10 ボードゲーム「進化の罠」

その次の日、モリーがまたポーラースターへと出かけていった頃、派手なメガネの男が狸顔の女と、物陰でひそひそ話をしていた。

チャラい男ととぼけた顔をした女だったが、そう、この2人、モリーを電話サギでひっかけて金を巻き上げようとした、とんでもないあの2人だったのだ。

「…ふうん、やはりそうか、今度の総理の一声で内閣調査室が動き出したか。大型店舗の移転により渡河やつは言っていたようだが、やはり政府の意向で動いていたか。やつがその事実を認めないようなら…」

「そうですねえ、政府と密約で作られた施設とか、そこからでもスキャンダルのネタが、採れそうですねジェンキンスさん」

「おーっと、そろそろ客の来る時間だ、ボスが奥からやって来た。ぬかるなよ、デイジー」

奥からやって来たボスと呼ばれた背の高い2枚目風の男はサングラスを取って服装をもう1度整えるとレストランの玄関に来て客を受け入れる体制になった。

「お、来たぞ」

このスターシードランドの創業者スターシード氏は、秘書のお姉さんデボラを連れて、あのデモ隊の連絡本部になっている高級レストランルーニーズまで出向いていた。

「初めまして、私がこのスターシードランドの代表取締役、ビッグバンスターシードです。こちらは秘書のデボラブリーズ」

スターシード氏がいつものあかるい親しげな笑顔で握手を求めると、そのハンサムで若い経営者は、かすかに微笑んでそれに応じた。

「わざわざそちらから出向いていただいて光栄です。私がこの店のオーナー、ルーニーサンダークラウドです」

ジェンキンスとデイジーの手下コンビは客に席を勧め、さっと紅茶の用意をした。

ボスのルーニーが先日の書類に目を通していただけたかと聞くと、スターシード氏はにっこり笑ってうなずいた。

「ああ、10日前にいただいた要望書は、すぐに目を通し、対応策をスタッフで討議しました。そして綿密な話し合いの結果、前向きな答えとしてのこちら側の新しい提案書を、さっそく持ってきました」

しかもこの提案は関係者の承認が得られ次第すぐにでも実現に向けて動き出すという。

優しそうなお姉さん、秘書のデボラがきっちりとプリントされた提案書をオーナーに渡した。オーナーのルーニーサンダークラウドはざっと目を通すと言った。

「驚きました、まさか、10日ほどでこんなきちんとしたお答えが返ってくるとは」

ルーニーが最初に送った要望書には、1.なぜ今難民教育センターが必要なのか、2.難民教育センターはどのような施設になるのか、3.スターシードランドにふさわしい遊べる楽しい施設に変更する気はないのか。

もしきちんとしたお答えがいただけないなら、デモはこれからも続くだろうと締めくくっていた。だが秘書から受け取った提案書にはかなり前向きな内容が書いてあった。

1.難民や移民が増加する最近の世界情勢の中で一番の壁は言語の壁である。だがスターシードランドのように翻訳機能付きで日常生活やアルバイト体験などができる場所は他に例がなく国からも言語教育において高く評価されていた。先日内閣調査室から、言語教育に本腰をいれて取り組んでほしいという要望があったため、そこで難民教育センターが取り組まれることとなっていた。

2.ちょうどその時、人通りの多い2番街の大型専門店3店が売り上げ減少のため撤退することになっていた。そこでもともとの仮想空間での土地の権利を持つスターシードランドが、その空き地に新店舗を入れず、政府から要望のあった、言語学習のできる大型施設を入れることが計画された。当初はバーチャル通学できるル日本語学校、体験で学べる日本語学校などが企画された。

だがそこで起こったのがこの反対運動であり、多くの人を巻き込んでのデモ運動だったのだ。

「そこでわれわれはじっくり話し合い、来た人誰もが楽しめて日本語学習にも高い効果のある施設を新しく作れないものかと、考えてみた。それがこのアースバザールだ。どうだね、ルーニー君」

