第2話  五島さんと再会する

 僕は大学の入学が決定したのと同時に貯金を叩いて車の免許を取得したのは、麻衣ちゃんとドライブに行きたかったから。ただそれだけだ。


 今まで麻衣ちゃんの引っ越しとか、入学準備とかで忙しくて、ドライブが出来ていなかったんだけど、そのドライブデビューがバーベキュー。大森くんが集めたメンバーがどんな人たちなのかは分からないけれど、せっかく大学生になったんだし、せっかくだから行ってみるか!と思って僕は張り切ったわけだけれど・・


「智充くん・・ごめん・・私、行けそうにない・・」

 と、朝になって麻衣ちゃんから連絡があったんだよね。

「昨日の夜から熱が出ちゃって・・本当はすっごく行きたかったんだけど・・」

「そ・・それじゃあ僕もバーベキューはキャンセルするよ!」

「駄目だよ!車出す人が居なくなっちゃうでしょう?」


 とっても優しい麻衣ちゃんは・・

「昨日は三八度まで上がったんだけど、今は七度まで下がっているから、これから病院に行って来ようかと思っているし」 

「僕が病院まで連れて行ってあげるよ」

「ううん、大丈夫。智充くんはとにかく楽しんで来て!」

 と言い出したわけだよ。


 予定通り、僕は大森くんを迎えに行ったわけだけれど、

「あれ?彼女さんは?」

 車の中をキョロキョロと覗きこむ大森くんを見て、思わず殺意が芽生えたよね。

「昨日から熱出しちゃって、今日のバーベキューはキャンセルすることになっちゃったんだよ」


「ああ〜、受験疲れとか入学準備の疲れとか、出ちゃったのかな〜」

「大森くん、君んちにも車があるよね」

「え?」


 そう、僕の家とは違って大森くんの家は戸建ての家だから、玄関横にある駐車場には立派な車が一台、置いてあったんだよね。


「大森くんが車出せば、何の問題もないんじゃないの?」

「いやいやいや!俺!車の免許持ってないもん!」


 大森くんは助手席に乗り込みながら言い出した。

「この前、ようやっと大学受験が終わったって言うのに、ここまでスピーディーに車の免許なんか取れないって!」

「僕は持っているけど?」

「行動力の違いじゃない?」


 大森くんは後ろの席に自分のカバンを置きながら言い出した。

「智充ってすげー行動力あるじゃん。周りの意見なんかに左右されないって言うかさ、そこは俺、尊敬しているところなんだよね」

「褒めても許さないから」

「え?何を?」


 なんかこのバーベキュー、嫌な予感がするんだよな〜。

 何を許さないの?何?何?みたいな大森くんを無視した僕は車を走らせた。

 なんでも今日のバーベキューは、大森くんが予備校に通っている時に知り合った子たちで集まるらしく、大学とかはみんなバラバラなんだってさ。


 だから、駅で女の子二人をピックアップしたら、現地集合という形で、奥多摩で合流することになっているらしい。


 一人は中野新橋駅、もう一人は花小金井駅でピックアップして、そこからは新青梅街道を一直線で進んでいく感じ。高速なんかは使わないで2時間ちょっとという感じかな、途中でコンビニに寄ると、運転手である僕のために珈琲とか飴とか買ってくれる辺りに、参加女子たちの気遣いを感じるよ。


 昔は奥多摩ってそんなに人も来ないし、閑散としたイメージがあったんだけど、コロナ禍があってから遠出をせずに近場で楽しもうっていう人が多くなったんだよね。結果、都心に住む人が多く訪れるようになった関係で、一気に観光地化が進んだらしい。


 外に居る分にはウィルスも大丈夫、みたいなことでキャンプブームが到来したわけだけど、ガチにテント泊をして楽しむっていうよりも、日帰りで手軽に楽しもうという人が多く訪れるのが奥多摩なんだ。


 秋川渓流沿いにある、洒落たカフェ風の釣り堀が現地集合の場所で、

「みんな!集まった?」

「今日はよろしく!」

 一人男が欠席した穴埋めに僕が呼ばれたわけだけれど、熱で麻衣ちゃんが来られなくなっちゃった為に、4対4という形の合コン形式でバーベキューは始まってしまったわけだ。


「大森くんの友達の人だよね?」

「急に車出してもらっちゃってごめんね!」

「でも、本当に助かったよー!」


 僕は予備校に行っていないので、顔を合わせる人はみんな初対面なんだけど、非常に気さくに声を掛けてくれる。


「真山くんだぁ、久しぶり〜」


 おかっぱ眼鏡の巨乳が突然声を掛けてきたんだけど、誰?僕はこんな人、知らないんだけど?

「智充!五島さんだよ!忘れちゃった?」

「はああ?」


 僕はおかっぱ眼鏡(巨乳)を改めて見下ろした。

「五島莉奈ちゃんだよ、中三の時に同じクラスだっただろ?」

「ええええ?」


 五島莉奈といえば、僕が幽霊が見えるという話を小宮くんから聞いて、面白おかしく膨らませまくった末に、完全なるイジメの構図にまで導いた奴のことだよね?確か、元読者モデルで、クラスのイケてるグループに参加していて、後半大人しかったけど、華やかなイメージの子だと思ったんだけども・・


「真山くん、今日は宜しくね〜」


 イメージチェンジしておかっぱ眼鏡(巨乳)へと変貌した五島さんは、あっさりとそう言って、女子グループの方へと行ってしまった。


 僕はあの時、五島さんの悪意によってクラスからイジメを受けることになってしまったわけだけれども、そんなことは、当の本人には全く関係ないって感じなのね。


「あ・・ごめん・・智充、もしかして五島さんのこと嫌いだった?」

 大森くんのデリカシーのないことよ。

「え?もしかして、莉奈と友達だったの?」


 もう一台の車を運転して来たという杉山くんが僕に声を掛けてくる。杉山くんも僕と同じで、試験を合格した直後にすぐさま運転免許を取得したそうで、今日はお兄さんの車を借りて来たっていうんだよね。


「ええーっと、中三の時に同じクラスだったってだけです」

 莉奈呼びってことは、杉山くんは五島さんの彼氏かなんかなのかな?

「ねえ!釣った魚はその場で焼いて食べられるんだって!早くみんなで魚を釣ろうよー!」


 はしゃぐ女子たちの方を見ながら僕は思ったよ。

 大森くんの口車になんか乗らなきゃ良かったなってさ。

 

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