第5話-2 二重瞼

それはそうと、人の気持ちがわかる妖怪がいるらしいよね。あ、違った。人の心を読む妖怪か。

昔からさ、思ってることを口にしなくてもこう言われると恐いって思うこと、ない?


「あなた、今こう思ってるでしょ」


顔に出てるだけかもしれないね。でもそれだけじゃ言い表せないもっと具体的なことまで言い当てちゃう。そういう妖怪がいるらしいじゃありませんか。

昔も昔、遡って遡って平安京より遡って、もっともっと大昔からその妖怪はいるんだと思う。何でって? だって人がいれば人の心を読む妖怪がいてもおかしくないでしょ?

人が存在し始めた時からその妖怪はきっといたんだよ。


考えを言葉として伝える。言語化したコミュニケーションっていうのかな。そこにはいつだって壁がある。言葉にできない。単語が見つからない。そんなのよくあることでしょ。

うまく伝えられない。逆にうまく伝わってこない。それでいいんだよ。

100%の意思疏通なんて期待しちゃいけない。だってあなたは私じゃないし、私はあなたじゃないんだからさ。この世界にいるのは同じ人間じゃないの。たくさんの違う人間なんだから、伝わらないことがあっていいんだよ。

全部が伝わっちゃったら、ほら、それこそその妖怪だらけになっちゃう。

人は誰だって秘密を持っていたい。知られたくないこと、もしかしたら本人でさえも気づいてないこと。そんなものを心の何処かに隠してる。心の何処かに埋めている。

秘密は秘密のままで眠らせたい。そのためには思い出さないことが効果的。沈めて埋めて目をそらす。そうしていれば、いつの間にかそんなことがあったことさえ忘れるよ。

秘密を無理矢理掘り起こすのは、例えばお墓を掘り起こすのと同じに思える。必要なら掘るよ。でも無意味に掘り荒らすのは苦痛でしかない。

何が言いたいのかって、心を読む妖怪もそうだと思うんだ。心なんて見えるものじゃない。なら読めるはずなんてないよね。

無理矢理心を暴いてるんだよ、その妖怪。見せたくないものまで暴かれるから人は恐怖する。

見られるだけじゃない。あなたはこうだって、暴いたものをこっちに見せてくる。

ああ、ほんとに嫌イヤ。

でも悪くないよ、その妖怪。だってそれは妖怪であって、人じゃないんだもん。人の気持ちが解らなくて当たり前でしょ。

「それ」はそういうものなの。そういう存在。だから恐怖してあげてね。その妖怪は全然悪くないんだから。




さてさて、私が思いますにその妖怪の姿は人の形をしていると思います。いや、見たことありませんよ? 会ったこともありませんって。

そんなにほいほい遭遇してたら大問題だね。だって人はその妖怪のことを恐れて嫌っているもの。

それと遭遇しないように居場所を把握して、避けようとする。それだけその妖怪の「心を読む」ってことに恐れを抱いている。

でもそんなニュース聴かないでしょ? 妖怪は有名にはなっても大事にはならない。目立たないの。

人があって妖怪がある。妖怪が主役の世界じゃないんだよ、この世の中は。

だから私が言うそれの姿は想像でしかない。どこまで当たってるかな。

ねえ、どうでしょう? 正解? 不正解?


まずはね、その妖怪は人の姿をしている。していてほしいと思う。

それは人に化けているんだ。本当は人間じゃないくせに、人の皮を被って上手に紛れ込む。

人が恐れる理由の一つにこれがあるんだと思う。誰かわからないけど誰かに見られている。見張られているんじゃなくて、見透かされてる。内面を、覗き込まれている。

それはきっと獣では感じない。人の姿に化けているからこそ恐れるんだ。同じ人間に見られているということが距離を近くする。

誰かに本心を言い当てられるとドキリとするでしょ? 人に言われたから、え、って思うんだよ。

それは鏡写しの人の姿じゃない。全くの別人。他人。知らない人。そんな皮を被った化け物がその妖怪だって、私は思ってる。


その妖怪は特別な能力を持っている際立った存在じゃないと私は思う。妖怪の界隈なんて知りません。強い弱いとか、妖怪に必要なんですか。とにかくその妖怪に人間は恐れを抱く。それで十分じゃない。

特別な能力を持っていないと言っても、それの特徴はある。心を読むっていう特徴。それがその妖怪の特徴であり、存在意義だと思う。

読む心が無くなった時、それは消えてしまうんだと思う。だから、人が心を持つ限りその妖怪とは付き合い続けることになるんだろうな。


その妖怪はきっと見分けがつかない。それだけ上手く化ける。上手く化けられる器用さがあるのと、人間をよく観察しているからそっくりに化けられるんだと思う。

もし、それが人の姿をしているんだったら、ね。

だからそれをそれだと判断するには目を見るしかない。その妖怪は目で私たちの中を覗き込むの。だからきっと目だけがどこか人と違うはず。

でも目だけは見ちゃいけない。だってそれは目で私たちを見るんだから。こっちを見ている目を見ちゃいけないよ。目と目を合わせちゃいけない。

だからそれが本当に心を読む妖怪なのか、判断できるのは心を読まれた人だけ。

私だったら嫌だな。だからその妖怪の姿は全部想像でしか言ってません。







ちょっと思うんだ。

それが本物の人の皮を被っているなら誰の皮なんだろうって。

誰の皮でもないかもしれない。でも、もしも、だよ。生きていた人の皮だったら。死体の皮を剥いできたの? それとも。







化けの皮を剥ぐって言うけどさ、化けたモノの皮は剥ぐべきじゃないのかもね。それが自分から皮を脱ぐまでは。




あれ? 信じてないね?

いいよ。信じなくていいよ。あのね、こういうのは信じるか信じないかじゃなくて、こわいかこわくないかなの。

そういう妖怪がいるかいないかじゃなくて、そういう対象に対してどう思うか、何を感じるか。

心を読む存在なんて恐いし怖いし、何より嫌。もしいたらね。


妖怪なんてモノはそんな風に生まれてきたものばかりだよ。こうだったら恐い、ああだったら怖い。そういう想像が形を持って「妖怪」になるんだ。

おわかりかな? そこのキミ。




で、いきなりこんな話をしたのには理由があります。ここからが本題になるんだけどさ、自分でも信じられないんだよね。







あのさ、街の中にそういう妖怪っていたりすると思う?

いや、妖怪に限ったことじゃなくて、不思議なことが、かな。

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