スターシード氏は自慢げにボスのルーニーに提案を始めた。自信の作のようだ。

「アースバザール?…いやあこれはやられたこれは…」

ルーニーが意外な反応をした。これは博覧会と世界旅行とエンターテイメントを合わせたような企画だ。地球を気候や文化圏で6つほどのエリアに分け、そのエリアごとに大きな建造物を作り、その地方の郷土料理や、名産品のショッピング、カルチャーセンター、踊りや歌曲などのエンターテイメントを楽しんでもらうというものだ。

なるほど、言われてみれば今までスターシードランドには世界各国のお買い物ができるという場所はなかった。

おもしろいのは、その3店舗の移転後の広い敷地にずらりと並ぶその高層ビルの外装デザインだ。そのエリアを代表する彫刻や美術品がモチーフになっていて、そびえ立つミケランジェロのダビデ象、光り輝くツタンカーメンの黄金のマスクや天を突くような自由の女神、圧倒的な巨大金剛力士像などを巡るだけで、簡単に世界旅行気分だ。しかもこのビルはライティングが変わる様に、その外装のオブジェのデザインを変えることを前提に作るという。季節や時間、特別な記念日などに合わせて、外装のCGがころころ変わる計画なのだという。

それぞれのビルの中に、各国の観光資料室やレストラン、お買い物コーナーやカルチャースクール、劇場、シアターなどが入っていて、国や地域ごとのいろいろな楽しみが味わえる。各国の料理も、もちろん宅配サービスで味わえる。

そしてすべての高層ビルの中では公用語は日本語と英語、翻訳機能を使いこなして日本語学習にももってこいだ。またここでは従業員はすべてそのエリアの人がネットでアバターを動かして参加する。日本語を勉強したい人は母国や難民キャンプの自室からでも参加でき、同時にバイト代を稼ぎながら、日本語に生活を送り、かつ、日本語での職業訓練まで同時に体験できるのだ。しかも数年前から別目的でスターシードランドが開発して来た日本語学習プログラムや、段階別、日本語の会話能力判定テストまでいつでも受けられるのだ。

気軽に現地人スタッフと触れ合い、現地の文化に触れ、食べ、世界旅行気分が味わえるということなら、日本人客もガンガンやって着て楽しめるだろうし、移民や難民も日本に行く前から生きた日本語体験や職業訓練ができ、小遣い稼ぎもできるのだ。

一通り受け渡しの話し合いが終わると、スターシード氏はデボラと一緒に明るい顔でレストランから去っていった。

派手メガネのジェンキンスと狸顔のデイジーの手下2人組は、舌打ちをしてこそこそとぐちをこぼしていた。

「…ボス、ほぼ完ぺきな提案ですよ、こんな提案が実現しちまった日には、、難民の教育センター反対のデモそのものがなりたたなくなっちまう…」

「内閣調査室のことも最初から書いてあるしな…」

狸顔のデイジーもため息をついた。

「…せっかく気づかれないように情報操作を重ねて大型店の売り上げを2年がかりで徐々に減少させ、苦労してやっと移転へと追い込んだのに…」

ボスも悔しそうにつぶやいた。

「あのエリアの区画のネット賃貸料は2年前の2ばいだ。まだまだ上がるだろう。それがまとまって3店舗、ドドンと大きな区画がまとまって更地になるとすれば」賃貸料は天井知らずだ。やっと3店舗を移動にまで追い込んだのに、これじゃあすべて水の泡だ」

