7 中二冬

 もうすぐ三年生になるというタイミングで、生徒会候補の選挙が行われることになった。


 僕はそういったクラス委員とかにはなりたくないタイプだったので、生徒会なんてまっぴらごめんであったし、推薦されるなどという心配も無い。

 自分とは無縁のイベントだと思っていたので、特別気にしていなかった。


 ところが、いきさつは知らないが、彼女が生徒会役員へ推薦されることになったのだ。

 彼女は学力もクラスで上位をキープしていたし、明るく目立つ存在であったため、推薦されるのはある意味自然の流れなのだろうか。


 これは僕の全くの想像なのだが、彼女は生徒会のような、人の前に立って行動することを、本質的には好んでおらず、本心ではやりたくないと思っているのではないかと感じていた。


 まあ、実際生徒会やクラス委員に自らなりたいというのは、漫画やアニメの世界の話であって、現実の世界では本当に少数派であるのが普通だ。


 使命感なのか、義務感なのか、こればかりは本人にしかわかり得ないことなのだが、彼女はその推薦を受け入れ、生徒会役員選挙に出馬することを選択していた。


 嫌な顔は決して見せず、けれど、積極的とは思えない雰囲気を、行動や仕草から、僕は勝手に受け取っていた。


 あの小悪魔的な、イタズラに満ちた表情を、しばらくの間、見ていない気がしていた。



 候補者演説の日程が近付くと、推薦人である同級生の女生徒と一緒に、校門の前に立って

「清き一票を!」

 など、選挙活動が具体的に行われるようになっていった。


 この頃になると、正直、差を感じるなという方が無理というもので、いわゆる高嶺たかねの花という現実を、自分自身へと納得させることに必死になっていた。


 そう思ってはみるものの、そう簡単に心が理解してくれるわけも無く、行く宛ての無い想いをどうやって消化すればいいのかわからず、ただただ、悶々もんもんとした日々を送っていた。



 いよいよ候補者演説の日程が差し迫ったある日の休み時間、彼女と彼女の推薦人である女生徒が、二人揃って僕の所を訪ねてきたのだ。


 正直、一年の運動会以来、これといった接点は無かったので、一体何事だろうと緊張に包まれる思いだった。


 彼女が僕を訪ねて来てくれたという嬉しさよりも、何か彼女の迷惑になるようなことを、知らず知らずのうちに僕がやらかしたんじゃないかといった想像が、先に立っていた。


 よくわからないけれど、彼女にとって許し難い出来事が僕にはあり、それについてクレームを言いに来たのではないかと、真っ先に考えてしまった。


 これは先に謝ってしまった方が良いのではないか? など、ちょっとしたパニック状態である。


 僕の心臓は、壊れてしまうんじゃないかと思うくらい、高速に脈打っていた。


 そんなアワアワした状態の僕に、彼女は、

「……を……できないかな?」

 と、びっくりするぐらい小さな声で、何かを頼んでいるようだった。

「え?」

 と、本当に何を頼まれたのかわからなかったので、普通に聞き返してしまった。


 正直、彼女の顔をまともに見ることができなかったので、今度は聞き逃さないという思いから、彼女の顔を真っ直ぐに見て、聞きなおす。


「選挙用のポスターを、お願いできないかな?」


 彼女の頼み事を聞いてはいたが、僕は久しぶりに至近距離で接する彼女の顔を前に、不思議な感覚を覚えていた。

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