第4話「身バレ」


「あ、安藤先輩……っ!」

「あ、紫吹さん……」


 講義が終わり大学の中を歩いていると、後ろから女の子に声をかけられた。

 彼女は紫吹さん、俺の大学の後輩だ。


「お、おはよです」

「うん、おはよう」


 紫吹さんとは大学近くの本屋で偶然同じラノベを手にしたのがきっかけで知り合った同じラノベ趣味のぼっち仲間だ。


 出会い方だけ話すと、まるで、ラブコメのワンシーンみたいだが、その偶然手にした同じラノベというのが、実は朝倉さんが書いているラノベなので俺としては彼女は大学の後輩であり、,朝倉さんの作品の大事なファンの一人という感じだ。


「先輩! そういえば、ひとりごとのアニメ見ましたか!」

「うん、最新話も見て来たよ。面白いよね」

「で、ですよね! 今期のラノベアニメもちゃんとチェックしているなんて流石です!」

「いやぁ~、それは紫吹さんも同じだよ」


 紫吹さんは大学で『ぼっち』らしく俺を見ると、こうして話しかけてくる。

 俺も自分が高校生の時にぼっちだったからか、つい、趣味が同じラノベということで後輩の彼女を無下にできない。


「えへ、えへへ……そうですか♪」

「うん、紫吹さんは本当にラノベが好きなんだね」


 そう……決して、俺の知り合いで『後輩』と呼べる人物が彼女だけという悲しい理由で可愛がっているわけではないのだ。


「んんっ! こほん!」


 その時、背後で怒れる貧乳の気配がした。


「朝倉先輩!」

「朝倉さん!」


 後ろを振り返ると、ニコニコ顔の朝倉さんが立っていた。

 どうやら、大学の講義には間に合ったらしい。

 ……締め切りは間に合ったのかな?


「あら、私のことは知ってくれているのね♪ 貴方は確か紫吹さんだったわよね?」

「は、はい! そうですが……どうして、朝倉先輩が私の名前を?」

「あら、安藤くんから聞いたのよ。私と安藤くんは『仲が良いの』……ウフフ♪」

「そ、そうなんですか!」


 紫吹さんは俺達が付き合っているのを知らない。

 だから、大学でも『美少女』で有名な朝倉さんがいきなり話しかけてきて驚いているのだろう。


「それにしても、二人はとーーーーっても仲が良いのね♪」


 朝倉さんは笑顔でそう言った。

 ……うん、怖い。


「いえいえいえいえ! せ、先輩にはただ私が仲良くしてもらっているだけで……」

「えっと、あ、アニメの話をしていたんだよね……ね?」


 本当のことを言っているはずなのに、何故か自分の発言が言い訳っぽくなってしまった。

 あまりにも朝倉さんの迫力が怖かったのか、紫吹さんも少しタジタジになっているし……


「ふぅーーん、アニメって『ひとりごと』の?」

「そうそう! ひとりごと!」

「あれ? 朝倉さん先輩って……『ひとりごと』知っているんですか?」



「え!? いや、家で安藤くんが言ってたのを聞いただけで……わ、私は別にラノベとかは詳しくないのよ!?」

「あ、朝倉さん!? ちょっと『家で』って――」

「ふへ……あ!」


 朝倉さんってばテンパって『家で』って言っているけど、それ俺達が同棲しているの言って良いのだろうか?

 一応、朝倉さんと付き合っているのは隠しているわけじゃないけど……しかし、吹雪さんみたいな大人しい子には刺激が強い情報ではないかと思うわけで……


「え? 家……ですか?」

「いや、その! 家って言うのは……な、なんでもないのよ!? ただ、ちょっと締め切りがヤバイだけで……」

「朝倉さん!?」


 ダメだ! 朝倉さんのポンコツが爆発している!

 どうやら、睡眠不足のまま大学に来たせいで頭がまだ回っていないようだ。

 てか、やっぱり締め切りはヤバいのか……。


すると、紫吹さんが驚きの発言をした。


「実は私……気づいてました」


「「え!?」」


 もしかして……紫吹さんは、俺が朝倉さんと付き合っていることに気づいていたのか!?


「し、紫吹さん、気づいていたの……?」

「は、はい……薄々、そうじゃないかって思ってはいたんです」

「そうなんだ……」


「でも、今の先輩達の会話で……確信に変わりました!」



 まぁ、別に俺達が付き合っているのは隠しているわけではないからバレてもおかしくはないよな……


「先輩はラノベ作家なんですよね!」


 ――って、そっちかーーい!


「ルラァアアアアアアアアアアッべベべべべべって、しし、紫吹さんはナナナナ何を言っているのかしら!?」

「…………」


 朝倉さんがめちゃくちゃ動揺して凄い巻き舌になっている。

 これは誤魔化し切るのは難しそうだなぁ……。


「安藤先輩……さ、サインください!」


 しかし、俺と朝倉さんの同棲がバレるならまだしも、まさか、朝倉さんが現役ラノベ作家なのがバレるとは――うん……サイン?


「このラノベ……安藤先輩の作品なんですよね!」


 そう言って、紫吹さんが見せて来たのは朝倉さんのデビュー作のラノベだった。

 うん、その作者、俺じゃなくて俺の彼女の朝倉さんだね……。


「お、おれぇええええええええええええええええええええ!?」

「うぇえええええええええええええ!? 安藤くん!?!?!?!?」



 いや、ラノベ作家って……俺のことかぁああああああああああああああああああい!?



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