「…ボス、どうします」

「…仕方ない…あの作戦だ。あのモンスター作戦だ」

モンスターで追い出し、計画そのものをつぶす。

「え、モンスター作戦ですか、それはさすがにまずいのでは?」

「安心しろ、あのゴーストを使えばアリバイは完璧だ。誰もおれたちのこととは思わない…」

このボスのルーニーサンダークラウドという男、上品な封を装っているが、かなり危険な男のようだ。

「わかりました。さっそく手はずを整えましょう…。デイジー、行くぞ」

ボスのルーニーはそんな2人を見送ると、不気味なほほえみを浮かべたのだった。

その頃モリーはプラチナテーブルのある部屋で突然決断をせまられていた。

「ええっ、明後日ですか?そ、それは…」

マダムクリステルはクールに言い放った。

「1年に数回しか開かれないプラチナルームのボードゲーム大会が、急遽、明後日開催されることになりました。参加は2人で1チーム、ボードゲームに勝つと、願いが叶うと言われています。申し込みの締め切りは開催宣言があってから3時間です。今日はあと2時間12分で締め切ります。1度エントリーしてしまうと、絶対にキャンセルはできないし、もし当日来れなかったり人数がそろわなかったりすると、もう2度とこのポーラースターに出入りすることは出来なくなります。よろしいですか」

「ええ、だめだと、で、出禁になるのそれって厳しすぎるんじゃ…」

謎のボードゲーム大会の秘密に迫るためにもここはぜひ参加したいところだが…、自分だけだったらまだいい、でももう1人誘ってチームを作るとなると問題は別だ、明日は平日だから、仲間の高校生は普通なら授業だ。サリコサレキ先生に許可をもらったとしても、奇妙なメンバーばかりのボードゲーム大会に誰が進んできてくれるだろう?

「さて、モリーさんはどうします?明日のボードゲーム大会、エントリーしますか、やめますか?ああ、1つ忘れていました。ボードゲームの元を作った魔法少女関係の人たちはゲームに参加できないことになっていますから、お忘れなく」

ぎりぎりまでエントリーを遅らすという作戦も頭をよぎった。でも、モリーはいつもの調子で元気よく言った。

「はい、モリーラプラス、明日のボードゲーム大会にエントリーします」

エントリーしてしまえば、後はとにかくゲームのパートナーを探して一直線、やるっきゃない状態に自分を追い込むのだ!

「さあて、誰を誘おうかな?」

1番誘いたかったのは、本当はレオンだったけど、魔法少女の兄だからダメそうだし…」

モリーはクラスの女子とも仲がいいし、男子ともけっこう付き合いがある。でも普段はわりに1匹オオカミでいつも一緒の仲良しは特にいない。

「そうだ、こんな時はあのクラスメイトに相談しようっと」

モリーは中休みの時間を狙って学校につないでみた。

「あ、世界史の授業がまだ終わってなかったのね」

なんと教室には世界史のエリカベルヌ先生がいて、その隣では、フランスの太陽王ルイ14世(AI捜査のアバター)が、自身が創始者でもあるバレーを踊っていた。派手な衣装で、足を振り上げ、楽しそうにステップを踏んでいた。

「はい、今日はここまで、この時代にみんなで芸術に親しむサロンなども生まれたのよ、ではさようなら」

先生はゴージャスなルイ14世とともに消えていった。

中休みで教室ガザ湾着いてきたとき、モリーは聡明な学究委員長のマルガレータマルレーンを見つけてそっと近づいた。

「へえー、モリーちゃんは1週間ぐらい特別研修だって聞いていたけど、何かあったの?」

そこでモリーがかいつまんで説明すると、マルガリータはさっと問題点をまとめてくれた。

「ボードゲームの大会に出るのね、ボードゲーム付きが集まって、確か愛好会を作ってたわよね。確か何人かいたわよね。それから、勝ち負けよりはまず謎解きなのね。ええ、参加メンバーがブタ恐竜とか、黒づくめの男なんだ…。へえ、え、ライオン頭も来るかもしれないって?そりゃあ変った人たちね。いくら自由なアバターの世界だと言っても、さすがに普通の女子にはきついかもねえ。ゲーム付きで、謎解きに集中できて、奇妙なことにも驚かない人ねえ…」

聡明なマルガリータマルレーンは少し考えると指をぱちんと鳴らして笑顔で答えた。

「モリーちゃん、いるじゃない、わがクラスにぴったりの人材が」

「ええ?そんな人、うちのクラスにいたっけ…」

それは誰もが納得の人材だったのだ。

さて、その頃、フリントピッとマーベラスの魔法アイテムが収められている通称魔法倉庫に強力なハッカーが侵入、貴重な魔法アイテムが大量に盗まれた。すぐにスターシードランドの対ハッカー技研や警察のサイバー事件担当が捜査に当たったが、何も証拠を残さない見事な手口でどこもお手上げだった。だがあのマリオネットコウジだけは、別の方向からの分析で何かをつかもうとしていた。

