ひろわれた命


「知らない天井だ」



 人生でこのセリフを使うのはこれで二度目だ。一度目は車にはねられ、病院で目が覚めた時。

 どうやら今はこのセリフの元ネタを知らない人がほとんどらしい。

 まぁもうずーーっと昔の作品だし仕方ないのかね。しかし作品群を全部見た俺に隙はない。そう、未だ一定の層に根強い人気を誇る『新世紀──』



「いや違う違う」



 今考えるべきはそんなことじゃない。ここは──



「起きた!」


「うぉびっくりした」



 すぐ隣からそれなりの声量をぶつけられて、式隆は思わずひるむ。振り向くと、知らない少女が至近距離からこちらを凝視していた。外見的には小学校低学年くらいの年齢に見える。



「えーっと、こんにちは? 君は──」


「おとーさーん!起きたーー!しゃべったーー!!」


「しゃべるよ?」



 トタトタ、と駆け足で叫びながら少女が遠ざかっていく。ほどなくして、30代半ばくらいの外見の男が現れた。



「目が覚めましたか。お体の具合はどうですか?」


「え? あぁ、えっと…」



 と、そこで全身が重く、ひどくだるいことに気付く。



「あぁやはり。魔法など使えない私でもわかるようなあれだけの魔力を、一気に放って消費したんですもの。そうなってしまうのも納得です」


「はい? マホウ?」


「おや、あなたは魔法士なのでしょう?」



 男はジール・カートと名乗った。命を救われた、と何度もお礼を言ってくるが、式隆からしてみれば、正直意味が分からない。

 しかし、ここで分からないことを根掘り葉掘り聞くのは避けた方が得策だな、と考え、当たり障りのないことを言って場を納めた。まだ体調がすぐれない、と伝えて再び一人になる。



「うーん何が何やら。…具合悪いときの考え事は毒だな。寝よう。起きてから考えりゃいいや」



 そういって、式隆はすやすやと寝息を立て始めた。この男、かなり豪胆なのである。




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