第14話

 あれから十数年立って十五歳になった。

 今日は降魔国家試験の第二次試験の当日。

 第一次試験の呪力測定は一定ランク以上の降魔師こうましによる推薦でパスできる。 

 国家試験と言うモノの合否だけではなく、合格者の成績によって四級~七級までの格付けがされる。

 

等級による区別は、現作との大きな違いはないな……



「退いて下さい」



「ごめん。邪魔だったよね」



 背後から声を掛けて来たのは小柄な少女だった。

 ややきつめな目付きながらも整った顔立ちは、凛とした雰囲気を感じさせる。

 スポーツをやっているのか鎖骨に毛先が届くかどうかのミディアムでどこか俺と同じ雰囲気を感じる。


転生者? 一瞬そんな疑惑が脳裏を過るが、そんな訳はないか……と即座に考えを否定する。



「私、ゲンを担ぐタイプなのよ」



話が見えてこない。不思議ちゃんなのだろうか?



「は、はぁ……」



「1~10の数字の中で“5”が好きなのよ。キリが悪いけど私には特別な数字なの。55歩めで今日のラッキーカラーの赤を踏むつもりだったのに、あなたに邪魔をされてしまったわ」



「なんかごめん」



「別にいいわよ。今日の次試験では受験者同士で手合わせがあるらしいから、その時にボコボコにするのはこの私、五鬼童ごきどう紗良サラよ」



「よろしく五鬼童ごきどうさん。俺は……」



「知っているから結構よ。吉田勇樹……量と出力だけが術者の全てじゃないってことを教えてあげる。せいぜい吠え面かかせてやるわ!」



「それは楽しみだ」



 フンと鼻を鳴らすと彼女は足早に立ち去って行った。


 恐らく彼女も俺と同じ自身に術を掛けて戦うタイプの術者だ。

 体捌きだけではない。

 それは彼女の苗字に聞き覚えがあったからだ。


 幾つかある降魔師の呪術大系の一つに修験道の開祖役優婆塞えんのうばそくが用いた鬼神前鬼と後鬼、その子孫とされる家系は現在も続いており現在は62代目。

 その一つが五鬼童ごきどう家。

 使用する術は修験道系で仏教(密教)や道教、神道がまじりあったモノで陰陽道に酷似している。


 二大宗家が陰陽道を代表する家ならば、五鬼童ごきどうを含めた一族は修験道を代表する一族と言える。



「やれやれ……面倒なのに目を付けられた……」



「アンタも変なのに目を付けられたわね」



 声を掛けて来たのは許嫁の倉橋瀬織くらはしセオリ

 枝毛一つない美しい白金プラチナブロンドの長髪は兎に角目を引く。髪や目の色が変わると言うのは典型的な高い呪力を持っている人間の特徴である。



「久しぶり元気にしてた?」



「フン。長期休暇の度に会ってるじゃない」

 


「知り合いだし、仮にも許嫁なんだから季節の挨拶と社交辞令ぐらい言うよ」



「彼女五鬼童ごきどう家の次女よね?」



「あんまり公の場に出ないから詳しくないけど、噂に訊く限りだと間違いないと思う」



「彼女は鬼と天狗の末裔……基礎身体能力からしてトップクラスの域に居るわ。それに修験道の開祖の直弟子は典薬寮やくてんりょう呪禁博士じゅごんはかせを努めていたのよ?」



「武家系にとっては分が悪いか……」



 武家系が使用する術は、呪禁道じゅごんどうと呼ばれる道教を元にした呪術を用いる。

 そのため密教や神道、陰陽道だけで戦ってくれる公家や神官、僧侶系の降魔師に比べて相手し辛い。



「でも相手のベースは修験道。武芸では武家が上よ戦うことがあれば精々がんばりなさい」



「おう!」



 こうして俺は試験に挑んだ。



「ぜぇぜぇ……マラソンかよ……」



「武家の跡取りともあろう人が息切れなんかしてて大丈夫?」



 瀬織セオリはニンマリとした笑みを浮かべながら、ペットボトルを差し出してくる。

 「サンキュー」とお礼を言ってからペットボトルに口を付ける。

 粘つく口内をスポーツドリンクが、さっぱりと洗い流してくれる。



「不味いよ……この数年勉強付けだったから正直体力がヤバイ……」



「……武家だの公家だの言った所で現場仕事なのは変わらないわ。最後にモノを言うのは自分の力よ呪符じゅふ使ったら?」



「……そうしたいのは山々なんだけど……今日呪符持って来てないんだよね……」



「バッカじゃないの?」



「妖魔を討伐することはないだろうし大丈夫だよ」



「慢心だわ……」



「それにさ……俺だけ回復したら不公平でしょ?」



「……あなたの中では、そうかもしれないわね」



「……」



「そう言えば第一部合格者を最近引き受けるようになんたんでしょ?」



「ああ方針が変わってな……武家系の術は多少練度が低くても戦えるようになるから人気があるんだよ」



 武家の術は古くは身体を強化し刀剣や槍、弓矢と言った武具で妖魔を祓う。

 そのため術一回で少数~多数を倒す公家系の術に比べて平均して燃費が良いため、呪力量が低い術者に好まれる傾向が強いのだ。

 


「今のままじゃ宝の持ち腐れよ?」



「判ってる……」



「じゃあ今度火界咒かかいしゅ教えてあげましょうか?」



「メジャーだよな火界咒かかいしゅ



 それはRPGにおいて最上位魔法(8までは)メラ〇ーマのようなもので、プレイしていなくても知っているそんな知名度を持った術が火界咒かかいしゅなのだ。



「あんた一字咒いちじしゅまでしか使えないじゃない」



「いいんだよ長い真言覚えるの苦手だし……」



伊吹イブキだって慈救咒じくじゅまでは使えるのよ?」



「あいつ不動明王系の術苦手だったのに良くできるようになったな」



「多分おいていかれないように頑張ってるだけよ」



「……そうか」



「背中を追われる立場に胡坐をかいていると何時か追い抜かれるわよ?」



「……」



「じゃあアタシそろそろ行くから汗ちゃんと拭きなさいよ? 風邪ひいても知らないんだから」



 幼馴染の足音を聞き届けてから呟いた。



「追い抜かれるのも悪くないかもな……追い抜けるものなら……」



 その時影が蠢いた。




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『あとがき』


 読んでいただきありがとうございます。

 本日から中編七作を連載開始しております。

 その中から一番評価された作品を連載しようと思っているのでよろしくお願いします。

【中編リンク】https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/collections/16818093076070917291


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