第9話   関わりたくないんだけど

 大森くんたちが通っていた予備校には一浪した角田くんという人も通っていた訳だけど、この度、無事に国立大に合格したって言うんだよね。


 それで、せっかく大学にも合格したし、予備校で『あの子可愛い!』と言われていた松崎さんと中野さんを誘って、バーベキューをしようって話になった訳だ。


 角田くんの為に企画されたバーベキューだったはずなのに、具合が悪くなったとかで、急遽、車の免許を持っている僕にお呼びが掛かったっていうことになるんだけど・・


「だったら、角田くんが病気で来られない時点で、クソみたいなバーベキューは中止しろって僕だったら思うけどね」

「クソとか言うなよ、酷すぎない?」

「いや、だって普通は中止にするだろう?」


 もしくは、人数を絞って今回は開催して、後日、角田くんも含めてやりましょうとかね?


「そもそも、僕を誘うように言い出したのが五島さんだったんだっけ?」

「そうだよ、智充は免許を持っているから声をかけてみようって」


 なんで僕が免許を持っていることを知ってんだよ、って、うちのお母さんが言ったのか。何でうちのお母さん、五島さんの母と繋がっているんだろう?マジでやめて欲しいんだけど。


「杉山くんは車に轢かれて入院、坂本くんは行方不明、そんな状態で俺はどうすれば良いんだと思う?」

 いや、マジで、何もすんなよ。


 そう僕は思っていたんだけど、チャンネルが開いた僕には、大森くんの後ろに居る坂本くんの生き霊が、さっきから口をパクパク動かしていることには気が付いていたんだ。


『か』『く』『た』


 ひたすら坂本くんの生き霊は、大森くんの後ろで角田くんを主張しているんだよね。うう〜嫌だ〜、チャンネルさえ開いていなければ、完全にスルー出来る案件だったのに!途中退場となった角田くんが、その後、どうなったのか、ぼくは気になって気になって仕方なくなってきた。


「それじゃあ、まずは角田くんがどうなったのか確認しようか」

「え?」

「大森くん、ラインで繋がっているんでしょう?とりあえず、ラインを送ってみたらどう?バーベキュー行ったけど散々だったよとか、お前は元気かーとか、そんなメッセージを送ってみて、どんな返信が来るが待ってみようよ」

「わ・・わかった!」


 大森くんはカレーの皿を横にどけると、スマートフォンにメッセージを打ち出した。


「そもそものところ、角田くんが好きな松崎さんをわざと怯えさせて、後から角田くんにフォローをさせるために、わざわざ、最恐の心霊スポットである花魁淵にまで行ったんだよね?」


「そうなんだよ、ホラースポットに行ったみたいだけど大丈夫?みたいな感じで交流を持てるように考えたみたいだけど、手が込み過ぎているっていうか、なんでそんなことすんのって感じではあるんだけど」


「花魁淵をわざわざ選んだのは誰なんだろう?」

「杉山くんと五島さんと坂本くんは、完全に分かった上で、あそこまで連れて行ったって感じだけどね」

「渡辺さんはどうだったの?」

「渡辺さんは俺と同じって感じに見えたけど」

「同じって?」

「訳わかんないうちに心霊スポットまで来ちゃったけど、ノリに合わせてとりあえず場の雰囲気が悪くならないようにしておこうみたいな」

「ふーん」


 人が大勢出入りする学食で、僕はなぜ、大森くんなんかと向かい合って座っているのだろうか。それは何故かと言うのなら、大森くんの後ろに居る坂本くんの生き霊が、じーっと僕を見つめてくるし、大森くんの肩に乗っているおじいちゃんが、すみません、お願いします、みたいな感じで僕を拝み倒しているからだ。


 ああ、チャンネルさえ開いていなければ、こんな霊現象、マルっと無視することが出来たのに。


 坂本くんの手がニューッと伸びて大森くんのスマートフォンをとらえると、発信音と共にメッセージが届いたことが知らされる。飛びつくようにスマートフォンを手に取った大森くんは、

「やべ、角田くんも入院しているみたいだよ」

 と、言い出した。



 国立大に無事に入学した角田くんだけど、入学直後に入院とは、可哀想というか何というか・・

「とりあえず一緒に見舞いに行ってくんないかな!」

 と、あんまり必死に大森くんが言い出すものだから、人の良い僕はとりあえず大森くんに付き合うことにしたってわけだ。


 角田くんは赤羽にある病院に入院中ってことで、京浜東北線に乗った僕らは赤羽駅で下車して、駅からちょっと離れた場所にある病院に向かうことになったってわけ。


 総合病院といいながらも、建物としては比較的小さい病院の内科病棟に角田くんは入院しているそうなので、僕らは彼が入院している大部屋へと向かったんだけど、明らかに刑事?っていう人と、制服を着ている警察官の人と廊下ですれ違ったので、思わずドキッとした訳だよ。


「あ・・あ・・あれって警察の人だったよね?」

 廊下の隅に引っ張って行った大森くんが僕に囁くように問いかけて来たので、僕は大きく頷いた。

「交通事故に遭った人が病院に入院したとして、24時間以内に死亡した場合は、警察が遺体の確認の為に来ることになっているんだよ」


 僕も小学四年の時に入院していた脳外科に、明らかに警察って感じの人がやって来て驚いたことがあるんだよね。そしたら君島さんが教えてくれたんだよ。交通事故で24時間以内に死んだら、警察を呼ばなくちゃなんないんだってさ!


「お前、詳しくない?」

「いや、だって僕、小四の時に入院したことあるから」

「そ・・それじゃあ・・まさか・・」


 警察の人が来た=角田くん死亡の図式が出来上がったのかな?大森くんは真っ青な顔でフラフラしながら廊下を歩き出したんだよね。


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