第13話 鬼の所在
僕の恋人になる男鹿麻衣ちゃんは僕と同じ年になるんだけど、お母さんの方のおばあちゃんの妹さんの孫が麻衣ちゃんってことになるんだよね。
「智充くん!体調崩してバーベキュー行けなくて、本当にごめんね!」
色々なことが本当に嫌になっちゃった僕は、家に帰らずに麻衣ちゃんが住む、学生の利用も多いアパートにお邪魔したんだけど、狭い玄関で出迎えた麻衣ちゃんの後ろの方を見て、ゴクリと生唾を飲み込んだってわけ。
「ご飯食べた?カレーだったらあるよ?食べる?」
「うん・・食べたい・・」
靴を三足は並べておけないだろうという玄関スペースで靴を脱ぐと、右手が風呂とトイレ、左手が狭いキッチン、その奥には彼女の城であるワンルームの部屋となっており、手狭な空間をお洒落に揃えた麻衣ちゃんの部屋へと上がり込むことになったってわけ。
「なんか、バーベキュー、大変なことになったみたいだね」
「本当に・・大変だったよ」
坂本くんは無事に病院に搬送されたんだけど、僕らは警察に事情聴取をされることになったんだよね。警察は僕らが坂本くんを誘拐したとは思っていないみたいだけど、なんていうか・・とにもかくにも、よく見つけられたなって非常に驚かれることになったんだ。
だけど、あそこで助けないとかなり厳しい状況だったみたいで、坂本くんの家族からは物凄く感謝されることになったんだよね。
昨日の車の事故で、八王子まで迎えに来ることになった大森くんのお父さんは、今日もまた、車で大森くんを迎えに来たんだけど、
「お前・・本当に・・」
怒って良いんだか、褒めたら良いんだか。どうしたら良いんだろうって感じで、大森くんのお父さんはイライラしていたってわけ。連日の八王子までのお迎えで、お父さんは流石に怒り心頭となっていたわけなんだけど、
「大森くんのお陰でうちの息子は助かったんです!」
と、坂本くんのご両親に言われれば、
「いえ、うちの息子が役に立って良かったですよ!」
と、言うしかないよね。
昨日、バーベキューの帰りに事故に遭って、一緒に病院に移動したはずの坂本くんの姿が見えなくなって、そんな坂本くんを心配した大森くんは、事故で入院した友人のお見舞いついでに、居なくなった坂本くんを探しに山の中へ・・
「なんで山の中に入ったの?」
と、警察に質問された大森くんは、
「なんだか、山の方が凄く気になったんです」
と、言うに留めたってわけさ。
発見者である大森くんは、昨日、病院まで迎えに来たお父さんの車で帰っているのは確認されているし、僕はそもそも、バーベキューは一緒にしていたとしても、大森くんたちとは別に帰っているからね。坂本くんを発見した僕らだけど、僕らが彼を、自作自演という感じであの場所に遺棄するのは難しいだろうって話になったみたい。
そんな訳で、大森くんのお父さんが運転する車で帰って来た僕は、そのまま家には帰らずに電車で麻衣ちゃんが住むアパートへ移動。なんだか無性に麻衣ちゃんに会いたくなったんだけど、会ってみて気が付いたんだよね。
彼女の後ろには、うちのおばあちゃん並みの強烈な鬼のお面が憑いているってことにさ。
「本当にバーベキューに行きたいなって思っていたんだけど、頭が凄く痛くなっちゃって、その後には熱まで出ちゃって・・」
せっかく誘ってもらったのに、ドタキャン状態になったことを麻衣ちゃんは物凄く気にしているみたい。
だけど、気にしなくて良いんだよ。
麻衣ちゃんが具合が悪くなったのは、後に憑いているお面の所為なんだからさ。危険なことがあると察知した鬼のお面が、麻衣ちゃんが行かないように作用したのに違いない。
この鬼のお面は物凄く強力で、僕の周りに渦を巻いていた良くわからないものが、あっという間に消えていく。そうすると、左肩に憑いている鳥の足のようなものが良く見えるようになったんだけど、僕はこの鳥の足については無視することに決めているのだ。
「今は頭、痛くないの?」
「今は大丈夫」
麻衣ちゃんはホッとため息を吐き出しながら言い出した。
「それでも、まだちょっとだけ痛みが残っているような感じなの」
「引越しとか入学準備とかで疲れているんだよ」
僕は麻衣ちゃんお手製のカレーを食べながら言い出した。
「今は無理する必要は何もないんだからさ」
僕が強烈に麻衣ちゃんに会いたくなったのは、無意識のうちに彼女の鬼の力を借りようとしていたからかもしれない。
うちのおばあちゃんは秋田市に住んでいるんだけど、おばあちゃんの親族である麻衣ちゃんも秋田市に住んでいる。だけど、麻衣ちゃんのおじいちゃんおばあちゃんは、秋田の男鹿半島に住んでいる。
秋田の男鹿半島と言えば、行ったことない僕でも知っているよ。男鹿と言えば『ナマハゲ』発祥の地であり、ナマハゲって言えば鬼だよ鬼!
「 送気時多少
垂陰復短長
如何此一物
擅美九春場 」
玉津神社に行った時に、平城天皇の五言律詩、そんな昔から続く謂れのあるものが僕の身近に居るから大丈夫って言われていたんだけど、この後ろの鬼のお面様は、それだけ昔から続く関係者ってことですか?
「・・・・」
僕は麻衣ちゃんの後ろに居る鬼のお面を見つめた。
お母さんの鬼のお面も、おばあちゃんの鬼のお面も、感情豊かに表情を変えるんだけど、麻衣ちゃんの鬼のお面はクールな感じで、全然表情が変わらない。
「智充くん、福神漬けのせておくね!」
「麻衣ちゃんありがとう!」
僕は自分の左肩に乗る鳥の足と同じように、麻衣ちゃんの後ろに居る鬼のお面を気にするのはやめることにした。
僕たちは高校を卒業して大学生になり、きちんと交際をしているんだから、僕のお泊まりだって十分にアリだとは思うんだけど・・カレーを食べて、久しぶりにゆっくりと麻衣ちゃんとお喋りをした僕は、自分の家に帰ることにした。
鬼のお面が、早く帰れって感じで睨みつけて来るので、僕はスゴスゴと帰ることを選んだけど、もしもチャンネルが開いていなければ鬼のお面なんか見えないんだから、確実にお泊まりしたんだろうなぁ。
「くそっ・・・」
終電間際の電車に乗った僕は、電車のドアにもたれかかりながら外を眺めていたんだけど、京浜東北線の窓に、女が映ったような気がしたんだよね。それもメガネをかけたおかっぱの巨乳・・・
「・・・!」
後ろを振り返ったけれど、おかっぱ巨乳が立っているわけもなくて、疲れ果てた会社員の方々が無言でスマートフォンをいじっている姿が視界に入る。
坂本くんにあんなことをしたのは、多分、五島さんだとは思うんだけど、想像の範囲を超えない話なので、僕らは五島さんについては警察に何も伝えていない。
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