第二話「道を進んだ先に」

 セサミの誘導であたし達は森を出ることができた。今は森の出口から続く黄色い道を歩いている。

 黄色い道ってなんか『オズの魔法使い』みたい。アリスと言えば『不思議の国のアリス』だし、いろいろモチーフになってるのかも。

「どうかした?主」

 そんなことを考えていたら、不審に思ったのかセサミに声をかけられた。

「ちょっと考えごと」

「何考えてたの?」

「内緒」

「え〜?教えてよ」

 余程あたしが何を考えていたのかが気になるらしい。説明する前に一つ確認しておかないと。

「セサミはさ、おとぎ話の知識どれくらいある?」

「おとぎ話って、主が大好きな?」

「そう。そのおとぎ話」

 あたしは幼少期からおとぎ話を愛してやまない。セサミもそれはちゃんと知っているようだ。

「内容はあまり知らないなぁ」

 残念。先におとぎ話を教える必要があるみたいだ。

「じゃあ今度読み聞かせしてあげる」

「うん。約束だよ」

 帰ったら絶対に読み聞かせをしよう。猫に戻ったセサミに理解できるかは置いといて。

「そこのお二人さん!」

 そんな話をしていると、突然背後から声が飛んできた。

「えっ、誰?」

「主、後ろ!」

 セサミに言われて振り向くと、そこには茶色いうさぎの耳が生えた男の子が立っていた。驚くあたしをよそに彼はにこやかに言葉を紡ぐ。

「やぁ、僕はラウビィ。君達どこ行くの?」

「どこに行くかは決まってないの。とりあえず黄色い道を歩いているところ。あなたは?」

 初対面の相手とはいえ嘘をつく理由は無い。正直に答え、行き先を尋ねる。

「僕はこれからお茶会に行くんだ」

「お茶会か。楽しそうだね」

「うん……」

 セサミの言葉にラウビィは浮かない顔で答えた。何故だろう。

「どうしたの?」

 聞こうとしたらセサミに先を越された。彼も不思議に思ったらしい。

「実はその、肝心の場所がわからないんだ」

「招待状とか持ってないの?」

 お茶会って言うくらいだから、招待状かそれに準じたものがあるはずだ。

「もちろん持ってるよ。でも、そこに書いてあるのは謎の文字列なんだ」

「謎!?見せて見せて!」

 『謎』という単語にセサミが過剰に反応する。

「いいよ」

 ラウビィは快く招待状を見せてくれた。

 バラで縁取られた紙には『お茶会をするよ。待ってるね。』という短い文章と招待主らしき人の名前、それから時間と場所が記されていた。時間は三時。そして問題の場所が本当に問題になっていた。

 ねうおこにたM。

 意味不明な文字列。こういったものをなんと呼ぶか、あたしにはわかっていた。

「これは――」

「間違いなく暗号だーっ!」

 セサミが歓喜に満ちた様子で叫ぶ。

「セサミ落ち着いて」

 それを宥める目の前で、ラウビィは本当に困った顔で聞いてきた。

「僕にはさっぱりわからなくて。君達にはわかる?」

「うーん……」

 セサミが眉を寄せ首を捻る。あたしも顔には出さないけれど内心同じ状態だった。

「何かヒントは無いの?」

 この文字列だけ見せられても意味がわからない。せめて解き方のヒントが欲しい。

 すると聞き覚えのある声がした。

「呼びました?」

「あ、さっきの」

 妖精さんだ。セサミが招待状を彼女に見せる。

「ねぇ、この暗号解いて!」

 あたしは頭を抱える。あろうことか無関係のこの子に解かせようとするなんて。

「ごめんなさい。私はヒントの妖精なのでヒントしか教えられません」

「そんなことある?」

 思わず口に出してしまった。幸い彼女の耳には届かなかったらしく、何やら顎に手を当てて考える仕草をしている。やがて彼女は答えに辿り着いたらしく顔を上げた。

「そうですねぇ、この暗号を解読するヒントは『変換と逆』です!」

「変換と逆……?」

 この文字列を何かに変換して逆から読め、ということだろうか。

 一番最後の『M』が引っかかる。どうしてこれだけアルファベットなのだろうか。変換すべきは英語か、それとも――

「あっもしかして!」

 そこで閃いたあたしは大きな声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る