「問題なのは、どうやって盗んだのかではなく、盗んだ目的だ。あんな、スターシードランドの中でしか使えない、しかもビジュアルな魔法アイテムを何のために結んで、何をしようとしているのかということだ」

マリオネットコウジは、盗難品がネットのどこかで売買されていないか、どんな小さなアイテムでもどこかに出ていないか、使われていないかと、毎日チェックして回っていた。

そして数日後、彼のスターシードランドに放っていた部下の女子大生岩本から連絡が入った。

「マリオネットコウジ、魔法少女が使うアイテムだと思われるものがダウンタウンのビルの屋上で使われたようです。場所は…」

マリオネットコウジは、何か悪い予感を感じながら、現場に向かったのだった。

現場では岩本が1人で待っていた。

「ここは、昭和時代の屋上遊園を再現した空間です」

「懐かしい、動きがゆっくりで眺めもいい、のんびりできるなどと、意外に人気があるらしいです。昨日ここを中心に10m四方ほどが光に包まれる怪事件があり、私が駆け付けたときはこんな有様でした。こっちが、幼児用の動く遊具、乗ってコインを揺れると前後にゆらゆら揺れる宇宙船ドリーム号、そっちがのこのこ歩くパンダちゃんです。昭和の人はこんなもので喜んでいたようですね」

「ううむ、信じられん、こんなことが起きるなんて…」

マリオネットコウジの驚きようは尋常なものではなかった。岩本は説明を続けた。

「ドリーム号を吊り下げていた金属フレームはゆがんで本体が床に落ち、パンダちゃんはコースの低いネットを越えて、3mほど吹き飛び、倒れて動かなくなっています。何か魔法の爆発物が使われたようです」

さらに屋上の片隅にある資材倉庫を開けると、もとは90cmだったはずのPR用の、パンダのぬいぐるみが、3m近くに巨大化し、ギュウギュウに詰め込まれていた。

「岩本君、私が驚いたのはそんなことじゃない。ここはスターシードランド、すべてがコンピュータグラフィックでできた仮想世界だ、このドリーム号も歩くパンダちゃんも実在しないただの立体的な絵に過ぎない。それが自分でコースを外れ、本物の爆発に出会ったように吹き飛んでいる。しかもぬいぐるみのほうは、何倍にも大きくなって倉庫の屋根を突き抜けそうなほど巨大化している。こんなことはありえない」

マリオネットコウジはすぐにスマホを取りだし、スターシード氏に連絡をとった。

「今すぐ、関係者をこの場所に送るそうだ」

ほどなくして屋上に光が輝き、魔法少女が手レポートしてくる。魔法少女のリーダーセーラジェネシスと眠るほどに強くなるミランダホイップスの2人だ。2人はコンピュータグラフィックのはずの屋上で遊具が壊れ、吹き飛んでいるのをみて驚いていた。

さらに巨大化したぬいぐるみを見て確信した。

「なるほど、空間のひずみ具合から考えても、魔法公房で作られた魔法道具が使われたことに間違いはないようですね」

「教えてください、セーラジェネシス、犯人はどんな魔法道具を使って、何をしようとしていたのでしょう」

2人の魔法少女は、いろいろ当りを調べて回り、相談して結論を出した。

「その最初にこの辺りを包んだ光から推理して、リアルブレーカーが使われたものだと思います。でもそれはものすごく特殊な魔法で、普段使われることはありません」

リアルブレーカーとは、なんと巨人ボクシングの、ストリートファイトに使われるもので、街中で巨人が戦った時、もちろん立ち入り禁止のエリア内で、建物をぶっ壊しながら、巨人が戦うというものだ。この光に包まれた範囲だけ、強い力を加えると、本物のように建物が崩壊するという代物で、ファイトが終われば、何事もなかったように、破壊された箇所は完璧に復元するのである。

