第29話 デートの始まり

     ※


 そして、あっという間に時間は過ぎて――約束のデートの日になった。

 今回は足利駅という場所で待ち合わせをすることになっている。

 莉愛の住む小山からは乗り換えなしで行けるが、電車で40分ほどになる。

 少し遠い距離を移動してもらうことになるのが申し訳なかったけど、デートの最後に行きたい場所がこの足利にあるのが決め手となった。


 帰りが遅くなってしまう可能性もあるので、そのことは先に莉愛に伝えておいた。

 勿論、その時は彼女を家まで送っていくつもりだ。


(……行くか)


 まだ少し早いが、なんだか落ち着かないので、家を出ることにした。

 何より待ち合わせに遅れるよりはいいだろう。

 部屋を出て玄関に向かうと、


「だ~ちゃん、もう行くの?」


「兄貴~今日が初デートなんでしょ~?」


 母さんと杏子がバタバタと急ぎ足で見送りにきた。


「頑張ってきてね!」


「兄貴、ファイトだよ!」


 受験の時でも、こんなにも力強く応援されたことはなかった気がする。

 二人とも俺を心配してくれているのだろう。


「ああ、行ってきます」


 ガッツポーズする二人に見送られながら、俺は家を出て待ち合わせ場所へと向かうのだった。


     ※


 最寄り駅の佐野駅から電車で足利駅へ。

 徒歩で移動する時間を含めて30分掛からない程度の時間だった。

 現在、時刻は9時30分。

 待ち合わせの時間は10時なので、まだまだ時間に余裕は――


「って、莉愛!?」


「大希……もう来たの?」


 それは俺のセリフだ。

 先に待っているつもりだったのに、まさかこんなに早く来ているなんて。


「いつから待ってたんだ?」


「私もさっき着いたばかりだから」


「そっか……もう少し早く来ればよかったな」


 今日は俺も早く起きていたので、連絡を貰えれば直ぐにでも家を出れた。


「ううん。

 今だって30分前だもん。

 それに……今直ぐにでも会いたくて、早く家を出ちゃっただけだから」


「莉愛……」


 あまりにも可愛いことを言うから、思わず抱き締めたくなってしまう。

 でも田舎とはいえ、休日の駅には少なからず人がいる。

 だからそんな衝動を必死に抑えた。

 その代わり、


「じゃあ少し早いけど……デート開始だな」


 思い切って俺は莉愛の手を握った。

 予定よりも早く莉愛に会えて嬉しいのは俺も同じだったから、すごく幸せな気持ちが溢れてくる。


「ぁ……」


 莉愛は僅かに頬を染める。

 でも直ぐにその表情は微笑へと変わって、俺の手を握り返してくれた。



「行こうか」


「うん」


 こうして、俺たちの初めての休日デートが始まったのだった。

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