9.深夜の誘い
宮里くんたちとメッセージのやりとりをするためにグループを作りました。前に小説を読ませて欲しいと言っていたのでそのためです。社交辞令ではないことを祈ります。
内心、かなり高揚しています。友達との絡みが薄かったので、さすがに嬉しすぎます。
『最近書いてるものです。まだ完成ではないですが許してください』
いつもより硬い口調になっているのは緊張しているからです。慣れてないので。
『わかった』
『りょうかい!』
二人からは私が送信してからものの数分で返事が返ってきました。どうしよう。返信遅すぎて嫌われたりしたら。と、考えて、二人なら「それくらい大丈夫だよ」と優しくしてくれるだろうと思いました。この優しさにかなり甘えちゃってる気がします。
『ありがとう』とだけ返して、どっと疲れたので、私は一度部屋のベッドに寝転がりました。
こうしていると中学生の頃を思い出します。以前にもこうやって定期的に私が書いたものを読んでもらったことがあったんです。そのときは宮里くんだけでしたが、今回は葵くんもいるので心強い。
私はいつも誰かのおかげでなんとか踏ん張れています。
小学生のとき、毎日のように近くの公園でバレーボールの練習をしていた同い年くらいの男の子。あの子のおかげで嫌いだった算数もラジオ体操のための早起きも自由研究も出来たと思います。
私が初めて小説を書き始めた頃、なかなか評価の上がらない自分の作品を見て、素人なりに苦しかったことがありました。そのときの私が挫けなかったのは、学校に行かなくなった私の家に宮里くんが来てくれたおかげです。
小さい頃から、自分の内面をさらけ出すことが嫌でした。歌を歌うのも、授業中に発言するのも、図画工作で作った作品を見せるのも恥ずかしかったんです。だから、小説を書いていることがばれたとき、しばらく学校には行けなくなりました。
今思うと迂闊でした。授業中に内職なんてするもんじゃありません。
暗くなった部屋、天井を見つめていると嫌なことばかり思い出します。ただそれと同時に、彼が教室で言い放った言葉も――。
夜もいい時間になりました。日付は変わっていますし、部活で疲れてるであろう二人はもう寝てしまったでしょうか。
私もそろそろ寝よう。そんなふうに思い布団を掛け直したとき、スマホが短く鳴りました。
「あ、葵くんからだ」
個人チャットのほうでメッセージがありました。なんでしょう。
『小説読んだよ
面白かった。また読みたい』
……生きててよかった。というと大袈裟かもしれません。ただ、もしこれが真実ではなかったとしても嬉しい。本当に嬉しい。
何度もネット上に投げてきたので程々に感想はいただきましたが、どれも顔の見える相手ではありませんでした。
そこに居て、実在する人からの好評は力になります。自然と顔がにやけているのを感じます。鏡には映りたくありません。
『ありがとうございます。励みになります!』
らしくないマークなんて付けちゃって、なにをしているんだか。
そうやってベッドの上でのたうち回っていたところ、再び通知音が鳴りました。見れば、葵くんからではありません。
「宮里くんだ」
二人とも疲れていないのかな。って、え?
『いま電話しても大丈夫?』
午前0時43分。たぶん、大丈夫だと思います。
心臓は高鳴ってそれどころではありませんけれど。
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