「巨人のボクシング試合はよく行われているが、ストリートファイトは去年から始まった新しい試合形式で、必殺技で大きな建物が吹っ飛んだり、建物を使って立体的な攻撃をしかけたりできるのだ。この魔法はまだ数えるほどしか使われていない。さらにミランダホイップの分析では、同時に御題化させるジャイアントマジックと、命のないオブジェを生きているように動かせるマリオネットの魔法も使われたらしいとのことだった。犯人グループがどこでそれをかぎつけたのかわからないけど、困ったものね。これを悪用すれば、壊れるはずのないこのCGノスターシードランドの街並みが次々に崩れ去り、人々の悲鳴が響き渡ることになるかもしれない」

その頃、下火になったセンター予定地の跡地に久しぶりにたくさんの移民や観光客が集まって来た。

目の前に広がるのは移転した3つの大型商店の跡地だ。更地になると結構広い。これからここに新しいいくつもの移民交流ビルが建築されるというのだ。

ネットの情報によると、立ち入り禁止が確認されてから45秒でデータの転送が終わり、約15秒で建築が完了、中の点検確認は転送前にすでに終わっているので、全工程60秒で建築が終わるそうだ。

「おお、時間だ、データの転送が始まるぞ」

それから45秒後、ヨーロッパを中心とした地域交流ビルヨーロッパが、ドーンと目の前に聳え立つ。屋上の巨大オブジェは身長17mのミケランジェロのダビデ象だった。

「おおお!」

その本物と見間違うほどの、さらに巨大なダビデ象に人々は目を見張った。

そしてすぐ隣のピラミッド状の建造物の上にはツタンカーメンの黄金の象が現れた。さらに次々と、自由の女神や南米の翡翠仮面、金剛力士像などのその地域を代表するオブジェたちが姿をあらわす。

1つ1つのオブジェがとても巨大なのにかかわらずCGの仕上がりが高精度でとても美しく、つめかけた観客たちから大きな拍手や歓声が沸き上がっていた。

この巨大オブジェのあたりでは、ビルは、これからすぐに人々が入り、なんと2日後にはセミオープンするのだという。

そしてその翌日、ゲーム大会当日の幕が上がった。

あの輝く銀色のプラチナテーブルにはまだ誰も着席していなかった。何人かは壁際に立って時間を待っていた。モリーも最初は壁ぎわで始まるのを待っていた。

やがて時間になって入ってきたのは立会人アレックスライオンハート教授だった。

教授は1番にエントリーしていたコンビを呼んだ。

「エントリーナンバー1番、ハコガメイカのシバシグマ、オクトバクウータンのファゴットメアリチーム、要求は、海洋生物を守れだ」

すると珍獣の長老のリーダー、シバシグマは語り始めた。

「もとはと言えばこのプラチナテーブルのゲームは、このスターシードランドの住人の1員として、珍獣の長老たちが何かできないかと話会ったのが始まりだ。あるものは自然環境の破壊を防ぐ運動をこの仮想世界で行うべきだと言い、ある者はまず人類の愚かな戦争を止めどのるように働きかけるべきだと言った。でも、どの問題も重要で優劣はつけがたい。それでいっそゲームで取り組む順番を決めようと始まったのがこのプラチナテーブルのゲームじゃ。だからこのゲームに勝つと、このスターシードランドのあちこちでその要求が実現するようにみんなが取り組んでくれる。厳しいペナルティもあるが、それてゲームに本気で取り組んでほしいということじゃ。ちなみに我がチームの要求は海洋生物を守れだ。現在の海の生き物は、海の汚れやプラスチックごみ、地球温暖化による水温や海流の変化、さらには、海洋酸性化などに脅かされておる。我々は、このスターシードランドから発信し、海洋生物を守る運動を展開していきたいのだ」

