第23話 調査依頼

     ※


 部屋に入って、ベッドに座る。

 思った以上に慌ただしい時間になってしまった。

 このままシャワーを浴びて眠ってしまってもいいのだが、まだ一日を終えるわけにはいかない。


 俺はデバイスを取り出して、秘匿回線を使い七希しちき――恋に連絡を取った。

 一度目のコールが鳴った直後、


「大和!?」


 デバイス越しに俺を呼ぶ恋の声が聞こえた。

 心なしか少し声が弾んでいる気がする。


「恋、そっちはどうだ?」


「大きな問題はないよ。

 変わったことは……大和がいなくて、みんな寂しがってることくらい、かな」


「まだ離れて一日だろ?」


「だとしても、だよ。

 ずっと一緒にいた人と離れるんだもん。

 大和は寂しくないの?」


「それは……まぁ、な。

 でも、お前たちなら大丈夫だよ」


 寂しいと素直に口にするのは照れくさくて、誤魔化すように言った。


「もちろん、大和がいないとダメなんて言われないように、みんなでがんばってるから」

 俺に心配をかけまいと明るい口調で恋が答えた。


「それで、大和のほうはどうなの?」


「こっちは、少し前にテロが起こった」


「テロ!? 犯人は無法区画の犯罪者?」


「まだわからない。

 だが、その可能性もあるかもしれない。

 だから調べてほしいことがあるんだ」


 本当は俺自身で動きたいが、流石に今日は部屋で大人しくしておこう。

 あれだけの事件があったあとということもあって……学園側が俺の動向を気にしているかもしれないから。


「任せて。

 大和の頼みなら、最優先で対応するから」


「ありがとう。

 調べてほしいことは二つ。

 一つは、テロリストの女が一人生き残ってるから、そいつの調査をしてほしい。

 もしかしたら今回の首謀者と接触するかもしれない」


「場所は?」


「こちらで特定してる。

 あとでデータを送信しておくから確認してほしい」


「わかった。

 動きがあるまでは見張っておく感じでいいかな?」


「それで問題ない。

 時間は掛かるかもしれないが、頼む」


「了解!

 でも……大和のいる場所でテロなんて許せないな。

 あたしがとっちめてあげたいかも」


「とっちめるって……」


「わかってる。

 まずはテロの首謀者を見つけないとね」


「ああ、よろしく頼む」


 セブンス・ホープは犯罪者を裁く犯罪組織だ。

 俺たちには国を、自由を、尊厳を取り戻すという大義の為に戦っている。

 だからこそ、同じ犯罪者と罵られる存在であっても、無差別にテロを起こすような人間を放置しておくわけにはいかない。

 その犠牲になるのがたとえ、パンゲアの人間であったとしても。

 俺たちは無差別に誰かの命を奪いたいわけじゃないのだから。


「もう一つは?」


「ヘル・ジャッジメントの残党を探してほしい。

 出来れば当時の幹部クラスか、それに近い立場の人間を」


「ヘル・ジャッジメント!? ……久しぶりに聞いたな、その名前……」


 そう答えた恋は、少し戸惑うような声だった。

 恋は過去の抗争を思い出したのかもしれない。


「当時、セブンス・ヘブンとヘル・ジャッジメントの第一次抗争にパンゲア軍が関わっていたという情報が確認できた。

 その事実確認をしてもらいたい」


「二年前の? でも、あの時は軍との戦闘なんて一度も……」


 恋の認識も俺と同じようだ。

 やはり、俺とミラでは持っている情報が矛盾する。

 話を聞いただけのミラと、あの場にいた俺たちでは信憑性の高さは比べるまでもないだろう。

 だとするならミラは誰かに嘘の情報を吹き込まれたということになるが……それを断定するのは、調査の結果次第だろう。


「……わかった。

 そっちも調べてみる。

 何かわかったらこの回線で連絡すればいい?」


「頼む。

 電話が取れないかもしれないから、メールだと助かる」


「それも、了解」


 彼女自身も疑問はあるのだと思うけど、深く質問はせずに恋は俺の頼みを快く聞き入れてくれた。


「恋……ありがとう」


「ううん。

 大和の役に立てて嬉しいもん。

 何かあったらいつでも頼ってね」


 俺には勿体ない言葉だけど、それを本当にありがたく思う。


「でも……今度会った時は、いっぱい甘えてもいい?」


「そんなことでいいなら」


 俺の返答に満足したように、恋は「なら、あたしはどれだけだって、がんばれるから」と、嬉しそうに言うのだった。

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