第15話 狩人先輩とトラブル~頬の感触を添えて

 今日もいつも通り挨拶週間の当番をしていた。

 なにも変わらずに、平和だと感じていた時だった。


「ち、ちょっとやめてよっ」


 女子生徒のなにやら嫌がる声が聞こえてきた。


 声のする方に行ってみると、女子生徒が男子生徒に腕を引っ張られている。


「なぁ、いいだろ? 彼氏いないならいいじゃねぇか」

「彼氏いるとかいないとかいう問題じゃないの!」

「この俺が言ってるんだぞ?」


 なんだ、このチャラそうな男は……。

 学校の正門前でこんなナンパみたいなことよく恥じらいなくできるな……。


 俺は若干引いてみていたのだが、我に返り、活動の一環として俺は彼女たちの仲裁に入る。


 男から不審がられたが、女性の方は安堵している様子だった。


 話を聞いてみると、どうやらチャラそうな男の方が女性のことを好きらしい。

 告白したらしいのだが、いつまで経っても返事をくれない女性。


 それにしびれを切らして、彼氏いないなら付き合おうという事だった。


 女性の方はいわゆるキープというやつだ。


「――――だとしても、無理矢理はよくないと思いますけど……」

「そうよっ! 無理矢理なんて、アンタみたいなやつねこっちから願い下げよ」

「なんだとてめぇ」


 女性の言葉に男がさらに怒り出す。

 彼女に対して、物凄い目で睨みつけている。


 俺が止めようと、間に入った時に、頬に衝撃のあと遅れて痛みが襲ってきた。

 右頬をぶたれたのだ。

 痛い。ものすごく痛い。


 しかし、自分のことではなく、女性の方も殴られそうになったときだった。


「お前たちっ!! 何をしているっ!!」


 ものすごく、怒り狂ったような声で遠くの方から走って近づいてくる女の人がいた。


 こ、こ、この声は……!

 狩人先輩っ。


「かり……荒風先輩っ!」

「優弥、簡潔に状況を話せ」

「はい!」


 俺が狩人先輩に状況を説明しているときに、男はというと、荒風先輩のあ圧が強すぎて、何もできていなかった。


 ただ、その場に立っているだけだった。


「ほほう、それでこの状況が生まれたわけか」

「ま、まぁそういうことです」

「……っ、優弥、その顔……」

「あっ、気にしないでくださいっ」

「…………ふむ」


 荒風先輩は、男と女の方へ詰め寄っていく。

 目がギロリッと獲物を狙っているみたいで怖い。


「男、手を上げるとは何事だ」

「だ、だって……こいつが」

「そう言って、他人のせいにしている時点でお前は人として未熟なのだ」

「…………っ」


 男の方がそう言われて、ぐぬぬと何も言えなくなっていた。


「そ、そうよっ! 男として未熟なのよ」

「何を言っている、お前もだバカ者」

「へっ?」


 女性がそう言って、男のことをケラケラと笑っていたのだが、狩人先輩が彼女についても怒る。


「お前がキープやなんだといった感じでこの男を弄んだのだろう?」

「弄んだなんて……ただ告白の返事をしなかったからって」

「この男にはその返事が必要だったのだ、その結果が成功か失敗かは別としてな」

「はい……ごめんなさい」


 す、すごい……、荒風先輩が話を全て丸く収めてしまった。

 最初は殴るんじゃないかと考えてしまったが、案外見かけによらない。


「お互いにごめんなさいしろ」

「はい」

「わかりました」


 二人がお互いに謝ってその場を収めた。


「ただ、おい男」

「は、はい?」

「お前、こいつの頬をぶったらしいな?」

「え? えっと……」


 え、え? なんでわかるの? 

 てか、顔が狩人先輩の胸に引き寄せられて、いい匂いとともに、柔らかいものが、さっきぶたれた頬に当たる。


 え……殴られてよかった……。

 決してドМというわけではないのだが……。


 よかった。


「手を出すなんて、話にならないぞ1年生を、止めに入った者を」

「そ、それは……」

「ん? どうした? 痛いか」

「痛いといいますか、く、苦しい……ふむっ!」


 頬の痛みはもうなく、胸に押し付けられているせいで呼吸がしづらい。


 それに、息を吸うととてもいい匂いが……。

 春姉の匂いとは違い、大人の女性的な。


 待て待て待てっ! このままでは俺が変態となってしまうっ!


「せ、先輩っ! 抱きしめられて苦しいです」

「…………そ、そ、そそれはすまなかった」

「…………え? は、はい」


 ――――え。

 なに、今の可愛い反応。

 ちょっと待って、さっきまでのかっこよすぎる先輩はどこに?


 狩人先輩は、見たことない表情をしていて、顔が真っ赤になっていた。


「と、と、とにかくだ! 叩いたことを……ってあれ?」

「あー、もう行っちゃいましたよ」

「な、なぜ止めないんだ!」

「別に気にしていないので」

「ほ、本当か? 他に怪我とかしていないのか?」


 熱心に俺の心配をしてくれる。

 さっきの表情といい、この人の謎が深まるだけだった。


 それに、近づいてこられると、さっきの胸の感触を俺の頬が覚えているため恥ずかしくなる。


「大丈夫ですよっ、元気いっぱいです」

「そうか、それならよかった」

「はい、助けてくれてありがとうございました」


 俺が一礼すると、先輩は「いらない」と一言。


「お前が先に動いたからこその結果だ、よくやったな」

「いえ、活動の一環としてやっただけです」

「フッ……そうか」


 そう言って、狩人先輩とは離れたのだが、彼女の耳がまだ赤いことに俺は気づいた。 



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