オクトバクウータンのファゴットメアリも胸元から延びるタコの蘆を伸ばしアピールした。

エントリーナンバー2の別の長老コンビも呼び出され、さっそくアピールだ。

2番、ハガクレフクロウテナガザルのジャングルマーカスと、ケラダンゴツチブタのミックモービー、彼らの主張は希少な生物を絶滅から守れだ。

だが、ライオンハート氏から次のエントリーチームが呼ばれると、会場はざわついた。

「次はエントリーナンバー3、マダムクリステルとエカテリーナノバ女王…」

名前を呼ばれると、マダムは、顔のベールをしたままで前に出たではないか。

でもなぜだろう怪しいベールをしたままのマダムが、高貴で美しく見える。大きな出っ歯が突き出ているのにどこかかわいらしいハダカデバネズミのエカテリーナノバ女王もそんなマダムを見てほほ笑み、ここに最強の女子チームが誕生だ。

「私たちは人類の人口の増えすぎを冷静に討議したいと思います」

そしていよいよモリーの番だ。

モリーはこの日のために、飛び切りのコスチュームをポケットに忍ばせてきた。

えいっ!ファンタリアさんにもらったおまけの鳥人間のワンピースよ。

光が瞬き、モリーは新しいコスチュームに包まれていた。

「…エントリーナンバー4、モリーラプラスとテッドトンプソン」

そう呼ばれたとき、入り口のドアがさっと開き、あの大きな目が愛らしい、カエル人間が出てきた。モリーは、頭の羽飾りと美しい尾羽のついた派手なドレスを着てテッドとともにプラチナテーブルに進み出た。

そう、このカエル人間はサリコサルキ先生に許可を得て今日だけ学校を休んで駆け付けたテッドトンプソンなのだ。

今回はエントリーチームが多く、いつもは4チームで対戦だが、複数の追加チームがあるらしい。次のチームも結構なインパクトのあるチームだった。そう2人とも皮膚が透き通った、内臓丸見えのあの男女コンビだ。

5番、アンドロとギュノー、私たちの主張は「地球から核兵器をなくせ」です。

そして次にライオンハート教授からはまさかのあの2人がコールされた。

あのアンソニーゲオルギウスの変身と思われる全身黒ずくめの秘密結社の狩猟のような怪しい男がブラックマターと名乗って1人目となり、さらに、ラプトルのようなすばしこい体が羽毛に覆われ、ブタのような顔と高い知能を持つ恐竜人類を2人目とするコンビだ。

この恐竜人類は、寒冷地の草原を疾走するサイガと呼ばれる鼻の大きなオオハナカモシカと同じような進化をしたものらしい。

「6番、ブラックマターと偉大なブタ、私たちは約1億5千年前、恐竜人類が愚かな戦争の果てに地球を滅ぼした歴史を知っている、人類にも同じ過ちを繰り返さないように警告したい」

そして最後にコールされた名前こそ、まったく予想しないものだった。

7番、シャドーピエロ、アンディーライム。

アンディーライムというのはこの間のパレードの時に悪夢を見せられた被害者の女子大生だった、それが何でチームとして出てくるのか?

そしてアンディーライムが1ニンデプラチナテーブルに着くと、その隣の席のテーブルの上にあの気味悪い骸骨の顔がにょきっと現れ、そして笑い声とともに、ニョキニョキと植物が伸びるようにシャドーピエロがその細長い姿を現したのだった。

「こんにちは、わたしだよ。わがチームの主張は、楽しむほどにつらい現実を思い出せだ」

7組14人の勢ぞろいで、さすがの大きなテーブルもほぼいっぱいになった。するとそこに、このゲームの開発者にして魔法使い、メガネのレイチェルローズウッドが姿を現す。

ルール説明だ。メガネ娘のレイチェルは、自慢のメガネをクイっと持ち上げてから説明に入った。

「このゲームの題名は、進化の罠です。ダブルダイスを転がし、生きて動くコマ(ライドル)をすごろくのように進め、誰が1番進化金貨を貯めることができ、その能力を有効に使えるかが勝負の分かれ目となります」

