第9話

 隣接するホールの一室には、太鼓と祝詞の声が響き沢山の子供達が親と座っている。

 


「「「――かしこかしこみももうす」」」



 呪力を込めることになる短刀は、『魔を退けるお守り』として産まれる前に作刀されたものらしい。

 女の子の短刀は懐剣かいけん……つまり嫁入り道具としてのものを、男の子は実用的な短刀が神社などでお供え物が乗っている木製のヤツの上に置かれている。


……なんとも物騒な風習だ。



「ここからは、君達の誕生と共に賜剣しんけんされ今日まで君達を守り抜いてきた守り刀に自身の気を込めてもらう」


「そうしてはじめて君達は、魔を降す者としての人生が始まると心得よ」


『それでは入気にゅうきの儀を始めてください』


「……さっき式神を生成した時のようにその短剣に呪力を込めるんだ」


「はい!」



 言われた通りに呪力を込める。

 しかし、先ほどの呪符と比べると呪符を流し辛い。

 だが容量は大きく限界まで流してみたくなった。

 それが悪かった……短刀は眼が眩むほど輝くいた。


少し不味いかも……



勇樹ユウキ呪力を込め過ぎだ抑えろ!」


「でもどうすれば……」


「流した呪力は水のようなもの! 元はと言えばお前の力だ直ぐに馴染む雑巾で拭うように刀身から呪力戻せ」


「判った!」



 呪力は水や電気のように流すことができる。

 しかし、水や電気と違って意識一つで細かな操作が出来る。

 さっき式神術を習った時に術で大切なのは、神仏への感謝(念)と術への理解度そして、イメージだと教えられた。

 ならば流した呪力を自分と一体化させることはそう難しくないハズだ。


戻れ。


戻れ。


 戻れと何度も念じ呪力を操作するべく苦心する。

 その僅か数十秒ほどの時間は、俺にとっては数分にも感じられ額には玉のような汗が滲む。


戻れ。


戻れ。


 まるで満杯のダムの関を開け放水するように、刀身から溢れそうになっている呪力を自身に戻し8、9割のところまで減らしたところで限界が来た。



「よくやってのけた。お前は立派な吉田の術者だ」


「はい!」



 俺は何だか誇らしい気分になった。



「吉田の子供は卓越した呪力量かコントロールセンスを持っているな」

「ああ、あれだけのコトを引き起こしてもなお、一番早く短剣に呪力を込め終わった」

「天賦の才だな……」


「ああ……」

「しかし、入気にゅうきの儀で測れるのは呪力コントロール能力と早熟と言うことだけだ」

「この後の呪力測定も楽しみだな」

「呪力量も呪力コントロールも今の段階でのもの絶対の要素ではないがな……」



 周囲の男女達は口々に俺の噂話を口にする。

 俺の自尊心が高ぶっていくのを感じる。



入気にゅうきの儀が終わった子供と後見人の方は、係り員の指示に従って別の階にお進み下さい』


「こちらにお願いします」


「なにするんですかー?」



 係りのお兄さんに質問すると答えてくれる。 



「ここでは炎を使って呪力総量と呪力放出量の測定を行います」


「ソウリョーとホーシツリョー?」


「呪力総量と呪力放出量の関係は、お水で例えると水鉄砲に入る水の量と、水鉄砲の引き金を引いた時に一度にどれだけ水を出せるか? と言うモノです」



何ともまあ分かり易い例えだ。



姉弟か子供でもいるのだろうか? 何というか手慣れている気がする。



「先ずは呪力放出量を計りますので、この蝋燭に火を付けて貰います」


「~~でも“ひ”をつけるマホーはつかえないよ?」


「大丈夫です。この呪符に呪力を込めて頂くと自動で術が発動し、蝋燭に火が灯ります何度か繰り返すことで、平均出力を導くことが出来ます」



 なるほど『呪符に呪力を込めると自動で発火するそういう』術があるのなら確かに、術者の平均出力導くことが出来るだろう。



「イメージやジュツへのリカイもかんけいないんだ」


「降魔協会謹製の術ですから関係ありません・・・・・・・・


「じゃぁやる・・ね……」


「では呪符を持って急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうと唱え呪力を流してください。」



 眼前には一列に並んだ銀の燭台に立った蝋燭と、それをのせている神社などでお供え物が乗っている木製のヤツ――三宝さんぽう三方さんぽうと言うらしい――の側面には呪符が張られている。

 退火の呪符か、難易度を上げるものだろうと当りを付ける。



俺は地獄の超越者から力を貰ったんだぞ? 術への理解なんて要らない。神仏への感謝の念も……ただイメージしろこの炎は稲妻のように早いモノだと……



急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう



 刹那。

 蝋燭は瞬時に全て灯った。

 一瞬遅れて蝋燭の炎が風に揺れボウと音を立てた。



 係りのお兄さんは信じられないようで、記録用の紙が乗せられたガバンを落した。



「バカな……」


「信じられない発動速だ」


「熟練の術者でも不可能でしょうよほど神仏に愛されているのか、呪力が多いくオマケに放出量も多いのではないでしょうか?」


「……そうだよなぁ……」



 流石の出来事に父母も絶句状態だ。

 呪力を流すのを辞めると一定時間で蝋燭の灯は消える。



「ツギはカミナリをイメージせずにやるね」



 先ほどより幾分か速度は落ちたもののやはり発動速は早い。



「目を凝らして良く視て・・見れば漏出している呪力に気を送るだけでも爆発しそうな量だぞ?」


「そんなの目を凝らさなくても判るだろ!」


「俺はお前と違って見鬼けんきの才に乏しいんだ!!」


「あんなの500wの家電に10000w流しているようなもんだぞ」


「それじゃぁいつ壊れても可笑しくないってことか?」



 術を発動するときに周りが輝くのはどうやら呪力が漏出しているかららしい。

 家電と電力の話からして大分不味いようだ……もしかして超越者に願った莫大な力ってマイナスになってる?


 俺は不意に脳裏を過ったその考えを振り払えずに居た。




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