第34話 もう隠さない

「はぁはぁ..」


立花さんからのLoinを見た俺は全速力で階段を駆け上がり屋上へとやって来た


さっきからずっと心臓がバクバクして止まない

多分急に激しい運動をしたからってのもあると思う..

しかしそれ以上に立花さんと話せると思うと胸が居ても立っても居られなかった


(立花さんは..)


入り口から彼女の姿を探す

グルーっと一面を見渡してみると..


「っ!立花さん!」


見つけた 彼女はその綺麗な銀色の髪に手を当てながらぼーっと学園の景色を見ていた


「...!鷹藤君っ!」


彼女の方も俺の姿に気がついたのか小走りでこちらの方へとやってくる

どうやら彼女は片手に何か大きい袋を持っているようだ

しかしそんな事よりひとまずは彼女へ言わないといけない事がある..!


「立花さん!そのごめん俺っ!昨日は色々と説明不足だったし..」


ひとまずは謝罪から

今日俺は彼女に謝罪も感謝もこれまでの事を全て伝えるつもりだ


しかし感謝を伝える前に謝らないといけない事が多すぎる

これまで嘘をついていた事 いきなり真実を伝えて驚かせてしまった事..


「...」


彼女は俺の言葉をただまっすぐと聞いてくれている


「ずっと言いたかった..立花さん!その..」


俺がそう言おうとした時だった

そう言えば忘れていた事がある.. 今がお昼時であるという事を..


ぐぅ〜


「えっ...!」


俺の腹から出る情けない音が屋上へと響き渡る

予想外の出来事に顔が真っ赤になる 穴があったら入りたい...


「こ、これは..その..」


「ふふっ」


俺が弁解しようとした時だった 立花さんの顔がさっきまでの真剣なのとは違い

昨日一緒に遊んだ時のような見慣れた顔になる


そして立花さんは手に持っていた袋からある物を取り出して俺に渡してくる


「鷹藤君..これっ」


「これは..」


立花さんが渡して来た物..それは木箱で出来た可愛らしいお弁当箱であった


「私..鷹藤君と一緒にお昼食べたくて作って来たの..!

 そ、そのもし良かったら一緒に食べながらお話ししない..?」


「ま、マジで..」


立花さんが俺のために作ってくれた弁当..

そう考えるだけで心がふわふわするさっきまでの真面目な顔なんてどっかいった


「い、いただきます!!」


ここはありがたくいただく事にした


****

「す、凄い!この卵焼きとかめっちゃ綺麗だし..大変だったんじゃ..」


「何回も練習したの..!た、食べてみて...」


「う、うん..」


俺は箸で卵焼きをつかみ口へと運んだ


(..!凄い!ふわふわで舌の上でとろける...)


美味しい その一言に尽きる

立花さんの料理の腕は最近目に見えてあがったと思っていた


「美味しい..!本当に..本当に!」


「本当!!良かったぁ...」


しかし..この味は明らかに数ヶ月で出来る感じじゃない

それにほんの少しのスッキリさ..これは..


「私..鷹藤君を驚かせたくて..ずっと練習してたの」


「立花さん..この味って..」


「うん..『たかたかちゃんねる』の動画でやってたのを作ってみたの..」


やっぱりこの卵焼きは『たかたかちゃんねる』で俺が作った

マヨネーズ入りの卵焼きだ 


「立花さん..」


「昨日はごめんね私..びっくりしちゃって..

だってずっと好きだった『たかたかちゃんねる』が鷹藤君だったなんて..」


「!な、何で立花さんが謝るんだよ!元はといえば俺がずっと隠してたから..

最初立花さんに声をかけてもらった時に正直にいえば良かったのに..」


「やっぱり俺..臆病なんだ..ずっと言いたかったのに怖くて逃げて..

 立花さんにも迷惑をかけて..」


「鷹藤君...」


本当に言いたいのはこんな言葉じゃないのに一度気持ちが溢れたら止まらない


「嘘をついたのだって立花さんと仲良くなるためで..

 やっぱり俺..最低だ..きっとこれからだって立花さんに迷惑かけちゃう..!」


俺なんかが立花さんみたいな人と釣り合うわけがない__俺がそう口にしようとした時だった


「鷹藤君..!」


「えっ!?な、何で!」


突如手にに感じる冷たい感触

弁当を持っていない俺の片手をぎゅっと握ったのは立花さんの指だった


「鷹藤君..!これ以上..自分のことを悪く言わないでよ..私..」



「私..鷹藤君に会ってから一度も迷惑をかけられたなんて思ってないよ!

 確かにたかたかちゃんねるの事はびっくりしたけど..

