第42話 勝機
カロンがコソア村にやって来た少し前のこと――。
「――いいだろう。乗ってやる」
奪ったであろう金品で飾られた玉座に座った、長い髪と冷たい視線が目立つ男、ノルチェボーグは低い声でそう言った。
「ハハッ、マジ?」
カロンはノルチェボーグのアジトに訪れていた。
手を組んで領主ごと、コソア村を潰すことの提案だ。
「最初は1人で来たお前を追い払おうとしたが、面白い話があると言った。だからここに通して話を聞いた。そしたら少し興味が湧いた。だから乗ってやる」
「感謝する」
「(途切れ途切れな喋り方なのが気になるが、まさか手を組んでくれるとはな……)」
「もちろん。相手の頭である領主は、俺の手で潰す。いいな?」
「ああ。攻め方さえ、こちらの指示に従ってもらえれば、あとは好きにしてもらって構わない」
「……そっちのアジトに、使者を送らす。詳しいことはソイツに言って伝えろ」
「分かった」
「(こちらのアジトの位置は知ってるらしいし、向こうから来てくれるならありがたい。正直何考えてるか分からないしな)」
カロンは返事をして、ノルチェボーグのアジトを後にした。
「……」
「――ボ、ボス……? なんですぐに承諾したんですか?」
近くにいた部下が恐る恐る聞いてきた。
「アジトの近くの馬車や人が通る道はほとんど把握し、盗り尽した。そろそろ刺激が欲しかったところだ」
ノルチェボーグは玉座から立ち上がり、剣を腰に提げた。
「――魔法を使う剣士。俺と同じ……。楽しみだ」
そう呟いたノルチェボーグは、ニヤッと口角を上げた。
◇ ◇ ◇
「おいケビルドン。俺と手を組んで新しい領主潰すぞ」
「はぁ? なんでお前と手を組まなきゃいけないんダ! 食っちまうぞテメェ!」
「――ソウダソウダッ!」
「アイツらめっちゃ美味い肉持ってるらしいぞ」
「ヨシッ! 手を組んでヤル!」
「(チョロすぎだろコイツら。何かあった時の為に俺の部隊と1番遠いところに配置しよ)」
「詳しいことは、後で俺の部下が教えに来るから待っとくように」
「――ウッヒャー! 肉肉ゥ!」
「……コイツら、大丈夫か?」
◇ ◇ ◇
「――リンドラ様。言われた通り、ヨボルド様と村の人を集めて参りました」
カズキがいなくなった後、自室で1人になっていたところに、ザカンがやって来た。
その時は、2つの鉄球は机に置いていた。
「……分かった。向かおう。どこだ?」
「屋敷の前に集めさせてます」
「先に行っててくれ。バーンを呼んで一緒に向かう」
「かしこまりました」
俺は2つの鉄球を持っていくのをやめ、ザカンと部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「――かなり集まったな……!」
地下にいたバーンを呼び出し、屋敷を出ると、想定より多くの村人が集まっていて驚いた。
「はっ。全部で52名です」
52!?
「まさか50人も集まるとは……」
「皆さん、領主様に恩返しがしたい。自分たちでこの村を守りたいと。積極的に集まってくれました」
「フッ……」
もう無理に鼓舞しなくてもよさそうだな。
俺は一歩前に出た。
「皆! よく集まってくれた! 聞いた通り、盗賊が手を組んでこの村に攻めてくる!」
皆の視線が集中している時、俺が右腕を突き上げた。
「必ず! 守り抜くぞぉ!!!」
「――おおおおおおっ!!!」
やる気がある村人は、この一言で士気が跳ね上がった。
「よし! 明日からやることを説明する!」
そう言うと、次第に声が小さくなり、皆が聞く姿勢になった。
「明日からは、皆に弓矢の訓練。そして防御壁、監視塔の建設をしてもらう! 半分に分かれ、午前と午後で訓練と建設を交代し、1週間で弓矢を扱えるように。そして戦を有利に進める設備を完成させる!」
ふざけんななどという反論は上がらなかった。
「弓矢に関しては。ここにいるバーンを主軸に、ジャッカルやゾルタックスの部下に教えてもらってくれ! 建設に関しては、まず木材を確保しなければいけないが、きっと今頃、オオヅチが設計図を描いているはずだ。だからオオヅチの指示に従えば、間違いないはずだ! 昼休憩は当然、こまめに休憩はしてくれ! 本番前に怪我されては困るからな! 何か意見はある者は!」
大雑把なスケジュールだが、納得してくれただろうか。
正直過酷な1週間になるだろう。
「――はい! 今までの工事などの仕事はどうしますか!」
1人の青年が挙手して聞いてきた。
「温泉などの工事は一旦止める! 必要最低限のことは、ここにいない者たちでやってもらう! この戦いは、全員で勝ち取るんだ! 他にはいないか!」
「…………」
「ではこれにて解散する! 1週間共に頑張ろう!」
「――はっ!!」
全員が声を揃えて返事し、膝をついた。
俺はその様子を見て、屋敷の中に再び入っていった。
◇ ◇ ◇
「――ただいま戻りました。リンドラ……様?」
ほとんどの家の光が消えている中、ルシアがオンドレラル居住区から帰って来た。
「お、おおっ。お疲れ……どう、だった?」
「何を、しているのですか……?」
ルシアが驚くのも無理はない。
主人の部屋を訪れたら、忠誠を誓う主人が、ガニ股で歯を食いしばっているのだから。
「いやな。少しでも風魔法の鍛錬をしようと、思ってな。この2つの鉄球をっ、風魔法で浮かして、1週間過ごしてみようとぉ、考えたんだ」
「……その格好でですか?」
そんな目でこっちを見るな。
「大丈夫っ。明日には姿勢を正せるぐらいにはなるからな!」
「そ、そうですか。では、報告はまた明日伺うことにします」
ずっと困惑しているルシアは、足芳養で部屋を出ていった。
「――俺だってこんな格好、好きでやってる訳じゃないのに……」
俺は心の中で泣いていた。
だが強くなるためにはしょうがないんだ!
俺は恥じを捨てて、この鍛錬を1週間続けることを決めた。
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