第11話 ごちそう
「おい。俺は何をすればいい?」
ジャッカルたちと馬を走らせ、少し離れた場所にある森にやって来た。
「お前に狩りは無理だと思うから、こいつらと木の実とかの採集だな」
ジャッカルはそう言うと、2つのグループに分けた。
狩り担当が、ジャッカル含めた7人。
採集担当が、俺含めた5人。
「まあそこは認めてやる。狩りなんて生まれてこの方やったことがないからな」
「フンッ。練習してもできっこないだろ」
「ねぇ俺の部下だよね? 家臣だよね?」
「よし。じゃあ始めるぞ。私が合図したら集まれ」
「おうっ!!」
「無視すんなー」
男たちは大きな返事をして、狩りや採集を始めた。
「さっ、行きますよ領主様」
採集担当の男にそう言われた俺は、渡された籠を片手に、採集を始めた。
◇ ◇ ◇
「フゥッ! 結構時間かかるな〜」
元盗賊の男は、汗を拭ってそう言った。
小さい林とはいえ、伐採に手間取っていたのだ。
「まあな。でもバーンさんたちが色々採集してから伐採するから、間に休憩できて長時間労働できるぜ」
そばにいた男がそう答えた。
「確かにな。しかし、林をなくしてどうするんだ?」
「切った木は木材に加工して、家を建てるのに使うとか聞いたぞ。場所はどうするか知らねぇけどな」
「ほー。まあ居住区の奴らのために使うだろ。領主様ならよ」
「違いねぇ。だが、その居住区の奴らと仲良くできるか?」
「こんだけ領地のために働いてんだ。きっと大丈夫だろ」
「だといいんだが……」
この作業中も、参加していた居住区の男数人には、よそよそしい対応をされていたのだ。
「おーい! ここ切ってくれ!」
バーンから許可が出たので、男たちは再び伐採を始めた。
◇ ◇ ◇
「――じゃあ領主様。早速木の実や植物を採っていきましょう」
採集担当の中から1人、俺のサポートをしてくれることになった。
「じゃあ教えてくれ色々と」
「では領主様がいいと思ったものを採ってください」
「え? 見分け方とか……」
「美味そうなのは大体いけます!」
野生かお前は。
「じゃあ良さそうなの採ったら確認頼む」
「分かりました!」
もう自分を信じて採集することにした。
「――おっ、この真っ赤な実はどうだ?」
「毒です。味覚がおかしくなります」
「――この植物はどうだ? 葉が大きいが」
「毒です。体が麻痺します」
「――だったらこの白いキノコはどうだ!」
「毒です。幻覚が見えるようになります」
「見る目ねぇな俺!」
俺はキノコを地面に叩きつけた。
「ダメですね領主様は〜。ほらっ、こっち来てください」
男は手招きしたので、近づいて後ろから覗いてみる。
「この実は食べれます」
男がそういうのは、膝ぐらいの高さの植物に
「緑色の実だが食えるのか?」
「今は緑色ですが、ヘタと繋がってる種を取り、茹でると赤くなり、甘く美味しくなります。栄養価も上がりますしねっ」
ヘタごと実を取って見せてくれた。
「へぇー」
熟してないミニトマトみたいだな。
茹でたら本当にミニトマトのようになるんだろうな。
「ん? これって畑で育てることはできるか?」
「畑……。俺たちは農作業の能力には長けてないから分からないです。しかし、やってみる価値はあるんじゃないですかね?」
「だったら、あの林があった場所で、育ててみるのはどうだろうか?」
「ありだと思います。植物が生えていた土地ということは、その土地は生きているということですから」
これで少しでも食料難解決になれるかもしれない。
「他にも育てられそうな植物教えてくれ!」
「おっ、やる気満々ですねぇ。だったらこの根菜どかどうでしょう?」
「どれどれ――」
それから俺は、日が暮れるまで夢中で採集をした。
◇ ◇ ◇
「――あっ! 領主様が帰ってきたぞ!」
採集に夢中になっていたら、すっかり辺りが暗くなってしまった。
それでも居住区の人たちは屋敷の外で待っていてくれていた。
「ただいま戻ったぞ。食料を調達してきた」
「領主様が自ら!?」
人たちは、狩ってきた魔物を見て驚きの声を上げる。
「まあ、俺は採集してただけだけなんだが」
ジャッカルたち狩り担当は、監獄の件で話に出てきた『グレート・モー』を6体も狩ってきていた。
俺たち採集担当は、様々な種類の葉、実、根菜を採ってきていた。
「みんなも腹も減ってるだろうから、食事にしようか!」
林の方を見ると、既に3分の1程の木がなくなっていた。
相当頑張ったんだろう。
この調子なら、明後日までにはできるだろう。
「よし。じゃあ早速食うぞ。料理長を呼んでこい」
ジャッカルはそう言ってきた。
「悪いがウチに料理長はいないぞ」
あと呼んでこいって何だよ。
お前は客か何かか?
