第42話 荒風と花火と決意と田畑
「先輩、花火始まりますよ」
「そうか、もうそんな時間か……」
「そうですねー、時間が過ぎるのは早いですね」
俺がそう言うと、狩人先輩はどこか切なそうな表情をした後、何事もなかったかのようにまた振舞う。
「ようし、いい場所を取られないように今すぐ行くぞ」
「そうですね」
俺はそう言いながら狩人先輩と花火を見るために、いい場所取りをしようと意気込んだ。
◆
「こ、これはすごいな……」
「うっ……さすがお祭りって感じですねー」
「しょうがないな、ここで見るしかないか」
「まぁ、これ以上前に行けそうでもないですしね」
俺と狩人先輩は仕方なく、いい場所とは言えそうもない所で花火を見ることになった。
周りに人が多すぎて言ってはいけない言葉を言いそうになってしまう。
ピュ~ルルと上がり、ドーンッと大きく音が鳴る。
夜空に綺麗な花火が打ちあがる。
「優弥、私はこの花火を見れてよかった」
「そうですね! こんなに迫力があって、綺麗で――――」
「それもあるが、そうではない」
「え? 何か違うのがあるんですか?」
「あぁ、私は好きな人とお祭りに来れて本当によかった」
え? 今なんて? 好きな人と来れてって言った?
狩人先輩の好きな人が俺なのか?
俺の頭の中は、花火どころではなくなった。
「いま、なんて……」
「まったく、二度も言わせるな、私はお前のことが好きなんだ」
「……そ、そうなんですか」
春姉に続き、狩人……いや荒風先輩まで俺のことが好きなのか……。
なんなんだこの夏の魔法は、でも、でも俺は……。
「……ごめんなさい、先輩の期待に応えることはできません」
その言葉を聞いて、先輩は知っていたという、納得の表情を見せる。
どうして、フラれたというのにそんな表情ができるんだ……。
俺は、俺は最低な人間だ……。
そんなことを考えていると、俺の頬に温かい手が当たる。
「そんな顔をするな、優弥、私はお前にそんな表情をしてほしくて告白したわけじゃない」
「ごめん、なさい……」
「他に伝えるべきひとがいるんだろう?」
「……はい」
俺がそう言うと、荒風先輩は俺の頭をしっかりと抱きしめてくる。
本来、抱きしめなければいけないのは俺のほうのなのに……。
柔らかく、そしていい匂いが俺の感覚を支配する。
「優弥、私は自分で言うのもなんだけど、いい女だと思うぞ」
「はい、めちゃくちゃ……いい女だと思います」
「もっともっと、いい女になると思う」
「はい」
「後悔……するなよ」
「させてください、こんなバカな男を」
俺たちはそのあと数分、話もしなかった。
荒風先輩と、別れた後、ある人物と会った。
◆
「どうしたのよ、そんな顔して」
「あー、恵か」
「なによその、嫌な奴に遭ったみたいな……あんたどうかしたの?」
恵は俺の異変に気が付いたのか、心配そうな表情で俺の方に近づいてくる。
俺は先ほどあったことをすべて話した。
誰に告白されたとか、個人名などは伏せて。
「なるほどね、じゃああんたはいまどうしたいの?」
「どうしたいって……わかんない」
「はぁ?! 告白断っておいて、それはないでしょうあんた!」
恵はものすごく怒りながら俺の首元を掴んでくる。
「前までのかっこいいアンタはどこいった! 今こそ自分の好きな相手に告白するべきだろ!」
「で、でも……気持ちの整理が……」
「気持ちの整理なんて、あとからしろ!」
「――――っ!」
恵は俺の顔を真っすぐ見ながら心に熱く叫んでくる。
「フラれた子の想いも背負ってアンタは好きな子に気持ちを伝えなきゃならないの!」
「あぁ、そうだよな……今から行って来る! ありがとな!」
俺はそう言って恵と別れた。
恵の喝が入ったことにより、俺の気持ちは揺るがない物になった。
「あーあ、私ってほんと馬鹿だなぁ……、もう君の色は染まってたんだね……」
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