第26話

「なんかさ、僕の時空スキルがうまく発動しなかったんだよ」



 軽々しく言い訳をしてくる時空ウサギを前に、俺とサツキちゃんは怒りの感情を抑えるのに必死だった。


 言い訳ならもっとうまくやってほしい。



「あんなやばいトコ勝手に送り込んでおいて、それはないんじゃないか?」


「ごめんってさっきから謝ってるじゃないか」


「謝って済む問題じゃないわよ!」



 サツキちゃんが少し声を荒げて言った。


 気持ちはわからなくもない。


 まぁ、彼女も大概だけど。



「報酬は出してあげるから。それで勘弁してほしいな」



 自分から褒美を差し出してくる気持ちはあるようだったので、サツキちゃんもそれ以上攻めることはやめたようだ。



 :時空ウサギが詰められとるw

 :ルール違反はよくねぇよ

 :【回帰】の戻り方すごかったな

 :ギュインギュインしてたな

 :あれ時空捻じ曲げてなかったか?

 :MP消費重そうだね

 :“ゆらぎ”がハンパなかったな!

 :さて、お宝はなにかな

 :さすがに報酬は期待できそうじゃない?

 :冥葬級から戻ったんだから相応のモノくれないと割に合わないよな

 :レバーはやめたれw



 うん。いくら強くなれたとはいえレバーはもう勘弁してほしい。


 できれば見た目的にもテンションが上がる、すごくレアなものがいい。


 ちなみに視聴者さんの数は今は11万人くらいになっている。


 すでに桁違いの人数になっていて実感はないが、増加スピードとしては少し落ち着いてきた感じもする。



「ちょっと待ってね」



 部長……じゃなかった時空ウサギはそう言って、部屋の片隅に置かれた木箱のひとつを開けて、中に入っていたお宝を俺たちの前に披露した。


 こ、これは……。



「えっ?これってまさか……」


宵闇よいやみのローブ。ホンモノだよ」



 ウサギが持ってきたのは、綺麗に折りたたまれた真っ黒だがいくつか複雑な装飾が施されたローブ。


 今俺が着ている安っぽいパーカーみたいなものとは全然違う。


 明らかに高級そうな生地で編み込まれており、心なしかローブ自体からなにか不思議なオーラを醸し出しているようにも見えた。



「サツキちゃん、この服って……」


「本物なら、僧侶が装備できるローブの中では最高クラスの一品ですね」



 へぇ。そんなにすごい代物なのか。



 :宵闇のローブとか奮発しすぎだろw

 :本物か?ほんとうに

 :激レア防具だね

 :呪い無効、即死無効、闇属性無効など耐性アップ盛り沢山

 :物理攻撃以外は大抵防げたよね

 :能力値補正はないけどね

 :メリットのほうがはるかに大きいよ



 コメント欄が今はゆっくり流れていたため結構色々読むことができた。


 とにかくすごく貴重で優秀な防具らしい。


 ほんと、視聴者さん達は物知りだな。なんでもよく知ってる。


 

「一応【霊視】で確認してみたらどうですか?」


「それもそうだね」


「霊視?」



 ウサギの頭上にハテナが浮かんでいる。



「ああ。【鑑定】のスキルとほぼ同じだよ。最初から使える」


「アナタいったい何者なんですか……」



 ウサギがそれを聞いてまたぶつくさひとり言をつぶやいている。


 やっぱ偽物なのか?この防具。


 ちょっと不安になってきた。


 早速視てやろう。



―――――――――――

【宵闇のローブ】(極レア)


属性耐性

 [熱半減] [冷半減] [地半減] [風半減] [闇無効]


状態異常耐性

 [痺れ半減] [眠り半減] [魅了半減] [石化無効] [混乱無効] [即死無効]


能力値補正

 なし

―――――――――――



 お、なんか半減とか無効とかいっぱいついててすごい!


 これは本物だろうな!



「どうでした?」


「熱半減、冷半減、闇無効、即死無効などなど……」


「本物、みたいですね……。早速着てみます?」


「うん。サイズは合うかな……」



 ダサい着方にならないサイズ感であることを願う。



「馬子にも衣装って感じですかね」


「それ、絶対褒めてないよね」


「いえ、よくお似合いですよ」



 初期装備のローブを脱ぎ、新装備[宵闇のローブ]に着替えた俺。


 サイズはぴったりだった。


 着心地も肌に吸い付くようですごく気持ちがいい。


 サツキちゃんには不評っぽかったけど、ウサギは褒めてくれた。



 :えっ?すごい似合ってるんだけど

 :ちょっと前髪上げてみて!

 :タイプかも

 :結構凛々しい顔立ちなのね

 :俺たちのダイシがイケメンはないよな

 :イケメン許すまじ

 :炎上してまえ!!

 :嫉妬

 :かわいい

 :ねぇダイシ君は彼女とかいないの?



 ん?視聴者さんの中には女性の方も結構いらっしゃるのか。


 前髪上げてカメラに顔を映してあげると、喜ぶ人が意外に多いみたいだった。


 人生であまり容姿を褒められたことがなかったので、素直に嬉しいと思える。


 ただ、男性視聴者には不評なようだ。



「なにニヤついてるんですか」


「いや、視聴者さんが似合うって言ってくれるからつい……」


「あまり調子に乗らないほうがいいですよ……。そんな事より私のお宝は?ウサギさん」



 そんな事って。


 俺的には結構重要なんですけど。



「ないよ。ていうかキミ、なんにもしてないでしょ?」



 なんで知っているのかは知らないが、その通りである。



「いやいや!でも、ほら!回復とかしてあげてたし……」


「直接戦闘には関係してなかったよね?そもそも報酬は1つしかあげないよ。活躍した方だけ」


「そ、そんなぁ……」



 そりゃそうだ。


 2個もくれないだろ。普通。



「ってことで、この件はもう終わりでいいかな?実は君たちを冥葬級に飛ばしてから、僕の時空スキルがすごく調子悪くなっていて、これから色々調べなきゃいけないんだ。できれば早く次の階層へ行ってほしい」



 要するに邪魔ってことね。


 ウサギは持っていたステッキで出口を示し、さらにブンブン上下に振って「早く行け」の動作を繰り返す。


 まぁもらえるもんはもらったから、俺はもうここに用はないけど。 


 ウサギの言ってた時空スキルがうまく発動しなかったってのは、どうやら本当らしいな。


 しょうがないとはとても言えないけど、同情はするよ。



「それじゃあ次行こうか、サツキちゃん!」


「はぁ。私のお宝……」



 サツキちゃんはまだ、未練たらたらだった。

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