魔導騎士ジョシュ−2

 ジョシュから物件を貰うのはやり過ぎだろうと、どうにか断ろうとするが、言いくるめられて物件を貰うこととなってしまった。


「そんなに高い物件ではないし、伯爵家所有の物件もある。故郷に帰るときに私に返却しても構わない」

「返却が可能なら少し安心できます」

「うむ。私としてもアレックスから錬金術の品を買い取りたい。下心は十分にあるのでそこまで気にしてくれるな。無論、物は適正価格で買い取るぞ」


 物件を貰ってしまったのだし、錬金術で作れる物なら無料か割引でも構わないのだが、ジョシュに再び言いくるめられる未来が見える。

 贈り物でも贈る事にして、説得するのは諦める。


 ジョシュが物件について書かれた紙を出してきた。

 どの物件がどのような位置にあって、以前はどのように使われていたかを詳しく説明してくれた。

 錬金術師が構える工房は王都の中心地に多く、匂いや音が出ないように加工された特殊な物件が多いようだ。


 どの物件でもアレックス個人が使うなら十分以上に思える。

 しかし王都に拠点を一時的に構えるだけの為に、王都の中心地にする必要もないと思えてきた。

 中心地以外に工房になりそうな建物がないのかと尋ねてみる。

 するとジョシュが少し迷った後に一枚の紙を持ってきた。


「条件に合いそうなのはこれだ。再開発地区に指定されているのだが、色々と問題があって再開発が何年も進んでいない地区の物件だ」

「再開発が急に進んで建物が取り壊しになる可能性はないんですか?」

「問題が厄介な事もあって基本はないと聞いている。もし取り壊しが決まったら、また別の場所に移動すればいい」


 ジョシュが持ってきた紙を確認すると、物件は伯爵家の持ち物らしい。

 伯爵家としての考えをジョシュが話してくれた。

 物件は再開発された後に更地にして何かを建てようと構想していたが、予想外にも再開発が進まない事になって、伯爵家としても現状では使い道がなく、放置されているのだと言う。

 現状でも維持費がかかっているので、伯爵家としては邪魔な物件らしく、アレックスに所有権を引き渡してしまっても問題はないどころか、喜ばれるだろうとジョシュが続けて教えてくれた。


 説明が本当であれば、理想的な物件のように思える。

 建物は錬金術で直せるとしても、土地の大きさはどうにもならないので、建物や土地の大きさをジョシュに尋ねた。

 ジョシュも建物や土地の大きさまでは知らないようで、紙に書かれている土地や建物の大きさを二人で確認する。


 アレックスには数字で書かれた土地の大きさでは予想ができなかった。

 ジョシュの様子を確認すると、首を傾げている。同じように数字で土地の大きさは分からなかったようだ。

 ジョシュが唸った後に、今から物件を確認しようと言い始めた。

 確かに見に行けば土地や建物の大きは分かる。

 見に行ってみたいと伝えた。


「では今から案内しようか」

「もしかしてジョシュが案内してくれるんですか?」

「私が居ない状態で建物に入ったら衛兵に捕まってしまうぞ」

「ああ。確かに。ジョシュが案内してくれるのは嬉しいんですけど、仕事は良いんですか?」

「この時間に城から呼び出しも受けていないし問題はないだろ」


 魔導騎士の仕事は呼び出されると長期間になるが、普段の雑用などは部下の魔導士がする事になっており、ジョシュが普段から手伝うのはあまり良くないので、仕事が無い時は割と暇だと言う。

