第18話 テストの結果

 つい先日までテスト勉強をしていたのが嘘のように時間が過ぎていき、今日ですべてのテストが返却された。


 そして俺は今、生徒会室に来ている。

 テストの出来を報告し合っているのだ。


「それで、鷹村は赤点はなかったのか?」

「な、なんとかなかったです」

「小春に教えてもらっていたと聞いたが、その成果が出たようだな」

「そ、そうですね……みんなのお陰です」


 俺がそう言うと、生徒会長は笑っている。

 面白い所は一個もなかった気がするのだが、何に笑っているのだろうか。


 この人は謎が多い人だ。

 いい人なのは間違いないんだが。


「それはそうと、夏休み前に球技大会があるが、その競技のアンケートを取るので各

学年、クラスにプリントを配ってもらいたい」

「そっか、もう球技大会かー」


 生徒会のメンバーが会長の言葉に反応する。


「例年どういうのやってるんですかね?」

「んーとねー、去年はバレーとかバスケとか他にも玉入れとか玉転がしみたいなのもやったね」

「なるほど、球技が苦手な人用のやつですね」

「でもね、一番盛り上がったのは玉転がしなんだよねー」


 玉転がしというのを聞いて、驚いた。

 バスケやバレーではなく、玉転がしが一番盛り上がったとは。


「女子と男子どっちも種目は同じなんですか?」

「そうだな、ほとんどは種目が同じだ」

「変えるのも面倒くさいですしね」

「そうだな」


 その後、生徒会長からプリントをもらい、教室へ戻った。


 春姉は珍しく、生徒会室へ来なかった。

 というよりも、話し合いに参加しなかった。


 教室へ戻る途中に春姉にあった。

 何やら先生と話しているようだったので、声をかけるのをやめた。


 すると、後ろから抱き着かれた。

 誰がしているかわかって、素通りしようとしたが思いのほか力が強かったため、できなかった。


「なぁんで、無視するのさ」

「いや、先生と喋ってて邪魔するのはダメだと思って」

「じゃあ、今終わったから邪魔じゃないよ」


 春姉は話したそうにこちらをじっと見ている。

 かという俺も聞きたいことがあったので、はぁっとため息を吐く。


「そういえばさ……」

「うんうん!!」


 まだ何も言ってないのに、目をキラキラさせて近づいてくる。


「なんで今日の生徒会の集まり来なかったの?」


 俺がそう聞くと、その話題かよと言わんばかりの表情をしている。

 明らかに、テンションが下がっている。


「もしかして、忘れてたとか? 春姉に限ってサボりなんてないと思うけど」

「違うもんっ、サボりとか忘れてたとかじゃなくて別件で仕事してただけだもん」


 春姉はプリプリと口をとがらせて怒っている。


「別件?」


 俺がそう聞くと、春姉は不気味な笑い声で変なポーズをとっている。


「教えてあげよう、鷹村優弥くん」


 なんでフルネームなんだろう。

 春姉の茶番がまた始まったと、俺は苦笑いする。


「球技大会を開催するのにも、教師の許可が必要なのだよ」

「ほ、ほう……それをしていたと?」

「正解っ、そういう許可取りも生徒会の仕事だからね」

「じゃあ、ちゃんと仕事してたんだ」

「ふふふふ、凄いだろ? 褒めてくれてもいいんだぞ」


 春姉は褒めてほしいのか「ん? ほれほれ」と顔を覗き込むようにして身体を俺の懐に入れてくる。


「はいはい、すごいよ」

「なんかテキトー」

「ここ学校だし、春姉は人気あるんだからもっと注意して」

「何を注意すればいいのさ」


 俺は春姉の純粋な眼差しを受けて、咄嗟に目を逸らしてしまう。


「い、いや……それはさぁ、やっぱり周りの目を見てさ」


 俺がその言葉を言った瞬間に春姉の雰囲気が変わったことに気が付いた。


「周りの目を見ないと話しちゃいけないの?」

「そうじゃないけど」

「私は私が話したい人と話してるだけ、でもゆうちゃんは嫌?」

「いや……俺も春姉とは話したいけどさぁ……」

「じゃあ何も問題ない!」


 春姉はそう言うといつも通りの雰囲気に戻った。

 一瞬、このまま怒られるんじゃないかとも考えたが、全然そんなことはなかったので安心した。


「あ……テストさお陰様で赤点なかったよ」

「おっ! やったじゃんっ」

「うん、ありがとうね」


 俺は春姉にお礼を言うと、身体をくねくねさせて照れている。


「え~? ゆうちゃんの自分の力でもあると思うけどなぁ?」

「いや、春姉に教えてもらったところがピンポイントで出て、すらすら解けたよ」


 自分のお陰ではない、田畑さんや春姉に教わったからこその結果である。


 田畑さんにもこの後、お礼を言おうと決めた。


「教え方が上手だったのかなー?」

「だからそうだって」

「え、あ、う、うん」

「なに照れてるんだよ」

「は、はぁっ? て、照れてないしっ」


 絶対に照れているであろう春姉が否定し続ける。


「今度なにかお礼するよ」

「えっ! 本当に?」

「うん、いいよ、なにもしないってのはさすがに悪いし」

「そんなぁ、いいのになぁー」

「まぁ、希望があるなら言ってね」


 俺はそう言うと、春姉はニマニマしながら首を縦に振った。


 先ほどとは違い、ルンルンになって去って行く春姉を見て俺は笑ってしまった。



 

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