第7話 ピンチなんてありえない

「何が起きたというのだ」


 東の町へと到着した魔王は信じられない光景を目にする。


「引き潰せ!オミナス」


 声と共に、真っ黒な馬車ギグに乗った、首の無い女騎士がムチを振るう。

 走り出した馬にも首は無く、しかし一直線に掛けてゆき、金色の鎧を纏った男を跳ね飛ばす。


「あぁ!ウザってぇ!人の事バンバンバンバン跳ね飛ばしやがって!」


 町の門から外へと吹っ飛ばされた男は、随分とイラついている様子で頭を搔き地団駄を踏む。


 オミナスに指示を出した主が門を潜ると、大きな音を立てて門が閉じる。


 その光景に魔王は目を見開く。

 何故なら門から出てきた男は、今し方共にこの町へと赴いていた男、オズマジオズオズであったからだ。


「他人の空似にしても限度がある、オズ、あの者は……っ!」


 魔王が横を向くと、隣にいるオズの身体が一瞬ブレたように見える。

 そしてオズが何か見呟くと、その姿は砂のように崩れさる。


 その砂の向こう、荒れ果てた東の町、山のように積み重なる民の屍、その上で嗤う金の鎧を纏った男の姿。


 魔王は堪らず息を呑む。


「何が何だか分からん、が、オズにまた救われたのか」


 魔王は一度呼吸を整えると、門の前で町を守るオズのほうへ顔を向ける。


「まるで子供だな。」


 地団駄を踏む男を見て、呆れたようにため息を着く。


「キャハハハハハッオズ様ッオズ様ッあれ面白い、金ピカ、見てみてマネッコ」


 オズの横にいるヤギの足を持つ子供が、大袈裟に頭を掻きながら地団駄を踏む。


「ウゼェ、ウゼェ、ウゼェ!ぶっ殺す!!」


 金ピカ男は怒りを露わにすると、地面を蹴る。

 一瞬にしてオズとの間合いを詰めると、オズと横の子供を斬り刻む。


「キャッキャッ、当たらないよ、当たったのかな、何でだろね」


 斬られた筈の2人が砂のように崩れ去ると、金ピカ男の後ろの方、オミナスの横に佇んでいる。


「パキッシュ、集中しろ、奴は強い。」


 パキッシュと呼んだ子供と違い、オズの表情に余裕は無い。


「ブーブー、分かってるよ」


 注意されたパキッシュは不貞腐れた様子を見せながらも、金ピカ男の動きを注視する。


「クソっクソっクソがァァ!!さっきから何度も何度も何度も何度も避けやがって!!急に現れて俺の正義を邪魔してんじゃねぇよカスが!!」


 何度も地面を踏みつける、その度に地面は抉れ、2メートルほどのクレーターが出来る。


「喰らえやクソ虫!ペネトレイト・ブレーザー!!!」


 オズの方向へ剣を突き立てると、金ピカ男の鎧が眩い光を放つ。


「我望ム

 理ヲ超エ

 彼者ニ願ウハ

 現世ノ不可逆ノ破壊

 漆黒ヲ糧ニ

 盟約ノ使徒ハ此処ニ来ル

 我オズマジオズオズノ名ニ於イテ希ウ

 其ノ才ヲ示セ

 ”クォン”!!」


 詠唱とともにオズの腰に着いた小さな箱から、猫耳をつけた女の子が飛び出してくる。


「おまかせにゃマスにゃー、シュレディンガー・デコヒーレンス、にゃー」


 クォンが両手を広げると、オズたちが箱に包まれる。


「死ねぇ!!」


 金ピカ男が一瞬にしてその箱を貫く。

 高速の一撃により、バチバチと空気が揺れ、オスたちを包んだ箱に風穴を空ける。


「やはりその技、お前は剣士、いや、エフェクト的にブレイバーか。」


 箱が開くと中から無傷のオズたちが現れる。


「はぁ?ハァァァア?超必殺技アルティメットだぞ今の、回避不能盾貫通だぞ、何で死んでねぇ!」


 金ピカ男はブチ切れながら叫び散らかす。


「正確にはロックオン型オブジェクト無視確定チャージ攻撃、当たらないようには出来ないが、当たったが無かったことにする事は出来る。勉強不足だな。」


 オズは舞っている砂埃を払うようにマントをたなびかせる。


「んだそれ、チートじゃねぇか!!」


 剣を振り回しながら、金ピカ男は叫ぶ。


「チートでは無い、純然たる能力スキルだ、剣を中心にした防御や回避を無視する剣士は純粋に強い、が実質的な無敵系の能力を持つ職業には相性が悪い。」


「黙れチート野郎!!」


 オズの説明にふるふると体を震わせ、頭を掻き毟ると、金ピカ男は地面を蹴りオズに走り寄る。


「オミナス」


 名を呼ばれると共に金ピカ男へ馬車を走らせ吹き飛ばす。


「チーターはどっちだ、オミナスのノックバックスキルはそこまでダメージが無いとは言え、もう100発近く当てている。にも関わらず回復スキルの無い筈のブレイバーがどうやってか耐えている。」


 オズが魔王と東の町に来た時、凄惨な光景が広がっていた、そこでクォンとパキッシュのスキルを使い、金ピカ男が町を壊す前に東の町へいた事にした。


 そこから魔王がここに到着するまでの30分、オミナスのノックバックで距離を取り時間を稼ぎ、通常攻撃をパキッシュのスキルで当たっていなかった事に、回避不能攻撃をクォンのスキルで無かったことにして戦い続けていた。


