第三話 石膏像(後編)


 電気、入口横から電気スイッチ!

 いや廃校舎かここ! つくわけがない!


 パニックになりながらカチカチと小さなボタンを連打していた俺は、衝撃を感じ吹き飛ばされる。


「さっさと起き上がってください!謙一けんいち先輩!」

「痛い、無理、ほんと痛い今の! 無理!」


 味わったことのない痛みを背中に受け、うずくまる俺を谷丸たにまるが引き起こす。


「先輩さっさとアレ使って隠れて!いつもの!」

「アレって! どれだよ!」


「あー、もう!」

「うわ何か来た!」


 どこから、何に攻撃されてるのかも分からない!

 一定の間隔で床や机に重い何かがぶつかる音が響く!

 このまま死ぬのか!? 何も知らないまま!?


「ちゃんと見て!意外と避けれます!」


 見る? 避ける!?


 声や音のする方、あちこちをライトで照らす!

 一瞬見えた白い物体。


「谷丸これ! 石膏像せっこうぞう!?」

「っぽいですね!」


 一つ、二つ、もしかするとそれ以上の〝宙に浮く像〟がゆらゆらと動いている。


「ていっ!」


 谷丸が片手を机に乗せ、床を踏み込む勢いで体を持ち上げ両脚で像の一体を蹴り飛ばした!

 俺のライトに照らされる金髪、制服!


「効いてる効いてる〜!おっと?」

「谷丸! 上から!」


 蹴ってそのまま着地、机の上に立った谷丸に向かって別な石膏像が落下。

 谷丸は人間と思えない反射速度で頭上からの攻撃をかわす。


「効いてないっぽいですねっ!」

「俺はどうしたら!」


「謙一先輩はとりあえず!回避だけしてください!」

「それは! そうだけど!」


「イケるかもなんで!葵さんもそろそろ起きますし!」

「は? 無理だろ!」


 開幕でとっくに死んだと思った佐原葵の名前が出てきたことに驚きながら、俺は石膏像から逃げるしかなかった。

 デッサンの授業で見たことがある白い姿が、今は怖くてたまらない。



 時間の感覚が分からなくなる。

 数分も経ってないかもしれないし、三十分以上この部屋にいるような気もする。

 谷丸は相変わらず常人離れした動きで机から机を跳び、蹴ったり手を伸ばしていた。


「痛いなぁ! あああああ、油断した!!」

「佐原!?」


 思わずライトを向ける。

 頭の直撃は避けてた? でも、腕!

 というか何で立ち上がれる!? 足やられてただろ佐原!


「谷丸ちゃんごめ、お待たせ! そっちどう?」

「キツいですっ」

「いや佐原お前、どうしてそんな落ち着いてんだよ!」


 その時、すり潰された両腕が逆再生動画のように元に戻っていく。


「はぁ!?」


 驚く俺を二人は無視。

 

「葵さーん、そろそろバテそうかもぉ……」

「今そっち行く! 谷丸ちゃん頑張って!」


 意味がわからない。

 俺は立ち尽くし、見守るしかなかった。


「この人達は疲れないんですかね-!」

「人じゃ! ないけど! ね! 石膏像!!」


 機敏な動作で避け続ける谷丸、落下の予備動作を見てから腕を広げ真っ向から受け止める佐原。


「谷丸ちゃん、今!」

「え!?……はい!」


 佐原の胸には、抱え込まれ暴れる像が一体。

 谷丸の頭上は落下の準備か、静止した像が一体。

 二人は何かが通じあっているように見える。


「……よっと!」


 溜めの予備動作後にまっすぐ落ちる石膏像、引きつけギリギリで回避する谷丸!

 着地予想地点を狙って佐原が像の一体を投げつける!


「っしゃあ!」

「惜っしいですねっ!今の!」


「化け物には化け物をぶつけんのよ!」

「ナイスでした葵さん!」

 

 石膏像同士がぶつかって、下敷きになった方の一体が半壊!

 空洞だと思ってた内部は金属みたいに輝いて、いや今それはどうでもいい!

 俺にも余裕が出てきた!


「佐原の真上! 谷丸もさっき砕けた二体、逃げてる!」

「やるじゃん金谷君」

「私は見えてましたけどっ!」



「葵さんそっち行きましたー!」

「お、チャンス!」

 

「たまに止まりますよねこの人達!」

「谷丸ちゃん、人じゃない! 石膏像!」

 

「にしても、効きませんね!」

「ほんとそれ! イライラする!」


 像が時折見せる妙な動き、打撃を打ち込む佐原。

 でも効果は薄い。


 その時……俺は変化と特徴、趣味を思い出した。


 変化。

 時折、明らかに不自然なタイミングで、まるで何かに縛られるようにピタリと動かなくなる石膏像。


 特徴。

 気のせいかもしれないけど、胸像然としたそれは俺と『なるべく目を合わせず』動いてるように見える。


 趣味。

 架空の「財団」ホームページ、フィクションの化け物達。

 何時間も楽しく読んだ記事のシリーズ。

 その中で見た、彫刻型の怪異アノマリーと対処法。

 完全に同じではない、でも、似てる!


 大好きな作品! 初めて触れた「財団」の話!

 スマホで『財団 目を』と検索するだけでバシバシとヒットした代表的なエピソード!



 目をそらすな!!



「……やっぱりだ!」

「金谷君!?」

「謙一先輩!?」


 走り出す俺を一瞥いちべつする二人、俺は三体いるうち一つに回りこみ『成功』して、叫ぶ!


「コイツら!目!俺達と!目と目合わせたら止まる!」


 谷丸もすかさず上を見る!

 自分めがけて落下しようとする石膏像の方向!

 顔を上げ、目の部分を見つめた!


「うっそ……」

「金谷君、ナイス!」


 動かない二体、佐原が掴んだ一体。

 いまさらだけど佐原の腕力どうなってんだ。


「机に置いときますねー」


 谷丸は目を離さずそっと手を伸ばして、空中で止まる無抵抗な石膏像をすすすと移動させる。

 机に触れてコトンと小さな音がしたと思ったら、その上から佐原が別な像を叩きつけようとしていた!


「砕けろおおおおおおお!」


 バスケットの、ダンクシュートめいた動き。


 半壊した時と違って完璧に芯々を捉えたのか、二体の石膏像は粉々になった。


 撃破、完了!

 残るは一体のみ!!

 

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