 問題がないのなら案内して貰いたいとジョシュに伝えた。

 ジョシュは出かける前に部下に声をかけてくると言うと、一度部屋を出て行って、すぐに戻ってきた。

 行こうとジョシュが言うので、ソファーから立ち上がる。


 二人で部屋から出ると、通ってきた道を反対に歩いて、魔法省の建物から外に出る。

 アレックスがピュセーマを呼ぶと、すぐに降りてきた。

 ジョシュもソフォスと声を出すと、大梟がジョシュの前に降り立った。

 貴族は猛禽類を相棒に出来るのかと驚く。

 猛禽類は言うことを聞かせるのが難しい上に、食事に大量の肉が必要になるので飼うのが非常に難しいと聞いたことがある。


「大梟とは凄い!」

「仕事で夜飛ぶ事も多いので、魔導騎士になってから実家から譲り受けたのだ。大梟のソフォスは食費に関しては高いが、夜間は特に優秀だぞ」


 大梟のソフォスは人懐っこいようで、ジョシュに甘えるように体をすり寄せている。

 基本的に動じないピュセーマとは随分と違った性格のようだ。

 ピュセーマは猛禽類の大梟を目の前にしても落ち着いている。ワイバーンにも立ち向かっていくピュセーマであれば当然か。


 ジョシュがソフォスに乗ると、先に飛ぶので後ろをついて来て欲しいと言われた。

 アレックスは同意すると、ピュセーマに乗る。

 乗った状態でピュセーマに指示をすると、短く鳴いて同意してくれたようだ。

 ジョシュに合図を送ると、ソフォスが飛び始めて、続いてピュセーマも後を追うように飛び始める。


 たどり着いた場所は意外と王城にも近かった。

 立地としてはかなり良さそうな場所なのに、他の区画と違って建物は古そうだし道が綺麗に整備されていない。

 ジョシュは整備されていない区画の上を回り始めた。

 アレックスの予想が正しければ、ソフォスで回りながら目的地を探しているようだ。


 少しするとジョシュは目的地を見つけたようで、何処かを指差した後にソフォスが地上へと降りて行った。

 アレックスが指示する前に、ピュセーマがソフォスを追いかけて地上へと降り始めた。

 ピュセーマが降り立った場所にあった建物は思った以上に大きく、建物の形状がアレックスの泊まっている宿屋に似ているように感じる。


「想像以上に大きいですね。それに元は宿屋ですかね?」

「形状が古いが恐らく宿屋だったのだろう。しかし、想像以上の大きさだ。維持費がどの程度かかっているか知らないが、実家が扱いに困るはずだ」


 ジョシュも建物について話は聞いていたようだが、細かい事まで知らなかったようだ。

 宿屋だったからか止まり木があったので、ピュセーマとソフォスには止まり木で待っていて貰う事にした。


 アレックスとジョシュは建物の外観を軽く見て回る。

 建物は古そうだが石造りでしっかりと作られているようだ。

 少し修復すれば十分に住めそうな位には頑丈に作られているように見える。

 建物の周りを一周した後に、建物の中に入る事にした。


 放置された物件の中がどうなっているか少し怖いと思っていると、ジョシュが鍵を解除して扉を開く。

 扉を開けたジョシュは建物の中に入って行った。

 ジョシュに続いて中に入る。


 建物の中は壁の漆喰が所々禿げてはいるが、木の床に穴も空いておらず、意外と綺麗にされていた。

 思わず想像以上に綺麗だと呟いてしまった。

 ジョシュが笑いながら、伯爵家の持ち物なので管理はちゃんとされていると教えてくれた。


 建物の一階部分は少し変わった形ではあるが広い空間が広がっており、元々は食堂として使われていたと予想ができた。

 仕切られた壁の奥には厨房だと思われる部屋があって、更に食材を保存する為であろう部屋まであった。

 ジョシュの持っている紙には特に部屋については書かれていないようで、ジョシュもアレックスと一緒に建物の間取りを確認している。

 厨房を確認し終わると、ジョシュが紙を見ながら声をかけてきた。


「建物の中庭には井戸があると書いてるな」

「共同ではない井戸まであるんですか?」

「そのようだ。井戸がまだ使えるか分からないが、確認してみるか」


 地上に降りてから確認したので気づかなかったが、宿屋の中心部分には中庭となる空間があって、中心には井戸が存在していた。

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