第23話 お礼参り
キュア達エルフは、森に出て狩りや採取をし、それを生業として生計を立てている。
つまりエルフ達は、常に獰猛な動物や魔物と戦っているため、戦闘能力に優れていると言えるのだ。
そしてそれは、自分達を追って来ている黒のエルフも例外ではないのだろう。
方や、こちらは屈強な騎士達に守られて生きて来た王女様と、女王様の下で真実だけを喋って生きて来た真実の鏡族だ。
両者の間で争いが勃発した場合、その結果がどうなるかなんて、それは考えずとも分かる事だろう。
当然、どちらの足が速くて、どちらの持久力が高いかという話も、それは一目瞭然の事である。
「カガミ、質問です。カガミよ、カガミ。私達があのエルフから逃げ切るにはどうしたら……」
「お待ち下さい、スノウ姫様! その質問は危険です! もしもこの瞳に「それは不可能です」と映ったら、もう絶望的ではないですか!」
叢に身を隠したカガミは、危険な質問をしようとするスノウを慌てて制する。
シャサールに促され、咄嗟にあの場から逃げ出したカガミとスノウ。
そんな二人を追って来たのは、戦闘能力が自分達より遥かに上の、黒のエルフであった。
戦っても勝ち目はないし、このまま走っても逃げきれる自信もない。
ならば自分達に残された道は、どこかに隠れてやり過ごす事だけだ。
まあ、それも、上手く行く保障はないのだが。
「どうしましょう。やはりバレているのでしょうか?」
「気付いていない可能性もあります。このままここでやり過ごす方に賭けましょう」
そのまま向こうの方に走って行ってくれたら良かったのに。
しかしこの辺りに隠れているのがバレているのか、黒のエルフは辺りをキョロキョロと見回して自分達を探している。
何故、キュアの仲間であるハズのエルフ達が襲って来たのかは分からないが、おそらくはキュアにも予想していなかった事態が起きているのだろう。
捕まったら危険だ。何をされるか分からない。
(しかし、万が一の時は……)
その時は身を挺してスノウを守る。
しかし、カガミがその覚悟を決めた時だった。
叢を挟んで、黒のエルフと目が合った気がしたのは。
(しまった!)
見付かった!
しかしカガミがそう直感したのと、黒のエルフがこちらに駆け出そうとしたのと、それは同時だっただろう。
獣の呻き声と足音が、その場に響き渡った。
「ウガアアアアアアッ!」
「な……っ!?」
突然背後から現れたクマに飛び掛かられ、黒のエルフは慌てて飛び避ける。
それでも尚腕を振り回して攻撃してくるクマの腕を避けると、黒のエルフもまた、手にした剣をクマに向けて振り下ろした。
「あれは、キュアに襲い掛かったクマさんではありませんか? どうして、こんなところに?」
「と、とにかくこれは好機です! 姫、今の内に逃げましょう!」
「そうです。今の内に逃げて下さい」
「っ!?」
しかし突然、背後から聞き覚えのない女性の声が聞こえ、カガミとスノウは揃って声にならない悲鳴を上げる。
一難去ってまた一難。
身の危険を感じ、勢いよく振り向けば、そこにはやはり見覚えのない白いエルフの姿があった。
「初めまして。私はヒカリと申しまして、見ての通りエルフです。キュアさんの仲間ですので、ご安心下さい」
「は、え、キュアの……?」
「あの、これは一体どういう……」
「詳しい話は後です。あの黒エルフが相手では、クマとて数分も持ちません」
戸惑う二人にそう伝えると、白いエルフことヒカリは、そこから南の方角を指差した。
「このままもう少し進んだところに花畑があります。そこに逃げて下さい。私はあの黒エルフを追い払った後、クマと一緒にお二人を追い掛けます」
「花畑!?」
「それって……」
『この森のもう少し奥へ行ったところに、私の住んでいるエルフの家があります。そのもう少し奥に花畑があるのですが、王子はそこにやって来ます』
昨夜、キュアが言っていた事を思い出す。
このヒカリというエルフが敵か味方かは分からないが、彼女の示す花畑と、キュアが予言した花畑が同じ場所であるのなら、行かない理由はない。
そこへ行けば、きっと道は拓かれる。
きっとレオンライト王子がやって来て、自分達を救ってくれる。
二人はそう、確信をした。
「早く行って下さい。私もあの黒エルフには借りがありますので。今ここで借りを返さねば気が済みません」
このヒカリというエルフが敵か味方かは分からないが、彼女が黒のエルフを見つめるその瞳には、『殺す』の二文字が浮かんで見える。
どうやら彼女は、味方と見て間違いないようだ。
「恩に着る! 姫、行きましょう!」
「はい! ありがとうございます、ヒカリさん。あなたもどうかご無事で!」
そう言い残し、二人はヒカリの示した方向へと走り去って行く。
二人が立ち去るのを確認してから、ヒカリは自身の右拳を、左掌にパアアアンッと叩き付けた。
「では、お礼参りと行きましょうか」
集中力と魔力を高めるための道具、杖を手にすると、ヒカリは素早く立ち上がる。
魔法を発動させるための呪文を唱えれば、ようやく彼女の気配に気付いたダークが勢いよく振り返った。
「ヒカリ!? 何でここに!?」
確かヒカリは、家の一室に閉じ込めて、ウィングに見張らせていたハズなのに!
そう驚き動きを止めたダークであったが、そんな事、ヒカリの知った事ではない。
ダークに生まれた隙を突き、ヒカリは呪文を唱え終えた光魔法を発動させた。
「貫け! ライトニングアロー!」
「うわっ!?」
ヒカリの周囲に現われた五本の光の弓矢が、一気にダークへと襲い掛かる。
ハッと我に返り、咄嗟にそれを避けるダークであったが、ヒカリの攻撃は終わらない。
そうだ。コイツらのせいであの女に殺されそうになったのだ。
この恨み、この程度で終わらせてなるものか。
「シャイニングショット!」
「うわっ!」
「ライトソード!」
「わっ!」
「オーロラビーム!!」
「わわわわっ!」
何弾もの銃弾、幾本もの剣、そして光の光線が次々にダークに襲い掛かる。
しかしそれら全てを器用に躱すと、ダークは苛立った眼差しをヒカリへと向けた。
「舐めるなよ! この程度でオレが倒せるとでも……」
思っているのか?
しかしその全てを言い終わるよりも早く、ヒカリが飛び掛かって来る。
どうやら魔法攻撃ではなく、直接殴り掛かってくる戦法に切り替えたらしい。
そう判断したダークもまた応戦するべく、剣を大きく振り上げた。
しかし、
「食らえ、目潰しっ!」
「うわっ!?」
ダークに飛び掛かるその一歩手前で立ち止まると、ヒカリは杖をダークの眼前に突き付ける。
するとその杖の先端が眩しい光を放ち、ダークの視界を支配した。
「ぐっ!」
目の前で強い光を放たれ、ダークは眩しさのあまり目を瞑る。
直接強い光を浴びたダークの目は一時的に視力を失うが、それは一時的なモノで、すぐに視力は回復する。
しかし視界が元に戻り、周りを見回したダークは、悔しそうに舌を打った。
「くそっ、絶対さっきの仕返しとばかりに、一発ぶん殴って来ると思ったのに!」
しかしその予想に反したヒカリの目的は、ダークを殴る事ではなくて、スノウ達を逃がす事にあったらしい。
ダークの視界が戻った時には、スノウやカガミ、クマを含めた全員が、その場から姿を消していたのであった。
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