2章 コソア村防衛戦
第37話 危機
「うーん……」
バートゥと話し合った翌日、自室で俺は悩んでいた。
今はみんなの体調管理をスーに任せているけど、ちゃんとした医者を用意した方がいいな。
よくある医院と薬局で分担するイメージ。
「となると、また別の領に訪問するか?」
そこでまたサイハテ領産の干し肉も広められるし。
「はぁ……」
解決しても解決しても、まだまだ問題、課題点がある。
上に立つと大変だ。
城にいる時は、相当甘やかされていたんだな。
「……よし。民からの要望を聞きに行くついでに、少し散歩でもしよう」
深く考えると頭がパンクするので、気分転換に外出することにした。
◇ ◇ ◇
俺は前から話を聞いてほしいと言っていた夫婦に会いに行っていた。
「――なるほど。料理屋を開きたいと?」
「はい! 今は全員家で暮らすことになって、自炊をしています。だけど、自炊だけじゃそのうち物足りなくなる。そこで私が作った料理を食べさせたいのです」
「ほぉ」
「それに、今は自分たちのことで手一杯かもしれないですが、そのうち旅行客や、旅の寄り道としてこの村に立ち寄る人も増えるはずです。領主様のおかけで!」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。だが、そうなると、俺に借金をするということでいいか? 申し訳ないが、すべで無償という訳にはいかないんだ」
最低限の衣食住は整えた。
ここから先は全額負担する訳にはいかない。
「分かりました。い、いつ頃になるでしょうか?」
「もう少しで温泉施設ができるからな。それにできるだけ合わせよう。となると、宿屋も建てる必要があるか」
あー大変だ大変だ。
……でも。
「ありがとうございます。夫婦2人で頑張ります!」
「ありがとうございます領主様」
こういう発言が増えてきたのも成長してるってことかな。
「まあ借金って言っても、本来の半額でいいから。じゃあまた連絡に来る」
「えっ!? ちょっ――」
夫婦が引き留めるのを無視して、俺は次の家に向かった。
◇ ◇ ◇
次は強面の男の家に訪問した。
「――俺はパン屋を経営したいです!」
「パン屋?」
強面とは似合わない要望が出てきて目を見開いた。
「はい! 俺は小さい頃からパンが好きで、若い時はパン修行に行ってました。俺のパンでみんなに美味しいって言わせたいです!」
相当のパン好きなんだな。
廃れていったこの領地ではパン屋を開けなかったのか。
「なるほど。気持ちは十分伝わった。だが、かなり先になるかもしれない……」
「え? なぜですか?」
強面でグッと顔を近づけられるとちょっと怖い。
パンを作りたい。
でも作り続けるためには売ってお金を稼がないといけない。
でも村にはまだ金が出回っていない。
「パン屋を経営するためには、この村で金が出回らないといけない。買う人がいないとダメだからな」
「まあ確かに……」
「できるだけ早く皆の職を見つけるとする。準備ができ次第また連絡に来るから、それまでに必要な設備などをまとめておいてくれ」
俺は1枚の紙とペンを渡し、パン屋は一旦保留するということにした。
「話を聞いてくれてありがとうございます!」
「いいっていいって。何かあったらまた言ってくれ」
90度の綺麗なお辞儀をした強面の男を横目に、次の家に向かおうとした。
その時――。
「――ん?」
突然、背筋が寒くなった気がした。
今日そんな寒いっけ?
そう思いつつ、屋敷から見て南の方向に目を向けていた。
無意識だった。
次に行く家も南の端っこだったな。
俺は自然に早歩きになり、次の家に向かっていった。
◇ ◇ ◇
「――何してるんだお前」
「いや、家が建ったのは嬉しいけど、村の端っこってこともあって、こんなに雑草が生えちまってるから抜いてるんだよ」
「折角の休みなのに草むしりかよ」
リンドラが向かおうとしている家に、1人で住んでいる男が草むしりをしていた。
その友人の男が、その様子を見て話しかけている所だ。
「そっちだって今日休みだろ?」
「まあな。もう少しで昼飯だから、ちょっと散歩だ」
「はぁ……。いいなぁ結婚してる奴は」
「お前も早く結婚しろよ」
「……そのうちな」
男は草むしりをやめ、立ち上がった。
「ん? 終わるのか?」
「ああ。区切りもいいしな。今日はここまでだ」
男は背を伸ばして草むしりを終わらせた。
「にしても、よくここまで持ち直せたよな」
友人は、屋敷の方を見てそう言った。
「ああ。領主様のおかげだ」
男も屋敷を見てそう言った。
「もしかしたら、この村に移住する人が出てくるかもな~」
「そうしたら、俺の家の隣にも新しい家が建てられるかもな……ん?」
男が屋敷と真反対の方を向くと、何かに気づいた。
「ん? どうかしたのか?」
友人も振り返った。
2人が見つめる先に、1人ふらふらと歩いてきている男が目に入った。
「……誰だ?」
男が警戒した声で聞いた。
「見たことない顔だ」
「服もボロボロで、顔もやつれているぞ」
「……おいアンタ! どこの何者だ!」
「お、おいっ!」
友人が大声で謎の男に話しかけた。
「――た、助けて」
2人の耳に、確かに助けてという声が聞こえた。
「だ、大丈夫か!」
友人は駆け寄ろうとする。
「待てよっ。先に領主様に知らせた方がいいだろ」
「でもよぉ。見た感じただのやつれた人間だぜ?」
2人で言い合ってる間に、謎の男がかなりの距離まで近づいてきていた。
「……助けて、くれぇ」
謎の男は近づくのはやめ、その場で膝をついてしまう
「お、おいっ! 大丈夫か!」
思わず友人が駆け寄ろうと一歩踏み出した瞬間――。
「――へ?」
突然、目の前で膝をついていた謎の男の姿が消えた。
男は素っ頓狂な声を上げた瞬間――。
「がっ……」
駆け寄ろうとした友人の体から血が噴き出した。
「え……え?」
理解が追い付かないまま、男の視界は真っ暗になった。
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