「はっ!無敵になってんだから当たり前だろ?勉強不足だな、カッコつけやろう。」


 金ピカ男は煽るように両手を広げ、オズの疑問に答える。


「言われた煽り文句を言い返す、何だ、気にしていたのか?」


 すました顔でオズは聞き返す。


「ぶっ殺す」


 金ピカ男はそういうとオズに方に向かって剣を突き立てる。


「超必殺技の連続使用、なんでもありか。」


 オズは思わず舌打ちをする。


「今度こそ死ねや、安心しろよ。魔王軍も後からキッチリ送ってやるから、地獄で仲良くしてろよ、雑魚が!!ペネトレイト・ブレーザー!!!」


 オズをロックオンすると金ピカ男はチャージを始める、ロックオンさえ回避出来ればこの超必殺技は不発に終わる。しかしこんな開けた場所ではそれも期待できない。


 クォンの能力はリキャストが長い、パキッシュの能力では回避不可能、絶体絶命の状況。


 放たれた攻撃はオズを貫く。


「まだまだ!ペネトレイトブレーザー!!ペネトレイトブレーザー!!!ペネトレイトブレーザー!!!!」


 一撃では終わらず、何度も何度もオズたちを切り刻む。


「はっ、ハッハッハ、ざまぁみろ!」


 オズたちが光の粒子になり消えてゆく。

 その光景を目の当たりにした魔王の膝が崩れる。


「さてと、邪魔されたが魔王軍共を殺して、さっさとポイントを集めるかな。」


 意気揚々と金ピカ男は門へと歩いていく。


「5回使用」


 金ピカ男はその声を聞き、苦虫を噛み潰したよう顔で振り返る。


「超必殺技の連続使用。超必殺技ゲージの、消費を5分の1に減らし5連続使用出来るだったか。割と古いチートだな、パッチが当てられて使えないはずだが、現実になったことで使えるようになっていたか。5分の1ずつで使えるのではなく、一度最大まで貯めないと使えないのが難点だったか?」


 オズは思い出すような仕草をしながら、にやりと笑っている。


「どうやって耐えやがった。」

「教える訳ないだろ?」


 金ピカ男のコメカミに血管が浮きあがる。

 対照的にオズは涼しい顔をしている。


「余裕振ってんじゃねぇよ、俺が無敵なのは変わんねぇんだぞ。」


 金ピカ男はオズに駆け寄り剣を振るう。

 しかしその攻撃はオズには当たらない。


「余裕な理由なら教えてやろう、お前のスキル構成は理解した、現状俺がお前の攻撃を受ける事は無い。そしてお前は無敵だ、ブレイバーの超必殺技は強い、だがダメージ関係でゲージは溜まるが、時間経過によるゲージのチャージ率が極端に少ない。ざっくり溜まるまで30分、それだけあれば対策が取り放題だ。それが分かれば後はリキャストを計算しながら、お前への攻撃手段も考えられる。」


 解説しながらもオズは金ピカ男の攻撃を避け続ける。


「だから、俺が無敵なのは変わってねぇんだからよ!んなクソ話どうでもいいんだよ!!」


 当たらないことにイライラを募らせながら、オズに攻撃を続ける。


 しかし


「ノックバックが通じるって事は、無敵なのは攻撃に対してだろ?」


 オズがそういった途端、金ピカ男が盛大に転ける。


「クソっ、何が起きやがった」


 金ピカ男は足元へと目線をやる、そこで自分の右足が無くなっていることに気付く。


「は?……足が……ねぇ?」


 声が震える、無敵のはずの自分の足が無くなっている。


「何を言っている、お前の右足はだろ?」


 オズは笑いを堪えるようにしてながら、訝しげに首をかしげる。


 パキッシュは攻撃を当っていなかった事にする能力。

 その能力が現実になるにあたって事象改変能力へと変化した。

 上手く使えば時間さえ遡れる。

 これをさらに応用し、金ピカ男の足を昔から無かったことにしたのだ。


「そんな訳ねぇだろ!俺の足、クソ野郎!!」


 剣を杖代わりに懸命に立ちあがる、しかし無慈悲にも支えている右手が消え、そのまま崩れ落ちる。


「俺の右手が……あ、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」


 何とかして体制を整え座ると金ピカ男は無くなった右手見て叫ぶ。


「さて、勝負は着いたな、お前には聞きたいことがある。色々と答えて貰うぞ?」


 オズがゆっくりと金ピカ男に近づく。


『アカンでそりゃ、何負けとんねん。』


 どこからともなく声が響く。

 次の瞬間、金ピカ男の横に執事服を着たキツネ顔の女が現れる。


「たっかい金払てんのに、使えんて、詐欺やんこんなん。」


 金ピカ男は蹴飛ばされ、頭を踏みつけられると、地面にキスをさせられる。


「確かオズマジオズオズやったか、けったいな名前の割に、強すぎるであんた。」


 女は憂さを晴らすように金ピカ男の頭をぐりぐりと踏みつけながら、忌々しそうにオズを見つめる。


「ほう、誰だか知らんが、俺の名前を知っているのか、殊勝な事だな。」


 急に現れた女に少し警戒しながらも、オズはいつも通り上からものを言う。


「おっと、自己紹介はせなアカンよな。ワテはマモ、ベルフェの同僚、要するに神様や。」


 マモと名乗った女はニヤリと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る