第26話 リーシャの告白
イグラシア領を出てから5日が経った。
この間、人里らしい人里はひとつも無く、ただひたすらに続く自然道を俺とリーシャは野営を挟みながら進んでいた。
その日、イグラシア領を出て6日目。
日が暮れ始めた頃、山中にて丁度良い小屋を見つけた。
「お!丁度いい。今日はここで休むか」
「そうですね」
しおらしい微笑みでそう返すリーシャ。
「…………」
ここのところリーシャの様子が少しおかしいのだ。
何というか、こう、お淑やかというか、以前のようなガチャガチャとした雰囲気が感じられないのだ。
以前と比べると口数もたいぶ減り、肩を並べて歩いていたのも、今では俺より一歩後ろを歩くようにしているようだ。
明らかに様子がおかしい。
知らず、俺は何か怒らせるような事をしたのかもしれない。
意を決して聞いてみる。
「リーシャ。まだ起きてるか?」
「……はい」
暗い小屋の中、今、俺とリーシャは離れた位置でそれぞれ毛布に包まれながら寝ている状態だ。
「最近、何というか、元気が無いようだがどうかしたか?もし、俺に対して何か思うところがあれば遠慮なく言ってくれ」
「……なら、言いますね……勇者君の事が好きです。愛しています」
「え……」
瞬間、リーシャの方へ向けていた俺の背中に人肌の感触を得る。ぎゅっと密着する肉感と温もり。
無論、その正体はリーシャだろう。
「……多分、会った時から好きだったんだと思います。最初は感情的な違和感だけでした。でも、その違和感は段々と形を成していって、はっきりと勇者君の事を好きなんだと認識するようになりました。それからはもう、抑えが効かない程に勇者君を愛する気持ちが大きく膨らんでいって……最近では何だか私おかしくなっちゃって……勇者君を見てると、何だかこう……身体が熱くなって、我慢が出来なくなるというか……とにかく、今まで永く生きてきた中でもこんな感情は本当に初めてで……これが、〝恋〟というやつなんですかね……?」
そこまで言うと、リーシャはいつの間にか俺の体に手を回し、その手で俺の身体をぎゅっと締め付け、さらに言葉を紡ぎ始めた。
「……お願いです。勇者君。一度で、一度で良いので……私に思い出を下さい……私を、抱い下さい。女として愛して下さい。今夜だけでいいので……」
リーシャにここまで言わせておいて、背を向き続ける訳にはいかない。
意を決し、覚悟決め、リーシャの方へと体を反転させる。
眼前にリーシャの美貌。
そして、窓から差し込む月明かりに瞳が青く輝いている。
「……俺も一緒の気持ちだよリーシャ。お前の事が好きだ」
「勇者君……」
自然な流れでキスを交わし、そして俺達は身体を重ね合った……。
◎●◎
――翌朝。
「おはようございます。勇者君」
「――ん。あぁ……おはようリーシャ」
リーシャの声に目を覚ますと、そこにはどこかよそよそしくも、恥じらうかのような表情で、視線をあちこちに散らすリーシャの姿があった。
しかしその表情には最近の曇った様子は無く、むしろ晴々と幸せそうな様子がみてとれる。
尚、ローブに身を包んだその中は裸なようで、胸元の白い素肌がローブの隙間から垣間見える。
「……何だか、恥ずかしいですね」
「……そうだな」
意外にも
ただ、可愛かった……。ひたすらに、死ぬほど可愛いかった……。
「「…………」」
どこか気恥ずかしくもむず痒い、それでいて幸福感のある沈黙の中、言葉を発したのは俺だ。
「……リーシャ」
「……はい」
「ゼローグを倒したら俺の妻になってくれ。リーシャのこれまでの人生に比べると俺の人生なんて本当にちっぽけかもしれないが、俺の全てをお前に捧げたい。これからもずっと俺の隣りにいて欲しい」
「はい!もちろんです!」
俺のプロポーズの言葉にリーシャは嬉しそうに涙を浮かべ、俺の胸へと飛び込んできた。
その勢いによりリーシャを簡易的に包んでいたローブがはだけ、俺の上半身(裸)にリーシャの胸が直接当たる。
ぎゅっと抱き締められ、素肌感のある膨らみがむにゅっと押し当てられる。
そして俺もまたリーシャを抱き締める。
「大事にする」
「……はい。大事にして下さい」
◎●◎
というわけで、俺とリーシャは恋人同士となり、俺としてはこのまますぐにでもリーシャと結婚して二人きりの甘い生活送りたいというのが本音なのだが、そうもいかない。
というもの、この旅のそもそもの目的。
ゼローグを倒して魔界の実権をリーシャへ戻し、世界に安寧の時代をもたらす事。
そのリーシャの願いを叶えてやらねばならないからだ。
というわけで、魔界へ向けた旅路へ戻るのだった。
◎●◎
――リーシャと出会い、旅を始めて一年が経った頃。
その男は何の前触れも無く、突然と俺達の前に現れた。
(誰だ?)
人気の無い山中。
騎士服や冒険者服とはまた違った感じの、黒い魔導着?みたいな服装をし、手には豪奢な金細工が施された杖を持っている。
さらに、目立つ真紅の長髪も相まり、その男からは禍々しいまでのオーラが感じとれた。
(……こいつ、只者じゃないな)
そう思った時だった。横のリーシャが戦慄の声を上げた。
「ぜ、ゼローグ……っ!!」
「――ッ!!」
その声を聞いて俺は咄嗟に剣を抜き、さらにリーシャへこの場から逃げるよう促す。
リーシャは断腸の思いに顔を歪めながらも、しかし自分じゃ力不足である事を理解しているからこそ「……気を付けて下さい」とだけ言葉を残し、この場から距離を置いた。
だが、もっと離れた所へ逃げれば良いものを、俺の事がどうしても心配なのか、リーシャはこの場から20メートルほどしか離れていない地点で足を止め、こちらの様子を窺う。
「……魔王リーシャ。そして、勇者エーデル・アストロズ……やっと見つけたぞ」
そう呟くように口にした男――改めゼローグへ、俺は問答無用とばかりに斬りかかる。
(――リーシャは俺が守る!!)
――バキーン!!
しかしその直前、ゼローグから突き出された杖から強力なバリアが展開され、刃はそれに阻まれた。
そのバリアに跳ね返されまいと、力を込め、魔力を高め、刃の先端へと集中させる。
特級魔法――
《究極刃(アルティメット・ブレード)》
バリアを真っ二つに斬り裂くイメージで剣を振り抜いた。
――バリーン!!
バリアが粉々に割れた。
実際には〝真っ二つに斬り裂くイメージ〟とは違ったが、阻むバリアを突破して、すかさずゼローグ目掛けて剣を振る。しかし、
――ガギン!!
今度はゼローグの持つ杖に受け止められる。
そして、その杖はどう足掻こうが斬れず、折れず、弾き返す事も叶わない。ゆえに、俺とゼローグは鍔迫り合いの形となった。
力と力のぶつかり合い。されど、まるで休戦の如く互いに動かず、顔と顔を見合わせ、睨み合う。
そんな時、ふと、ゼローグの口が動いた。
「……本当のエーデルではないな?お前、一体誰だ?」
――――――――――――――――――――
〈作者より〉
更新が遅くなり申し訳ありません。
次回が完結となります。
投稿時期は未定ですが、あまり空かないように心がけます。
多分、今週末くらいかな?
また、新作を執筆中です。
〈タイトル〉
隣りに越してきた元アイドル美少女がペア将棋に誘ってきた件。
連載開始はまだ先になると思いますが、その際はこちらの作品もよろしくお願い致します!
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