ライドルには、以下のような動物のかわいい子供がなります。

カメ;ムウ、トカゲ;チョロ、ネコ;ミイ、いぬ;バウ、カエル;おタマ、鳥;ピイ、

ブタ、ブウ、魚;パク、コオロギ;リン、たこ;チュー、リス;カリン。

「うわあ、どの子供もかわいい、どれをコマにする?てっど。やっぱりオタマ?」

するとテッドはなぜか気乗りしない感じだ。

「カエルの子は当たり前だけどオタマジャクシだ。あれはすぐに大きくはなるけどカエルじゃないからな。オタマは正直あまり気が進まないんだ。今回は、鳥の子でいいよ」

「うふ、ラッキー!じゃあ今回は遠慮なく鳥の子ピーちゃんをうちのチームのライドルにするわよ」

ゴムでできたセキセイインコの10cmほどのオモチャみたいなピーちゃんがモリーのチームのライドルになった。よちよち歩きで、なんかたよりなさそうだが、知性的な感じもして応援したくなる。ほかのチームもそれぞれライドルを決めて、スタート地点に各チームのライドルが出そろう。さらにチームカラーを決めてそれがライドルのカラーにもなる。

1番ゴールド;ブタのブウウ、シバシグマ、ファゴットメアリ。

2番アースグリーン;ヘビのニョロ、ジャングルマーカス、ミックモービー。

3番スカーレット;カメのムウ、マダムクリステル、エカテリーナノバ女王。

4番蛍光イエロー;トリのピイ、モリーラプラス、テッドトンプソン。

5番クリアブルー;猫のミー、アンドロ、ギュノー。

6番メタルブラック;トカゲのチョロ、ブラックマター、偉大なブタ。

7番バイオレット;コオロギのリン、シャドーピエロ、アンディーライム。

1周り大きな白いサイコロと、小さいけれど赤と青に色分けされているサイコロが、いよいよ転がりだす。

4―3や6-2など、1度に、2つの数字が出る。大きなサイコロが6なら6マス進み、内が1、2、3の赤い数字なら止まったそのデータを、4、5、6の青い数字が出たらその時歩いたそのうち1つを選択できる。

「では始めましょう」

レイチェルローズウッドが本棚からボードゲームを1つ取りだし、銀のテーブルの隅で本を開くように中を開けた。

「まずは練習ラウンド、始まりの島です」

そう説明した途端、銀色の鏡のようなテーブルが、あちこちでモリー上がり、川や湖、立体的なボードゲームの盤面になった。

そしてその中にくねくねと石畳のすごろくロードがひろがる。

さらに本格的なデジタルナレーターの解説が加わる。

「たくさんの生き物がすむ緑の大陸で火山活動が活発になり、土地が隆起した李、火山灰が降り出したり、火山性の慣例化が起こったり、地震や津波などの地殻変動で機構などが劇的に変わり、進化が加速されます」

森から草原に変ったり、餌の種類が変わったり、二足歩行が加速されたりするのだ。

この練習ラウンドではこんなことが、とまったマスに書いてある。

♡体温;活発な火山活動により寒冷化する気候に合わせ、貴方は体温を調節して温める能力と、熱を逃がさない毛皮や羽毛皮を手に入れると毛皮、羽毛、ベストなどの洋服を装着する。金貨1。

●火山の爆発によって恐ろしい火山弾が降り注いだ。何人もの被害が出た。失1。

♡今度は大地が隆起し、気候が変わり、森林から平原に変った周囲の環境の中で、あなたは直立二足歩行の能力を発達させる。足が長くなり、背骨を立てて歩ける。金貨2。

♡獲物を追いかけて狩をするようになる、獲物の行動をよく見て動くため、脳が発達し、立体死できるように目が頭の前に並ぶように進化する。金貨2。

それぞれのマスでは、その場面の数秒のイメージ画像が流れ、画像が終わるとその画像は精密でおしゃれな線画のイラストカードになり、そのマスの上で並んでいるのである。

みんなサイコロの目はバラバラだったが、ほとんどのライドルは体温を手に入れたようだった。

このゲームが凄いのは、サイコロは参加者がふるのだが、数字が出ると、それぞれのライドルの特徴的な歩き方でライドルたちが自分でその増すまで進むし、火山爆発や津波などが迫力たっぷりのサブ画面とともにボードゲーム上に立体CGとして現れ、さらに1流のデジタルナレーターが解説を加える。

