第12話  厨二病、チャンネルを閉じる

「真山くんってマジで気持ち悪―い!匂いとかも偶に臭いし、近くに来て欲しくない〜」


 女子の『臭い』発言って男子の心を抉る行為だと思うんだけど、実際問題、僕が臭いのかどうかなんて分かったもんじゃないよね。


 ケラケラ笑う野島さんを見た僕は、彼女の後ろの方を眺めながらこう言ってやったよ。

「野島さん、臭いと感じるのは、君のお父さんが会社の若い子と不倫していて、君とか君のお母さんに死んで欲しいって思っているからじゃないかな」 


 野島さんの後ろには若い女の人の生き霊が憑いているんだよね。

「智充、お前、何言ってんの?」

 近くの男子が怯えながら問いかけて来たんだけど、僕は肩をすくめて言ってやったよ。


「野島さんって僕のことを気持ち悪いとか臭いとか言っているんだけど、それって生き霊に取り憑かれているからなんだよね」


「嘘でしょう!嘘!嘘!」

 パニックになる野島さんの方を見て、僕は極めて冷静に言ってやったよ。


「お父さんに不倫について質問してみなよ。髪の毛は肩下までの長さで、目は一重、名前は〜・・『あいか』だって。よっぽどお父さんと一緒になりたいみたい。生き霊になるほどだから、何とかしたほうがお互いの為にも良いと思うよ」


 僕の『あいか』発言で、

「「「キャーーーーッ!」」」

 周りの女子がパニックになる中、五島さんが前に一歩出て文句を言い出した。


「気持ち悪いこと言ってないでよ!本当に真山くんキショイ!」

 おお〜、真打登場。

 五島さんって昔は読者モデルをしていたとか、クラスで一番可愛いとか言われてはいるんだけど、結構エゲツナイ人なのは間違い無いんだよね。


「クラスで一番人気の五島さんって自分でも人気者!とか思っていそうだけど・・君に憑いているおじさんの霊すごすぎない?パパ活でもしているの?」


 五島さんの体からは黒々とした悪意の塊が噴出しているし、変な思念体がこびり付いて離れない。彼女はすっごい怒りみたいなものを抱えているし、年取った手のひらが無数に彼女に張り付いているのが良く視える。


「手首から上の霊がエロい感じで撫で回しているんだよね。これって完全に生き霊の手だと思うんだけど、どうしたらこんな事になるの?訳わかんないんだけど?」


 周りの生徒がドドッと大いに騒ぎ出す。


「嘘ばっかり言ってないでよ!本当は霊なんて見えていないんでしょう!」

「えええ?僕が幽霊が視えるとか何とかで、散々大騒ぎしていたのは君たちだよね?だというのに、都合が悪くなったら急にそんなことを言い出すんだ。僕は本当のことを言っているだけなのに!本当に呆れちゃうなあ」


「嘘よ!私に霊が憑いているなんて嘘よ!」

 泣き出す五島さんを無視して僕は自分の席に戻ったんだけど、

「なあ!智充!本当に、本当にお前には視えるのかよ!」

 大森くんが僕の席までやってきて、顔を真っ青にしながら言い出した。


 僕は大森くんの後ろの方へとわざとらしく視線を送りながら、視線を逸らすと、

「さあね」

 と言って、その後、クラスの人間とは必要最低限しか喋らない事にした。


 その後、野島さんのお父さんが浮気していることが発覚し、その相手が愛香っていう名前の人だと判明し、野島家は恐怖の坩堝と化したらしい。


 僕の問題発言後、五島さんが二日間学校を休んだ上に、親が学校にクレームに来たとかで僕は職員室に呼び出される事になったんだけど、

「いや、僕に霊が視えるとか何とか、そういう話になったんで、実際に視えるものについて説明しただけですよ」

 と、僕は担任の先生にそう宣言した。


 幽霊が視えるだの、気持ち悪いだの、なんだかんだ僕が言われるようになったのは一ヶ月も前からのことになる。その事には先生も気がついているし、クラスの悪意が一気に僕に向くような形となっていることにも気が付いていたんだけど、先生はまるっきり無視の状態を決め込んでいたんだよね。


「職員室内で言えば、岡山先生、岡山先生の後ろには若い女性教員の霊が居て、先生に向かってシクシク泣きながら何かを訴え続けています。最近ではテレビのニュースでも年下教師に対するセクハラが取り上げられていましたよね?岡山先生もそういった関係で相手にセクハラ行為を行って、それで取り憑いちゃった生き霊ですかね」


