第四話「一緒にいかが?」
目の前にある三つのティーカップ。薄紫と水色には「このカップの中身はストレートティーではありません」と、ピンクのカップには「水色のカップの中身はストレートティーです」という文章の書かれたカードが上にある。
少なくともミルクティーの上のカードには嘘が書いてあるわけだから、どれかを嘘だと仮定して解いていく。答えに辿り着くのにそれ程時間はかからなかった。
選ぶ前にセサミにどれを飲みたいか聞いてみましょう。
「セサミ何飲みたい?」
「ミルクティー!」
「じゃあ、あたしは水色のカップに入ったレモンティーで」
あたしは水色のカップに手を伸ばし、カードを取り去った。微かにレモンの香りが広がる。正解だったようだ。
隣でセサミがぶつぶつと独り言のように呟く。
「えっと、ミルクティーのカードには嘘が書いてあるんだから――ボクが選ぶべきなのはピンクだ!」
彼がピンクのカップからカードを取ると、薄茶色の液体が現れた。間違いなくミルクティーだ。メイシェッタが拍手する。
「二人とも大正解~」
「あれ?」
ラウビィが小さく首を傾げた。あたしは不思議に思って尋ねる。
「どうかした?」
「これ、中身ストレートティーだよね?でもカードには『これはストレートティーではありません』って書いてあるよ」
確かにそれは疑問に思われても仕方のない内容だ。解説しようと思った矢先、メイシェッタが口を開いた。
「問題ちゃんと聞いてた?わたし『少なくとも』って言ったのよ。つまり他のカードにも嘘が書いてあるかもしれないってこと」
「そういうことかぁ」
ラウビィも納得したところで、あたしは彼等に質問をぶつけた。
「ところで、さっきから物陰に隠れてこっちを見ているあの子は誰?」
少し前から視線を感じていたのだ。見ると猫のような耳の生えた女の子が物陰に隠れて様子を伺っている。
「さぁ、見かけない顔ね」
メイシェッタの言葉にラウビィが頷く。どうやら二人も彼女が誰か知らないようだ。
「あの子も誘おうよ」
セサミが言った。反対意見は一切出なかった。代表してセサミが呼びかける。
「おーい!」
「なっ、なんでしょうか……?」
女の子は怯えたような表情で尋ねてきた。
「一緒に飲まない?」
「い、いいんですか?」
その誘いに乗っていいのか確かめるように聞いてくる。
「もちろんよ!多い方が楽しいもの」
「ありがとうございます!」
メイシェッタの言葉に彼女は礼を言うと、セサミの隣に腰掛けた。その目の前に薄紫のカップを置きながらラウビィが尋ねる。
「君名前は?」
「オルフです」
「ねぇオルフ、わたし達とお友達になりましょうよ」
「いいんですか!?」
メイシェッタの提案にオルフは叫んだ。彼女にとってかなり想定外だったらしい。ラウビィが頷く。
「もちろん。これからよろしくね」
「はい!」
オルフは笑顔で応じた。
新しいお友達と楽しいお茶会が始まろうとしている。少ししかいられなくて申し訳ないけれど、あたし達はさっさとお暇しましょう。レモンティーを飲み終えたタイミングでセサミに声をかける。
「セサミ、そろそろ」
「そうだね。ボク達行かなくちゃ」
セサミはそう言うとミルクティーを一気に飲み干した。
「お姉さん達、またお茶会しましょうね」
「えぇ、またね」
また会える可能性は低いけれど、口ではそう言っておいた。
「あなた達どちらへ?」
オルフが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「とりあえず黄色い道を歩いてるわ」
「お願いします。ぼくも連れてってください!」
そう答えると、彼女は立ち上がって懇願してきた。セサミが尋ねる。
「どうして?」
「黄色い道を進んだ先にあるお城には、なんでも願いを叶えてくれる魔法使い様がいるそうなんです。ぼく、強くなりたくて」
どうやら彼女には理由があるらしい。様子からして一人で行くのは心細かったのだろう。
「わかったわ。じゃあ一緒に行きましょう」
これはちょっとした人助け。それにこの世界に住んでいる人が近くにいてくれた方がいろいろとありがたいものね。
「ありがとうございます!」
オルフは安堵したような嬉しそうな顔で礼を言った。
「それじゃあしゅっぱーつ!」
セサミが威勢よく叫ぶ。
あたし達はラウビィとメイシェッタに別れを告げ、公園をあとにした。
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