吐露

「ああ、ああ」

と専属メイドの励ましを受け流して、背中が拭かれた後、テンポよく食事が運ばれてきた。

皆嫌な顔一つせず、私に給仕してくれている。慣れてはいるが、さっきの撃たれたようなストレスの後だと、目頭が熱くなる。久しぶりにありがたいと感じた。

メイドのいつもと同じような説明を聞き流して、宣材写真のようなコービービーフをいただいた。好きな料理のはずなのに、油が口の中を滑っていくだけで、全く味がしない。ワインにも手を出したが、酸味だけが伝わって、ワイン特有の香りと鼻から抜ける残り香も、ため息に変わってしまった。ボソボソと、メイド達の少し高い声は抑えてくれているのがわかるが、今日は耳に障ってしまった。

ダメだ、一旦、いなくなって貰わねば。いつもより重い腕が、なかなか持ち上がらない。

「あなた達、もう戻って結構です。お下がりなさい」

メイド達が列になってゾロゾロと部屋を出ていく。残ったのは専属メイドの二人だけだった。

退出の合図をしてくれたのは、Bに似た赤髪のロング、キリッとした目つきで私より少し小さいが、十分背が高い。ランは私のカリキュラムをトップで合格している。まるで蛇のようなやつだ。

もう一人はターコイズのような真っ青の髪が美しい。私の要望に応えてハーフアップの髪型にしてくれている。スタイルが良く、成績優秀と言うわけではないが、一目見た時から彼女以上に美しいと思う女性はいない。リンは動物というより人形に例えた方が彼女らしい。そのくせ表情豊かなのがそそられる。

完全にいなくなって自動ドアが閉じた瞬間、二人は私を挟むように座って膝に手をそっと置いた。しかしそこに意識を向けられたのがやっとで、私はスキンシップに応えることもできずに手で自分の顔を覆ってしまった。

「ダグラス様がこんなお姿見せるなんて初めてのことでございます。誰にも告げ口いたしません。打ち明けていただければ何かご協力できることがあるかもしれません」

「そうです、どうかお打ち明けになって」

「ありがとう。でも無理だよ。私にだってどうすることもできないんだ」

私がいくら優しく言っても、さらに強い優しさで返してくる。これが私にとって今は最大のストレスだった。なぜ言いたくないことだと、言ったところでしょうがないことだとわからんのだ。出て行かせようと思い、二人の肩を抱いたが、彼女らに私は八つ当たりしようとしているのに気づいて、思わず涙が出てしまった。私のことをこれほど想っているのに。私は辛くなって、全て打ち明けてしまった。辛さを吐き出すために、私はいっときの平安を得るために。私は彼女らに背中をさすられながら打ち明けた。

私の決断一つで、国が滅んでしまうこと。どうすればいいかわからず何もできていないこと。そして、私がもうシモに思い出させてしまったのではないかということ。二人は私が思い悩んでいることを頷きながら、何も言わず黙ってくれていた。

リンは私の肩に頭を置いて、ランは私の手を握り続けてくれた。ああ、私は幸せ者だ。全てを手に入れたのに、今それが無に帰ろうとしているかもしれない。

神よ、不平等で何が悪いのだ。ここまで得られた運をなぜこんな形で台無しにしようというのか。

明日思い出すなんてわかりきっているが、ただ今日は忘れたかった。

二人も同意してくれた。

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