 僕が担任の先生の斜め前に座っている岡山先生に向かってそう言うと、岡山先生はギョッとした様子で誰も居ない後ろを振り返る。


「ピンクのカーデガンを着ている、髪の毛はボブ、耳に翡翠のピアスをしているのが特徴の人ですよ。生き霊ですけど、恨みが強そうです」


 僕の追加の説明で、岡山先生は真っ青な顔で椅子を倒しながら立ち上がる。


「太田先生、太田先生の足元には二体の霊体がしがみ付いています」

 僕は担任の先生の足元を見ながら言い出した。先生の足元には、しがみつくようにして手が四本ぶら下がっているんだよね。


「見捨てられた、守られなかった、そんな思念を感じます。まあ、そういう思念体をくっつけている教師は多いので、先生が特別だって訳じゃ無いんですけどね」


 太田先生は震える指先で自分のメガネを押し上げながら言い出した。


「それで、君は五島さんに一体何を言ったわけ?」


「手首から上の霊がエロい感じで体を撫で回しているって言ったんです。過去に接触があった人の思念だと思うんですけど、体の一部が引っ付いているんですよね。ああ、先生の足には四本の手がしがみついている感じです。生き霊なんですけどね」


 先生の足は若干震えているように見えたけれど、そんなことは関係ない。

 こうして僕は周囲を恐怖のどん底に落とした後で、君島さんが言う通り、幽霊が視えるチャンネルを閉じるための修行をする事にしたわけだ。


「私も実はこれで自分のチャンネルが閉じられたのだが・・」


 君島さん曰く、何かに対して精神を集中してひたすらそれに打ち込み続けると、周囲の雑多な思念体など完全にシャットアウトするようになり、そのうち完全にチャンネルが閉じるようになるんだって。


 君島さんは中学時代、辟易とするようなことが連続して起こる事になり、高校受験に向けて必死に勉強をひたすら頑張るという修行を経て、チャンネルを閉じる事に成功する事になったらしい。


 そう、一旦、チャンネルを閉じられる事になったんだけど、

「私は病院に勤めるようになってチャンネルがガッツリ開いてしまったんだな。オカルト関係の話や事象はチャンネルを開く鍵になるからそれだけは気を付けろよ」

 という事らしい。

 

 中学二年生あたりの思春期に、オカルト的なものに興味を持ったり、自分だけ特別に凄いんだぞと主張したくなったり、破滅願望に陥ったりすることを厨二病って言う(諸説ある)らしいけど、僕はこの時点でバリバリの厨二病を宣言した上で、勉強に没頭する仙人になることを決めたんだ。


 塾は元々行く気がなかったし、一ヶ月に一回届く教材にも、

『塾に行かなくても大丈夫!オンライン授業でサポートをしながら君を志望校に入学させるよ!』

 と、堂々と宣言していたし、実際に追加で二千円払うだけで、提携している塾で模試が年4回も受けられるって言うんだから経済的なのは間違いない。


 塾に行かないことを決意した僕は、とにかく勉強に没頭する事になったんだ。周りなんか関係ない。とにかく模試で高得点を叩き出さないと、お母さんが塾に行けとまた言い出すことになるからね。


 塾に行かないのは僕の意地みたいなものかもしれない。お父さんも、経費を削減した上で(塾の費用は月に5万強、一年で60万強ぷらす合宿費用13万円はお父さんには痛すぎるらしい)最大の効果を発揮するために、自分でも難関問題を何問も解いて説明してくれるようになったんだ。そのうちお父さんは、5教科全部を僕に教えられるようになったんだけど、国立大を出ているんだから、それくらいしてくれて当たり前だろうって思っているよ。だって国立って難しいんでしょう?みんなそう言っているもんね?


 そんなわけで、これだけ勉強していても、周りはほとんど塾に行っている状態で、不安が大きくなることもあったけれど、

「他人は他人、自分は自分」

 と思って、夜の10時半には寝て、朝6時に起きる生活を続けたんだ。一時期は朝5時に起きて勉強づくしとなったけれど・・・

「あああ!塾に行かなくても合格出来た!」

 高校の合格発表の時には、完全に僕のチャンネルは閉じていたってわけさ。



             ***********



 中学生ってオカルトが大好きだな〜と思うんですけど、私自身、急に幽霊が見える奴、変な奴、キモイ!と周りが言い出す現象を、目の当たりにしたことあります。なんで急に?ちゃぶ台をひっくり返すような感じが凄いのと、誰かを落っことして自分を上に上げるマウント気質な悪意が凄いですよね。


次回から大学編!!今月中には終わるので最後までお付き合いいただければ幸いです!

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