例えば、モリーたちのチームのピーちゃんは時々羽ばたきながらよちよちと4マス先まで歩く。すると。

「地殻変動で森から草原に変った平原で歩くうちに、直立2足歩行を憶え、姿が変わって来た」するとそこでファンファーレが鳴り進化が早くも始まった」

と、ナレーターがしゃべり、ピーちゃんはもともと2本足で歩いていたのでレベルがさらに上がり、、足がさらにレベルアップし、もっと上部に、長くなり、歩くスピードが上がってきた。そして、何匹化のライドルたちは脳の発達、目が前方に移動して立太子で斬る様になり、あののんびりしたカメのムーでさえ、少しづつ進化していく。ピーちゃんは、あの日のモリーに似た、鳥人間へとぐっと近づいてきた。

「あ、すっごーい、本当に姿が変わっていくわ」

やっぱり1番面白いのは進化イベントで能力が変わったり大きさが変わったりするたびにライドルたちの姿も劇的に変化していくこと、メタモルフォーゼだ。その瞬間、体が輝き、様々な効果音とともにむくむくと体が変化していくのがよく見えて、モリーなどはその時だけ拡大モードにして楽しんだ。偶然尾羽の色が一緒になったり、頭の羽飾りが同じようなデザインだったりするのを、自分の子どものように喜んだ。

、イクツカノ大陸ヤ島を渡ってゴール近くまで行くと、ソコマデデ手に入れた各種能力を使って宝物を捜したり、ライバルタチト闘ったりしなければならない。

だから、舌のような能力を、得意な分野を伸ばしながらも、バランスよく身に着けていかなければならない。

命―、アリーナで負けても、復活できる。

攻―攻撃力、防―防衛力、これが高いとアリーナでのバトルに有利に働く。

知―知力、問題解決エリアで結果に影響する。

泳―遊泳力、河を渡ったり、海峡を渡ったり、深く潜ったりできる。

走―走力、追跡クエストに参加できる。

社、社会性、仲間と協力して問題解決ができる。

金貨、失、ポイント、ゴールでの最終得点に影響する。

人気、動物園や水族館のスターアニマルになれる度合い。

ひと通り説明が終わるとこれで練習ラウンド終了。メガネ娘が引っ込んで立会人のライオンハート教授が出てきて宣言する。

「それではこれより、ボードゲーム進化の罠の本番をスタートします」

白い大きなサイコロと赤青の色分けサイコロが転がりだす。ライドルたちがボードのマス目を進みだす。

だがちょうどその時、できたばかりの地域交流センタービルでもとんでもない事件が始まろうとしていた。そう、ミケランジェロの巨大ダビデ象の足元で、あの光が輝きだしたのだ。

「なんだあの光は?」

見物人の数人が気付き、あちこちでどよめきが起こった。

だが光がだんだん弱くなり消えてしまった後、

「わああ、ダビデ象が少しづつ巨大化している、こりゃまたどういうことだ」

もともと17mの大きさだったダビデ象は、50mほどの怪獣並みの大きさになり、さらに自分の乗っていたビルを破壊しながら地上に降りてきた。そして突然のことにざわつく人々に向かって恐ろしいうなり声をあげたのだった。

「グオオオオオオオーン

そして巨大な足が商店街の建物を踏み潰しながら進みだすと、ざわめきは悲鳴に変わり、大勢の人間が、遠くへ走り出し、あるいはキャラを引き上げ自宅に帰り、テレポートで遠くに逃げ出した。

さらにその隣の黄金のツタンカーメン像と金剛力士像の足元も輝きだし、2体のオブジェも巨大かしゆっくりと動き出した。そのエリアでは大騒ぎになったが、エリアが違うプラチナテーブルでは、ボードゲームは中断することもなく続けられたのだった。

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