大人気配信者……の、マネージャーが死ぬほど俺を溺愛してくる件
ニア・アルミナート
第1話 酒だ!
夏のとある土曜日のバイト終わり。俺は雲一つない星空を眺め、自宅に向かって歩いていた。
綺麗な星空とは対照的に、俺の心は全く晴れていなかった。俺も今年で21。大学を出た後について考えて行かなければいけない時期になる。
だが、俺はどうすればいいのかわからなくなっていた。
暗い俺の心を現したように、俺の足は前へと進まない。
帰りたくない。まだ、今日という今に過ぎ去ってほしくないんだ。
そう考えた俺はいつの間にか居酒屋へと足を運んでいた。父さんが行きつけだった居酒屋だ。
「お、坊主。……飲んでけよ」
父さんの友人で店主である、
「ええ、そのつもりで来ましたから」
俺は苦笑いと共に、店に入りカウンター席に座った。周りでは常連さんが楽しそうに飲んでいるのが見られた。ほぼ全員、顔見知りではある。20の頃、よく父さんと飲みに来てたから。
俺がカウンターでメニューを眺め、呆けていると、スッと和也さんからビールを一杯差し出される。
「気持ちはわかる。……こういう時こそ、飲んでけよ。今日は俺の奢りだ」
「……ありがたいですが、お支払いはしますよ。お金ならありますから」
和也さんの気持ちで少し心が温かくなったが、それでもちゃんとお支払いはしないとな。悪いし。
「……そうか。まぁ、なんでもいいさ。今日は飲んでけ」
「ええ、そうしますよ」
俺は再びメニューを眺める。とりあえず生はもらった。つまみはどうしようか。
唐揚げと枝豆がいいな。
「唐揚げと枝豆をお願いします」
「あいよ。坊主、1人は、あれだろ。そこで暴れてるうちの娘と話したらどうだ」
和也さんが指し示す先には、俺と同じくカウンター席で酒を飲み、ジョッキを机に叩きつけている美人さんがいた。
和也さんに娘がいるのは知っていたがあんな美人だとは。そこそこよく来ていた俺が知らないってことは普段はあんまこない人なのかな?
しかしあれ、俺以上に荒れてないか? 俺がちょっと引いていると、和也さんが娘さんに声をかけにいった。
だが、べろんべろんに酔っているようで話が通じていなさそうだった。
和也さんは頑張って説得したようで、彼女を連れてこっちに来た。嘘だろ? 俺まだ一緒に飲むって言ってないんだけど。
まぁ、美人さんだし、悪い気はしないかな?
「はぁい。父に言われてきましたぁ。笹島
「え、あ、はい」
完全に出来上がっているなぁこれ。あ、俺これ押し付けられたのかな? この子の相手。
「イケメンに話を聞いてもらえるなんて光栄です~。少し愚痴を言いたくてぇ」
うーん、少し嫌な予感がしてきた。
「愚痴ですか」
「そうです~。実は私、アイドル? のマネージャーみたいな事してて。担当の子はいい子、なんですけど~」
あー、話始めちゃった。まぁ、何も考えずに酒を浴び続けるよりましか。それにしてもアイドルのマネージャー、ね。結構すごい人だな。
「仕事が多すぎておかしくなりそうなんですよ!! あの子ったら深夜にも配信するからしっかり見てないといけなくて……」
配信……? あ、これアイドルって言ってもネットアイドルって感じだな。Vtuberとかそんなところか?
「最近ほとんど寝てなくて……。なんというかメンタルが終わってきてですね……」
美佳さんの頬を涙が伝う。仕事で、大分追い詰められている感じの人か。この人は追い詰められても仕事を頑張ってる。それに比べて、俺はどうなんだ?
……やめよう。俺の事を考えるのは。それよりも美佳さんの事だ。思ったより精神的に来てそうな感じがある。
「何度もやめようって思ったんですけど、やめれなくて……。逃げたいから、少しでも休みができたらこうしてお酒を飲んじゃうんですよ……。私、どうしたらいいんでしょう……」
これ俺になんとかできる話じゃないよ? 俺が和也さんの方を見ると、和也さんは難しそうな顔をしていた。
もしかして、和也さんもなんていえばいいのかわからなかった感じか? すると、和也さんを見る俺を見たのか、美佳さんが和也さんの話を始めた。
「……父にはそんな仕事はやめろと言われました。でも担当の子の顔を思い出すと、どうしてもやめられないんです」
うん、多分これ、他人にはどうしようもないな。家族が言って変わらないなら変わることはないだろう。ならば……。
「今日話して、どうです? 少しは楽になりましたか?」
「え? あ、まぁ、少しだけ気分が軽くなったような気が……」
まぁ、ストレスが溜まっている時は人に話すといいと良く言うし、こういうのはどうだろうか。
「また、なんかあったらこれに連絡してください。話くらいは、聞けますから」
「あ、ありがとうございます」
その後、彼女の愚痴を小1時間ほど聞き続け、日付が変る前に家に帰ることにした。
これが、大人気Vtuber、四迷アリスのマネージャーである、美佳さんとの初めてのコンタクトだった。
……この時はまだ、この人と深い関係を持つことになるなんて少しも考えていなかった。
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