宿無し根無し草
「第一、裸エプロンって何よ! そんな恰好を最初に考えたヤツを今すぐにでも
ケイの元から……もとい、私の自宅アパートを真里谷の変態令嬢に乗っ取られていて、最寄りの自動販売機で
「真里谷ケイさんの奇行や裸エプロンの話は、よく分かりましたが……うっ酒臭い……これから、どうするんですか……ワタシ自身は、羽差機なので
「
「なんですか……その、やたら不吉な名前の宿は……」
「低料金で棺桶みたいな形の、
「ハンガー……って、駐機場のではなく?」
「どちらかというと洗濯の方のハンガーよ。シンプルに紐がかけられている部屋に、洗濯物みたいに、こうやって、身体をもたれたまま——」
「駄目です」
「えっ……でも」
「でも、じゃなくて駄目はものは駄目です。他を探しましょう。
ノミミの強い反対のせいか、私は安宿を諦めて、彫師は彫師らしく……私の仕事場でもある大工房にて、寝泊りする事となった。ある意味、居住区画よりも強固なセキュリティを施されているので、実際、ここで暮らしている彫師もかなりの数はいたし、ノミミを彫っていた時は、ずっとココにいたのも事実だった。
「どうして……お姉様は、ここで暮らさないのですか?」
「逆に聞くけど、ノミミあなたはずっと分娩室で寝食をしていたいと思う?」
「うっ……それは……」
「まあ、昔の私はそれで構わなかったけど、ツネカが強く反対してね、今さっきのノミミのように……って、アレ……」
まさか、またか! と、思った。大工房に入るとき、入念なセキュリティチェックに入るのだが、一つのチェック項目が外れていたのだ。いや、再起動し忘れていると言っていいだろう。何千とこのチェックを通っているので、それを見逃すほど、私の目はクサくはなかった。
「ノミミ……戦闘体勢に切り替えて……誰かがココに侵入している」
「まさか、真里谷ケイさん?」
「分からないけど……彼女自身が、ハック&クラックのような芸当が出来るとは思えないからね、私を拉致る為に、金で雇った傭兵の仕業かも……」
「そ、そこまでして……お姉様と結婚しようとする意味は一体……」
「意味なんてないのよ……欲しいと思ったら力ずくでも手に入れようとする、傲慢な企業体のやりそうな事……よね!」
突然、真上からの警告表記が出て、ノミミを全力で走らせてから、壁を蹴り上げ振り返り、その襲撃者に掴みかかって、各々の関節を締め上げた。どんな、腑抜け野郎かとそのツラを確認してみたら……今日は何というか本当に、天神府で出会った連中と縁がある日だった。
「て、テメエ……奇妙なジュ―ジュツを使いやがって……」
「合機術よ、ハツホ。あんたみたいな、海賊らと戦う為に、生み出された白兵格闘術……羽差機だけではなく、私のような
流石に同じ手は食わない。同期嚢の扉へハックしていたノゾミを扉ごと吹き飛ばして、床に倒れ込んだ神々廻ノゾミに燈銃を向ける。
「アッハ……さっすがは、ハッチサマ……二度は通じないよねー」
「神々廻ノゾミ……今日の私は宿無し根無し草でね、すこぶる機嫌が悪いの。またなんか、サインをねだったり、私の過去を詮索しようとする真似をするなら、迷うことなくあんたを撃つ。どうせ、流天機には登録していなんでしょ?」
「参ったな……ジブン、そんなつもりで来たわけじゃないのにサ」
ノゾミが制服の懐から、何かを取り出そうとしていたので、銃を構えてみたら、それは古風な紙メディアであり、封筒のようなもので、表には達筆な文字でこう書かれていた。
「す……推薦状?」
「はい……ハッチサマ。改めまして、上級技術彫師である伊波ハチ様……ジブン……神々廻ノゾミを……どうか、あなたの弟子にして頂けないでしょうか?」
そう言って、ノゾミが元海賊とは思えない程の、綺麗なフォームの土下座を私に向かって、頭を思い切り深々と下げたのだった。
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