に多かったのですよ」


「そう言われれば、確かにあの魔獣の数は異常でしたな」


「あの数では、いかに勇将であるダイスン将軍とて、リーフレッド王国が不覚を取るのも仕方がりません」


「陛下……と、義兄が申しているのです。今回は仕方がないではないですか」


「父上、次がありますよ」


「左様、それでも得られた土地はあったのです。ダイソン将軍を責めるのは酷というものです」


「有能なダイソン将軍を処罰してしまうと、リーフレッド王国に付け入られますからな」


「……そうか……ご苦労であった」


「さすがは陛下。実に慈悲深い」


「リーフレッド王国の脳筋ななどとは比べものにならない名君ですな」



 また自分でなにも決められなかった。

 リーフレッド王国と合同で行った南方攻略作戦であったが、総司令官であるダイスン将軍の不手際により、得られた領土はリーフレッド王国の十分の一以下であった。

 それでいて、犠牲者はダイスン将軍の方が多く出していたのだ。

 これもダイスン将軍が軍人として無能であるからだが、同時に王妃の兄でもある。

 王妃も、王太子も、親戚は庇うわけだ。

 宰相以下閣僚たちも、畑違いのダイスン将軍を庇った。

 こいつらはいつも、お互いがお互いを庇い合う。

 ようするに、誰もが無能だったり、血縁関係にあったり、叩けば埃が出るような連中ばかりなので、お互いの地位や利権を認め合って庇い合う。

 互助会のような関係にあるわけだ。

 余が誰か将軍なり大臣を罷免しようとすると、残りの全員が邪魔をする。

 王妃と王太子も向こうの味方であった。

 余は王なのに、なにも決められないのだ。

 そして誰かが新しい提案をすると、余に諮る前に根回しをして余以外の全員が賛成に回る。

 どんなにくだらなく、不利益な政策でもだ。

 そして余は、それに賛成するしかない。

 王などとはいっても、ただ玉座に座って賛成するだけの虚しい存在なのだ。


「そういえばプラムは、リーフレッド王国のバルサーク辺境伯の婚約者となったとか……」


「陛下、それは同名の別人です」


「父上、プラムは死にましたよ」


「陛下、愛娘を失った悲しみが強すぎて……おいたわしや」


「……」


 プラムの件もそうだ。

 ラーベ王家の人間は、全員が例外なく風魔法のスキルを持っている。

 ……いや、たまに風魔法以外のスキルが出る者もいるが、彼らは誰一人例外なくラーベ王家から勘当、追放された。

 ラーベ王国の王族は、全員が風魔法のスキル持ちでなければならない。

 いつの間にそう決まっていて、娘のプラムに風魔法のスキルが出なかったことから、王妃、王太子を始めとする一族に、家臣たち全員がプラムの勘当とラーベ王国からの追放を上奏した。

 余の可愛い娘なので、それは避けたかったが……。

 余以外の全員がプラムの追放に賛成し、余一人ではどうにもならなかった。


『当然ですが、プラムの追放は陛下ご自身が命じてくださいね』


『そうですとも。なにしろ父上は、ラーベ王国の国王なのですから』


 余はその時、実の妻と息子に殺意を抱いた。

 自分たちがプラムの追放を決めておいて、唯一それに反対した余にそれを言わせる。

 昔らそうだからという曖昧な理由で風魔法スキルを持たないプラムを追い出すことを決めたが、自分たちは言いたくないので余に言わせる。

 そのような罪悪感があるのなら、最初からプラムを勘当して追放しなければいいのだ。

 なぜそうするのかといえば、昔からそういう決まりだったから。


「(ウンザリするな)」


 リーフレッド13世が羨ましい。

 彼は己の自由にやって、十分な成果を出しているのだから。

 余には……余もいい年だ。

 この閉鎖的でなかなか変えられないラーベ王国と共に老いて死んでいくしかないのであろうか?

 王太子がこの国を変える……難しいであろう。

 アレは、王妃と親戚たちの言うことをよく聞く『いい子』であり、余になんの実権もないことを重々承知している。

 軋轢が増すようなことは一切せず、玉座に座っていれば贅沢な暮らしができるのだと達観しているのだから。

 もうこの国は終わっているのだ。


「陛下?」


「戦勝の宴に関しては、宰相に任せる」


 それでも、それなりの土地を得ることはできた。

 それを祝う祝宴が必要というわけだ。

 そんなものは宰相に任せればいい。

 余は疲れたので、私室に戻ることにした。

 一人部屋に戻ってグラスにワインを注ぐが、酒を飲む気力すら失せてきた。

 すでに床を共にしない王妃から若い愛妾を勧められたが、そんな気にもならない。

 なにより、あいつに勧められた女など、どうせ余の監視役でしかないのだから。


「ふう……なんだ?」


 あと何年こんな生活が続くのか……。

 盛大にため息をついた瞬間、突然目の前に不思議な青い玉が出現した。


「綺麗な玉だな」


 青い玉を見ていると、なぜかこの青い玉が余になにかを伝え、それが理解できるようになっていた。

 喋ってもいないのに、不思議な青い玉だ。


「余はリーフレッド13世のように、己の自由に振る舞ってみたい。そのためには邪魔者の排除が必要なのだ。できるのか?」


 青い玉は、強く光って『できる』と教えてくれた。


「そうか! お前をその身に受け入れればいいのだな」


 そのくらいで王妃や王太子や無能な家臣たちを……余は青い玉を体内に受け入れた。

 青い玉が体に入っても痛くも痒くもなく、それどころか力が沸き上がってくるようだ。


「まあ、待て。新しい余に相応しい最高のデビューショーを見せてやろう。……そういえば、祝勝会があったな。せいぜい利用させてもらおうか」


 無能どもがリーフレッド王国よりも遥かに狭い土地しか確保できなかったのに、そのミスを糊塗するために開かれる祝宴。

 ついでに言うなれば、税金の無駄遣いだ。

 バカどものちっぽけなプライドを満足させるため、南方攻略失敗から国民たちの目を反らすための祝宴。

 せっかくの機会だ。

 余がかかった費用に相応しい血塗られた祝宴にしてやろうではないか。


「楽しくなってきたな。せいぜい素晴らしい祝勝会にしてやろう」


 これで余も自由に振る舞える。

 青い玉には感謝してもしきれないな。

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