第34話

 ダンジョンボスを倒しお宝も手に入れ、ご褒美部屋の帰還の魔法陣を起動しエントランスルームへと戻ってきたアズサたち。

 すると普段とは違う、壁に装飾のある部屋に出た。


「見たことのない部屋だ」

「裏ダンジョン開始とか言うなよ?」

「嫌なこと言わないでよ。とにかく出てみよう」


 慎重に扉を開けて出てみると、そこはエントランスルーム受付の裏手。

 ポカンとしてしまう4人の元に、男性職員がやってきた。


「攻略おめでとうございます。その反応を見るに、初クリアかな?」

「あ、はい。そうですけど……」

「じゃあこちらへどうぞ」


 通されたのは応接用のイスとテーブルのある一角。

 どうぞと言われたので座るが、4人とも事態が呑み込めていない。


「そんなに構える必要はないですよ。初クリアの記念品を渡すだけですから」

「記念品なんて出るんですか?」

「はい。本当にただの記念品なんですけどね。じゃあちょっと待っててください」


 期待半分不安半分で待っていると、男性職員が紙袋を提げて戻ってきた。


「まずはモエレ沼公園のオリジナルグッズセットです。フォトカードにピンバッジに手ぬぐいにマスキングテープに、トートバッグ。

 そしてモエレ沼ダンジョンクリアの証明書と、初クリア記念プレートです」

「大盤振る舞いですね」

「以前はここにTシャツも付けて人数分だったんですけど、さすがに怒られました」


 恥ずかしげに笑う男性職員に何とも言えない表情をするしかないアズサたち。

 最後に無記名のアンケートを書き、解放された。

 なおアンケートは当り障りのないものである。


「それじゃあ剣を鑑定してもらおう。ってどこに行けばいいんだろ?」

「専門の人がいる場合もあるけど、ここは売店が兼任」


 というマヤの指示に従い、売店へ。

 売店はエントランスルームの隣にあり、ケットシーの店員が応対している。

 ちなみにモエレ沼ダンジョンに限らず、ダンジョン内で商売をしているのはその大半が猫系亜人である。


「すみません、鑑定してもらえますか?」

「鑑定にゃ? 任せるのにゃ!」


 曲刀を渡すと、一旦奥へと引っ込む店員。


「……にゃって言ってたね」

「変な語尾ザウルス」

「それアズサには絶対に伝わらないネタだよ」

「つか猫系ってたまにすげーキャラ作り完璧なのいるよな」

「いるいる。グーで顔洗ったり四つん這いで体伸ばしたり」

「でもちゃんとかわいい」

「「「それな」」」


 猫系亜人はほかの亜人に比べてキャラが立っている人物が多い。

 その理由は世界中に『化け猫の伝承』が存在しているからだと言われている。

 逆を言えば、それだけ世界中で猫が人間の身近にいるということでもある。


「お待たせしましたにゃ。お預かりした剣と、鑑定書だにゃ」

「あの、鑑定の費用はどれくらいに……?」

「今回の鑑定はタダなのにゃ。料金表にも書いてあるにゃ」


 料金表には確かに、鑑定4個以下は無料と書いてある。ただし小さい字で。

 ホッとした4人は売店から出て、帰り支度の前に鑑定書を確認。


「曲刀シミターってあるね」

「性能は数字で出ててもよく分からんから飛ばして、特殊能力は……恵み潤うって書いてなんて読むんだ?」

「検索……読みはケイジュン。能力は、濡れていると強くなる」

「わたしにピッタリじゃん!」

「けどアズサに近接攻撃はね……」

「ま、まあ。それはわたしも認めざるを得ないけど……」


 アズサは一振りで分かる程度には近接攻撃が下手である。

 しかし濡れさえすればいいので、やはりツバサが持つことになった。


「ちなみに売ると、2万5千円くらい」

「2本でろくプロ買えたじゃん……」

「必ず出るとは限らないんだから、粘るわけにもいかないよ」

「まあね」


 会話を終え、アズサの視線が時計に向かう。

 時刻は午後1時を少し過ぎたあたり。

 その視線の意味を察し、釘を刺すネネ。


「今日はまっすぐ帰るっつったろ」

「そうだけど……ハァ、そうします……」

「おや、珍しく素直」

「まあね。さすがにメンツもあるし……」


 アズサの脳裏には、12歳年の離れた兄のミルトが浮かんでいた。

 エリート街道まっしぐらの亜人専門弁護士であるミルトは、来春を目安に帰郷する予定となっている。

 そんな兄に赤点まみれの自身の成績を見られたらと思うと、さしものアズサも真剣に勉強に打ち込まざるを得ないのだ。


 その後はいつものように完全武装したアズサをツバサがハーネスで吊り上げ同時にマヤを持つ。

 ネネは竜崎運送の配送員にピックアップしてもらい、先行するためここでお別れ。


「ほんじゃお先。……あ、ひらめいた。ツバサ、リフトいらね?」

「リフトって、フォークリフト?」

「いやスキー場のリフト。オールズスキー場ってあるだろ、あそこの機材更新でいらなくなった3人乗りリフトが余ってるんだけどよ、あれ持てばアタシら一気に運べんじゃね?」

「あー……」

「今すぐって話じゃないから返事は来年でもいいぞ」

「うん、分かった」


 本当に唐突な話で考える時間が足りないので、その提案は一度持ち帰ることに。

 そうしてツバサたちも空に上がり、まずはマヤを下ろす。


「ツバサ、ありがと。……ねえさっきネネが言ってたの」

「スキー場のリフトのこと?」

「うん。あれ出来るんだったら、人間運んで遊覧飛行できそうだよね」

「……確かに」

「あとアズサ、近いうち、いいものあげる」

「?」

「期待してていいよ。じゃ」


 どこか満足げに手を振り、家に入るマヤ。


「マヤもあれで、時々とんでもなく核心を突いてくるからなぁ」


 そんなことをつぶやきながら、アズサをぶら下げて帰宅するツバサだった。



 その日の夜、寝静まったマヤの部屋にて。


「……のう、シロよ」

「なんだクロ」

「此度の戦闘で思った事なのだが……」

「待て。早まるな。それは我々の存在意義に関わる」

「いいや。であればこそだ。我々は……何も成し得ていないッ!」

「クッ……」


「主殿たちの戦闘において、我々は空気。お役に立てていない」

「しかし、だからと言って我々に出来る事があるか?」

「ないッ!」

「…………」

「と断言するのは容易いが、我は次の【石狩ダンジョン】でならばその機会が訪れると考えている」

「何ゆえだ?」

「石狩ダンジョンには亡者どもの住まう階層があると聞く。であれば我が主の本領発揮であろう? さすれば我々にも大いなる機会が訪れるはずだ」

「なるほどな。我もその意見には賛同しよう」


「のうクロよ」

「なんだシロ」

「我にも一つ、考えがある」

「ほう?」

「……我々が魔物共の注意を引く。そうすれば主殿たちも安全に戦えるであろう?」

「フッ、そのような事……なんだとッ!? シロ貴様……天才かッ!?」

「ふっ、崇め奉るがよい」

「誰が貴様のようなものを……大体貴様はいつもいつも我の邪魔ばかりをする。主殿への貢献も我のほうが多いのに貴様はでかい顔だ。恥を知れ恥を」

「でかい顔は白が膨張色なだけだ。大体貴様は貢献度ばかりを気にして正しい貢献というものが出来ておらんではないか。だからそのような黒い腹なのだ」

「なんだやるか?」

「望むところ!」


「……うるさい……」


 翌日、マヤは寝不足になった。




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