それでも鷹藤君は私にとってはとても大事な人だから!」


「大事な人..」


立花さんの口から出る『大事な人』という言葉

俺だけじゃなくて立花さんも俺のことをそんな風に思っていてくれていたと思うと心が熱くなる


「それにね涼風が最近よく家で笑うようになったの..!」


「涼風ちゃん..って」


立花さんの妹の涼風ちゃん__俺の妹のつばめと仲良くしてくれている子だ

前に家で一緒にカレーを作って食べたのも今となっては懐かしい


「私のピアノの事があってから涼風も家ではあんまり笑顔を見せなかった..

 でも最近になって..鷹藤君やつばめちゃん達と出会ってからは毎日楽しそうに

 学校の事を話してくれるの..!」


「それに今では料理を一緒に作ったり..

これも鷹藤君と出会えてなかったらきっと変わらないままだった!」


「立花さん..」


立花さんのずっと持っていた悩み..

それによって涼風ちゃんも家ではずっと寂しい思いをしていたと前に聞いていた


「私は鷹藤君と会えて..一緒に料理をして..遊んで..笑って..

 いい方向に変われたと思っているよ..!」


「鷹藤君は違う..?」


「..!お、俺は!」


もし立花さんに出会わなければ..きっと違う未来があったと思う

普通に暮らして、普通に遊んで、普通に..


違う そんなの今じゃ考えられない 

ここまでほんの数ヶ月の事だった

しかしこの数ヶ月での経験や出会いによって俺は間違いなく変わったのだ


「お、俺も!俺も君に出会ってから!自分でも信じれない事が色々と起こって..

 それまで普通だった毎日が一気に変わったというか..」


「あとさ..!これっ!」


俺はそう言ってポケットからある物を取り出す


「これは..テスト..?」


「うん..さっき急いでポケットに突っ込んだからぐちゃぐちゃだけど..

俺..初めてこんな点数を取れたんだ..!」


「少し前だったら逃げてた勉強..『きっと俺には無理だ』って

 挑戦もしてないのに勝手に自分で出来ないって決めつけてた..!」


「でもさ..!俺、立花さんの姿を見てやってみようって思ったんだ!」


「わ、私の姿..?」


「うん..!ずっと近くで君の料理を見てきたから..

 苦手だって、難しくたって諦めない..そんな真っすぐで熱心な立花さんを見てると『苦手だから』って逃げてる俺が馬鹿馬鹿しく思えてさ..」


「きっかけは奏さんと立花さんとの勉強会だったし..

 あれが無かったらきっとこんな..勉強が楽しいって事にも気づけなかった..!

 だからこそ伝えたかったんだ..この気持ちを..」


やっと言えた 感謝の言葉

きっと俺の目には涙が浮かんでいる

本当に最後まで格好がつかないけど..これが俺なんだ

ダサくたってこれが俺自身なんだ


「..ふふ」


そんな姿を見て立花さんが笑った

お互い言いたいことを全部言えてスッキリしたというかもう一度やり直す事ができる安心感から笑みが溢れる


「やっぱり私たちそっくりさんだね..!

 お互いに言いたい事があって..隠し事があって..」


「うっ..確かに..!でもこれからは!」


「うん..お互いに隠し事は無しっ!どんな小さな事も2人で共有して..

 一緒に頑張ろう!」


「..!うん!」


正直今朝はどうなることかと思ったが今俺はこうして笑っている

こうして俺たちはまたゼロに..いや違うそれ以上になった


「ふぅ..ってそういえばお弁当..!」


「えっ!?あ、そういえば!」


話に夢中になって気づかなかったが今は昼休憩

そして立花さんの作ったお弁当を頂いている最中だった


スマホで時間を確認するとただいま午後1時..あと10分で授業が始まる時間だ 


今朝も遅刻で怒られたばっかりだというのにまた遅刻なんかしてしまったら流石にゲンコツ一発じゃ済まないだろう..


「急がなきゃ!い、いただきまーす!」


俺が箸を持って弁当を食べようとしたその時だった


「ちょ、ちょっと待って!」


「ん?立花さん?」


ちゅっ


「え?」


ありえない事が今起きた

俺の頬に触れる柔らかな感触

流石の俺でもわかる..これは..


「ごめんね鷹藤君..!」


「私っ!もうこの気持ちを隠さないから!」


キス

そうキスだ 今俺は確かに彼女にキスを貰った


「え、ええ!?」


顔がゆでだこのように真っ赤になる

心臓の鼓動が急に速くなって今にでも飛んでいきそうだ


頭が回らない.. これはちょっとまずいかも知れない..

そして彼女は追い討ちをかけるようにとんでもない事を言い出したのだ


「あと..今日..こ、この後..!」


「鷹藤君の家に行っても..良い..かな?」


「へ..?」


俺にさっきまで元気はもう無かった

怒涛の展開に思わず情けない声を出してしまった


今日は普通の1日では終わってくれないようだ




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