青春破綻者たちの事件簿

赤衣カラス

プロローグ

プロローグ

 青春という箱庭は五つのヒエラルキーから構成されている。一番上は誰がどう見ても自由かつ完全無欠に青春を謳歌している青春ヒーロー。

 その次が家や人間関係の柵があって自由度こそ青春ヒーローに劣るものの、それでも十分以上に青春を謳歌している青春強者。

 真ん中に入るのは人並みの学生生活を送る青春凡人。

 下から二番目、友達がまともにおらず部活もそこそこ、本人にも面白みがないのが青春貧者だ。

 そして最下層に位置するのが、友達ゼロで部活動もまともにやらず、本人に致命的な問題がある青春弱者だ。

 ちなみにあたしは最下層の青春弱者である。

 小さい頃から友達というものが欲しかった。けど、一人もできた試しはなかった。できなかったのは当然で、その努力をしてこなかったからだ。別に人見知りというわけではない。人に話しかけるのも、人に話しかけられるのも、苦手意識は皆無だった。ただ、あたしは致命的なまでに性格が人と歩幅を合わせるのに向いていなかった。

 やりたくないことはしたくない。興味のないこともしたくない。つまらない話は笑わない。そしてそんな自分を曲げたくない。そんな協調性皆無のクソガキに付き合ってくれる者などいるはずがなくて、あたしは常に一人だった。

 そりゃあそうだろうという思いがずっとあったため、寂しいとは特に思わなかった。

 出る杭は打たれるという言葉があるが、打たれてすらいない杭はもっと打たれる。いじめや嫌がらせの標的になったことも何度かあるが、その度にそいつら全員暴力で黙らせて、苛立ちを募らせていた。

 他人に合わせれば、こんな悩みなんてすぐに解消したはずだ。やろうと思えばいつでもできたと思う。でも、やらなかった。……それが、あたしという存在の敗北に感じたからだ。

 自分を偽って世界に溶け込む……そんなのまるで、自分が世界から必要とされていないようで、腹立たしいではないか。成績も良い、運動神経も良い、容姿も良い……ただ性格が悪いという一点だけで敗北宣言をするなど、馬鹿らしい。逆転のチャンスが必ずくるはず。

 そんなクソみたいにプライドが高いから、こんなことになっているんだろうに……。

 高校生になったあたしは流石に自分をそれなりに客観視できるようになっていた。ただ今度は別の理由から自分を偽ろうとはしなくなった。

 ここで謝罪を一つ。先ほど長々と青春ヒエラルキーについて語ったけれど、それは中学二年生という人が最も馬鹿になるときに思いついた痛々しい指標なので、一切を忘れてもらって構わない。今はもう使っていないのだ。じゃあ何故語ったのかというと、一度青春ヒエラルキーを打ち立てたことによって、とある存在を浮き彫りにすることができたからだ。重要なのはそっちである。

 それこそが青春破綻者せいしゅんはたんしゃ。ヒエラルキーの番外とも言える存在だが、序列はどこに入ると聞かれると、青春弱者のさらに下。つまりは最下層だ。しかし青春ヒエラルキー論を取っ払った現在においては、ただの愚かな存在として独立している。

 自分を偽ることは、いずれ青春破綻者に落ちる可能性があるのだ。だからこそ、いつか自分がそうならないために青春破綻者を観察・研究しなければならない。


 これこそが、あたしの物語なのだ。

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