第17話  怯える大森くん

「智充〜、大変なことが分かっちまったんだよ〜!」


 学校前で死亡事故に巻き込まれることになった五島さんだけど・・


「五島さんの所持品の中から、結束バンドとか、非合法のドラッグとか、そういうのが出てきたらしくって、警察も坂本くんを拉致したのは五島さんじゃないかってことで調べ始めているらしくって、俺も、またまた警察で事情聴取を受けることになっちまったんだよー!」


 どうやら大森くん、昨日、大学に来なかったのは警察に呼ばれていたかららしい。


「どうやら角田くんが飲まされたのも、五島さんが持っていたモノだったらしくって、俺ったら五島さんと予備校が一緒だったし、一緒にバーベキューをしているもんだから、ドラッグ仲間じゃないかって疑われることになっちゃったんだよ〜!」


 何でも大森くん、病院に行って血液検査を受けることになったらしいし、尿まで採取されたらしい。結果は陰性だったけど、

「俺がドラッグやるわけないだろ〜!冗談じゃないよ〜!」

 と、怒っている。


 なにしろ、あんな山の中に居る坂本くんをピンポイントで発見している時点で、やっぱりおかしい、五島さんとグルになって坂本くんに薬を盛ってあの山の中に遺棄したんじゃないかって疑われたんだけど、

「坂本くんが意識を取り戻して、警察の事情聴取に応じられるようになったから良かったけど、それまでは俺、犯罪者みたいな扱い方されたんだって!」

 大森くん、怒りでブルブル震えている。


 坂本くんは五島さんと同じ高校で、大学に入る前から交際を続けていたんだけど、彼女が売春をやっていることは知っていたし、ドラッグに手を出しているのも知っていたらしい。


「あの時は、僕以外の男に色目遣っているのに腹立って、それで彼女を問い詰めたらサービスしてあげるって山の方に移動することになって・・・」

 性に奔放な五島さんは、野外で行うのも好きな人だった為、坂本くんは喜んでついて行ったら、どうやら五島さんから貰ったドリンクに薬が入っていたようで酩酊、その後、山中に放置ということになったらしい。


「ば・・売春!うちの娘が売春だなんて!」

 五島さんのお母さんは、発狂するんじゃないかっていうほど驚いたらしい。

 可愛い娘が車の事故で亡くなったばかりだというのに、次々出てくる情報は信じられないようなものばかり。


 警察は五島さんの自宅の捜査もしたみたいなんだけど、本当に何も出てこなくて、

「お母さん、お嬢さんの部屋は、まるで明日にでも自殺をしようと考えている人のように整理されていますよ」

 と、警察の人に言われるほど、何もない部屋だったらしい。


 確かに洋服や下着、筆記用具、学校の教材は置かれているけれど、卒業文集、アルバム、写真関係の一切合切が置かれておらず、

「普通、生活を感じる何かが置かれているはずなんです。ですが、お嬢さんの部屋には何もない。生活を感じるものが洋服程度しかないんですよ」

 と、警察の人は言い出した。


 部屋には何も置かれていないとしても、彼女のバッグの中には彼女を象徴するようなものが入っていた。その中でも重要なアイテムであるスマートフォン、その中の交信履歴を確認すれば、売春についてはすぐに判明することになったらしい。


 違法薬物摂取、売春行為、その他にも何か犯罪を犯していたかもしれないけれど、被疑者死亡で立件せず。


「警察の人曰く、別に特別なことじゃない。最近では良くあることなんだって言うんだよね」

 大森くんは僕の腕にしがみつきながら言い出した。


「売春とか、ドラッグとか、巷に溢れかえっているとか、同級生がそういうこともやっていましたとか。渡辺さんが前に堕胎した時の傷の治療で入院が長引いているとか、中島くんがようやっと目を覚ましたとか、そんなの関係なくだよ?俺、もしかして祟られてる?ねえ?智充、俺って祟られているかな?」


 僕は大森くんの肩に乗っかるおじいちゃんの霊が訴えることを伝えてあげたよ。


「大森くん、祟りとか呪いとか、そんなことを考える前に、まずはやるべき事があるんじゃないの?」

「え?なに?お祓いとか?」


「そうじゃないよ、大森くん。今こそ、連絡する時なんじゃないの?」

「え?誰に?誰に連絡すればいいの?有名な霊媒師とかいるの?教えて!教えて!」


「そうじゃないよ、大森くん。そもそも、君は、なんでバーベキューに参加したわけ?予備校で気になった中野さんと仲良くなりたくて、バーベキューに参加したんじゃないの?」


 ハッと我に返った大森くんは、急にモジモジしながら言い出した。


「いや・・そんな・・俺が急に連絡とか・・そんなん・・どう思われるかも分からんし」

「今はまさに緊急事態でしょ。最恐の心霊スポットの一つである花魁淵に行って、三人入院、一人は死亡事故。これはもう、みんなで神社にお参りに行かないと落ち着かないんじゃないかなって言ってさ」

「俺が単独で・・中野さんを・・」


 顔を真っ赤にしてブルブル震える大森くんはウブ過ぎる。


「角田くんと、松崎さんを誘ってもいいんじゃない?中野さんは松崎さんと仲が良いみたいだし、角田くんは松崎さんが好きなんでしょう?ダブルデートで神社に行くってのも全然アリだし、玉津神社だったら狛犬の代わりがウサちゃんだし、女性ウケも良いと思うけど?」


「そ・・そうか・・そこで、霊験あらたかな玉津神社の出番か・・そもそも、あそこには一回行って、厄払いのお守りを買うつもりでいたわけだし・・」


 ブツブツ言っていた大森くんは、その後、ラインでメッセージを送っていたみたいだけど、角田くんはノリノリで話に乗ってきたらしい。ホラースポット大嫌いな松崎さんと中野さんも、霊験あらたかな神社には是非、お参りに行ってみたいと言い出したみたいなんだけど・・・

「松崎さんと中野さん、どうせだったら智充も誘おうとか言い出しているんだけど・・」

 と、大森くんが言い出した時には、断固拒否することにした。


 正直に言って、もう、本当に関わりたくないと思っていたからだ。

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