「違う。私の部下に、料理が得意な奴がいるんだ。私たちは料理長と呼んでいる」
「お前らって人材揃いすぎじゃない? これがご都合主義ってやつか?」
「呼びましたかボス」
少し小太りの男が人混みをかき分けて出てきた。
「今日のブツだ。全員分いけるか?」
「……いつもより少ないですが、全員分いけますぜ」
「よし。厨房はどこだ。誰か案内してくれ」
「わ、私が案内します!」
ジャッカルがそう言うと、ノアが手を挙げて出てきた。
「……君か。任せたぞ」
ジャッカルは声色を変えて、ノアの頭を撫でた。
多分フードの下は笑顔だろうな。
ってかまだちゃんと顔見たことないな。
「――おい! 何ボーッとしてる。食材を厨房に運べ」
ジャッカルの顔をイメージしてると、ジャッカルが怒鳴ってきた。
「分かってるって。あと俺お前の上司だか――」
「さあ運んだ運んだ! 今日はいつもよりちょっと豪華だぞー!」
「おおおおおっ!!!」
全員が、ジャッカルの言葉で屋敷の中に入っていった。
「……なんかもういいや」
俺もトボトボと最後尾についていった。
◇ ◇ ◇
「よっしゃー始めるぞー!」
厨房に食材を運んだ人たちは、各々の目的のため、厨房をすぐに離れた。
ほとんどが小休憩か、風呂だろうな。
食事の時間になったら戻ってくるだろう。
俺は食事の後で色々話し合おうと思っていたので、厨房に残って料理する様子を見ることにした。
「風呂とかそこら辺の事情はそのうち話すから、今は考えないでくれな!」
「領主様、1人で何言ってるんだ?」
「いや、気にするな料理長。それより、君の料理を見てみたいんだが」
「おうよ大歓迎だ。是非見てってくれ」
料理長はニッと笑ってそう言った。
「しかし、250人分の食事なんて、用意できるのか?」
「俺の仲間が、泥とか汚れ落としたら手伝い来るから大丈夫だ」
「そうか。できれば俺も手伝いたいんだが……」
生まれてこの方料理なんてやったことないからなぁ。
「いいっていいって。何事も、まずは見ないと分からないからな。今日はじっくり見てってくれ」
俺が料理ができないことを、料理長は察してくれた。
「ありがとう。色々勉強させてもらうとする」
「へへっ。じゃあ早速やっていきやすぜ!」
調理器具、調味料の種類が数多くあるので、料理長は楽しそうに材料選びを始める。
「まずは、予め捌いた『グレート・モー』の肉を薄く切っていく」
「どこの部位なんだ?」
「『グレート・モー』の肉は、ほとんどが牛でいうバラ肉でできている。希少部位も少しはあるが、このバラ肉を使えば、全員分の食事が間に合うんだ」
牛のバラ肉。
牛丼とか焼肉のカルビ肉で使われてる部位か。
「筋は多いが、牛と違って、一晩冷やさなくても薄く切りやすい」
慣れた手つきで、ブロック状のバラ肉を薄く切っていく。
「とりあえず1人分切り終えたから、これを塩・こしょうして、小麦粉でまぶす」
小麦粉があるのか。
ということは小麦がある。
パンとかも食えるのかな?
「そしたら肉は置いといて、領主様が採ってきた『マットマ』の調理に移る」
マットマって言うんだアレ。
「マットマはヘタを取ると、一緒に種が取れる。そしたら実の方を軽く茹でる。分かりやすく赤くなるからそれが目印だな」
「あっ、その種捨てないでくれないか。後で使いたいんだ」
畑に植えるつもりだからな。
「分かった。こっちでまとめとく。っと! もう赤くなったから、空き皿に移しておく。そしたらニンニクと『タマオニ』を薄く切る」
タマオニという、見るからに玉ねぎのような根菜と、ニンニクを切り始めた。
どうやら、俺が知ってる野菜や植物と、この世界にしかない野菜や植物が混在しているようだ。
「そしたらフライパンにオリーブオイルを熱して、そこにニンニクを入れて炒める」
ジュワッと音を立て、ニンニクの香ばしい香りが漂う。
「そこにタマオニ、バラ肉を入れてさらに炒める」
フライパンで炒められている食材たちを見て、俺は唾をゴクリと飲んだ。
「……よし。ここにマットマ、塩・こしょう、俺が魔物から取った出汁を粉状にしたスパイスを入れ、さっと炒め合わせれば!」
「おおっ!」
フライパンに乗った料理を、料理長がさらに移し、俺に差し出した。
「『グレート・モーとマットマのニンニク炒め』の完成だ!」
グレート・モーの肉が皿を圧倒的に占める中、マットマの鮮やかな赤色が、皿を彩っている。
さらにニンニクの香ばしい香りも食欲を後押しする。
「おぉ……」
思わず涎を垂らしてしまう。
「おっと。まだ食べちゃダメだぜ。1人で食うよりみんなで食べたほうが美味しいからな!」
「そ、そうだなっ。だが、冷めてしまうんじゃないか?」
「ハッ。このグレート・モーの肉はな、丸一日熱を保ってくれるんだぜ。いつでもアツアツの肉を食べれるってことよ」
魔物は凄いと、今日1日で痛感した。
多少ご都合主義な気もするけど……。
「――料理長、手伝いに来たぞ~!」
タイミング良く、ゾロゾロと人が集まり始めた。
「全員分の料理ができたらまた呼ぶからよ。領主様も風呂に行ってきな」
料理長は風呂に入ることを促した。
「そうさせてもらう。また機会があればいろいろ教えてほしい」
「いいってことよ!」
「ありがとう。では食事を楽しみに、風呂に入ってくるとしよう」
「ちゃんと浸かってこいよー!」
料理長の声を背に、俺は風呂場へ向かった。
「……あれ? いつからグルメ系の話になったんだ?」
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