ペアと協力するだけの簡単なゲーム

藤間伊織

第1話 0

真っ暗だ。何も見えない。


俺は今目を開けたはずだが視界は変わらず黒いままだ。

「やっと起きてくれたか」

男の声がした。


「誰だ?今俺はどうなっている?」

「椅子に座らされてロープで後ろ手に拘束されてる。手首、腕と胴、太もも、足首。椅子と一緒にぐるぐる巻きだ。それと視界が暗いのは目隠しをしてるからだ。」


そう言われてから、体に食い込むロープの感触や血管が圧迫される感覚、ずっと固定されていたであろう肩の鈍い痛みに気づいた。


俺が更に質問を続けるより先に男の声がする。

「そんなことはどうでもいい。今はあんたの意見が聞きたいんだ」

どうでもいいことはないだろう。普通ならそう言い返すところだが、男の声には緊張と震えが含まれていた。


「……なんだ」

「赤と青、どちらを切る」

「は?」


赤と青、そのセリフで真っ先に思い浮かぶのはサスペンスでみるような、時限爆弾だ。ニッパーを持って赤と青の線を行ったり来たりする。決めかねている間にも、黒いディスプレイに赤いタイマーが表示されていて、0に近づいていく。


「今あんたが思い浮かべたものは多分正解だぜ」

人が近づく気配があり、俺の前で立ち止まる。


耳元で「ピッ……ピッ……」という電子音と男の速い呼吸が聞こえた。

反射的に音の方を向くとバランスが崩れ、ロープが更に食い込んできた。椅子が倒れないのは床に固定されているからだろうか。


「危ないな、落ちたらどうする。もしぶつかりでもしたら爆発するかもしれないんだぞ」

「……!」

「それで?どっちにするか決めたか?別に間違ったってあんたのこと恨んだりしないさ」


さっきからわざとらしいくらいに飄々とした話し方をする男だ。


「そっちは目が見えているんだよな?だったら自分で決めたらどうなんだ。俺に任せて失敗するなら、自分の決断のほうがまだ諦めもつくだろう。身動きの取れない奴に意見を聞く必要はない」

「そうもいかないんだよな、これが」

「どういう意味だ」


「『ルール』だからとしか」

「ルール?」

説明を求める意図は伝わったはずだが、男は無視して俺の回答を急かした。


「早く。赤か、青か。選ばないのもルール違反だ」

有無を言わせぬ口調に、もう何を言っても意味を為さないのがわかり、仕方なく答える。


「赤」

「ありがとう」


穏やかな声で礼を言われ、俺の意識は再び消えていった。

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