突き放す理由

「牧人なんだって」

「だから、一葉ちゃんと寝たんだろ?」

「それ、いったい誰に聞いたんだよ」

「それは、わかるだろ」


もっと考えればわかったのに……。

牧人と一葉ちゃんが最近店で仲良く話してるの知ってたから……。

俺は、怒りに任せて一葉に電話した。

一方的に関係を終わらせた。


「最近、一葉ちゃん来ないね」

「忙しいんじゃないっすか」

「なあ、凛音」

「何ですか?」

「凛音、一葉ちゃんと何かあった?」

「何もないですよ」


代表は、俺を心配して話してくる。


「実は、一葉ちゃんと凛音がしたって話しは、俺の耳にも届いてるんだよ。それで、凛音は一葉ちゃんの事好きなのか?」

「俺何かが触れちゃいけない相手なんです」

「それ本人に伝えたのか?」

「言ってませんよ。怒りに任せて、着信拒否しちゃったんで」

「そんなの伝えなきゃわかんないだろ?一葉ちゃんは、エスパーじゃないぞ」

「言わなくていいじゃないですか」

「いや、駄目だろ。ってか、凛音。一葉ちゃんの事好きなんだろ?」

「好きですよ!だけど、俺じゃ一葉を幸せに出来ませんから」

「だから、それ伝えたか本人に」

「言えるわけないでしょ!伝えたら一葉はいなくなっちゃうから」

「伝えなくてもいなくなってんじゃん」

「それは……」

「さっきも言ったけど、一葉ちゃんエスパーじゃないんだから当たり前だろ?凛音の本心なんか知らないんだから」

「仕事には支障ないんで大丈夫です」

「あのな、結愛ちゃんの言葉だけを一方的に信じるのも俺は違うと思うけど」

「だけど、最初に出会ったのは一葉じゃなくて結愛ちゃんなんで」


代表の言葉は、痛いぐらい胸に突き刺さった。

一葉に一方的に怒ったあの日の後。

結愛ちゃんが美園さんとやってきた。


「うちね、聞いたの。一葉が凛音君としたって言ってね。それで、よくわかんなかったとか……。何でしちゃったんだろうとか言ってたの。凛音君、一葉が好きじゃないよね?うちの事可愛いって言ってたよね。一葉何か、誰とでもすぐに寝るって有名だよ!うちの好きな人とも寝たんだし」

「はあ?マジで言ってんの。ないわ」

「でしょ、でしょ!本当に最低な子なんだよ」


結愛ちゃんの言葉だけを信じて、俺は一度も一葉に連絡が出来なかった。


「凛音さん、自暴自棄ってやつですか?」

「えっ?まあ……」

「あっ、俺こないだ牧人さんの話聞いちゃったんですけど……」


あれから、3ヶ月が経った頃。

俺は、後輩である恭介きょうすけから話を聞く。


「牧人さん、一葉さんの事好きだったみたいですよ」

「えっ?」

「そしたら、結愛ちゃんが内緒話だって凛音さんとの事話したんですよね!結愛ちゃん、牧人さんが好きだったみたいで、気持ち知って腹立ったみたいですよ」

「気持ち知ってってどうやって?」

「あーー、ほら先月辞めた重人しげとが言ったんですよ!プライベートで飲みに行った時に、牧人さんが一葉ちゃんに近いうちに告白するって言ったらしくて」


恭介の話を聞いて、俺は何で一葉にキレたのかわからなくなった。

大人のくせに着信拒否までして。

「信じて」って言われても信じなくて……。


「恭介、何で話してくれたの?」

「だって、凛音さん。一葉ちゃんと連絡取らなくなったって言ってからめちゃくちゃ暗いじゃないですか」

「そうだっけ」

「そうですよ。凛音さんにとって一葉ちゃんは必要な人なんですよね」


恭介に言われて一葉への本当の気持ちに気づいた。

一葉は、自尊心を満たしてくれるだけの相手じゃない。


今になって、一葉がいない日々を悲しいと思った。

だけど、俺は連絡とる勇気すらなくて……。


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